特集 アジア戦略 4.0(5)/インドネシア/輝きを取り戻した競争力/素材現地化ニーズに活路あり

2017年03月30日 (木曜日)

 “チャイナ・プラス・ワン”の最有力候補として注目されてきたインドネシアだが、ここ数年は経済成長も鈍化するなど厳しい環境が続いていた。ところが、昨年後半から景気回復傾向が鮮明になってきた。旺盛な消費も続いている。製造業にとって最大の悩みだった人件費上昇も一段落しつつある中、東南アジアの製造拠点としてインドネシアの競争力が再び輝きを取り戻し始めた。

 原油安など資源価格下落による世界的な新興国経済の低迷もあって、インドネシアの実質GDP成長率は2015年に4・88%と5%台を割り込むなど厳しい状況が続いていた。ところが16年後半に入ってから、政府によるインフラ投資の効果が現れ始める。その後、財政悪化から政府支出は尻すぼみとなっているものの、旺盛な消費が続いたことで景気も回復傾向が鮮明になってきた。このため16年の実質GDP成長率は5・02%と再び5%台を回復した。

 こうした中、繊維をはじめとした製造業にとって大きな環境変化となっているのが人件費上昇のペースが鈍化したことだ。従来、インドネシアの最低賃金は事実上の労政交渉によって決定されていたため、ときにポピュリズムから野放図な上昇となるケースが多かった。ところが17年からは新たなスキームが導入され、基本的に最低賃金の引き上げ率は「インフレ率+経済成長率」で決定されることになった。インフレ率も落ち着いているため17年の最低賃金引き上げ率は8・25%となる。

 このため、特に縫製業のコスト競争力が相対的に回復した。現在、インドネシアの縫製業の中心である中部ジャワ地区の最低賃金は米ドル換算で月110㌦台。これに対してカンボジアは既に月150㌦を超えた。労働人口の動態などを含めた総合力では、他の東南アジア諸国と比較してインドネシア縫製の魅力が見直されている。

 一方、課題は依然として現地調達できる素材バリエーションが貧困なことだ。しかし、中国などASEAN域外からから生地を持ち込めばEPAによる非関税メリットを享受できない。そもそも物流インフラに課題を抱えるインドネシアにとって、海外からの素材調達はリードタイムの面でも大きなビハインドになる。このため日系商社を中心に日本向け縫製は素材の現地化が急ピッチで進められている。こうした素材現地化のニーズにこそ、素材メーカーにとっての商機もあると言えよう。

 ここ数年、素材メーカーにとっては旺盛な消費を取り込むためにも内販拡大も大きなテーマであり続けた。しかし、現実には一部企業を除いては大きな成果が上がっていない。当初、カジュアル用途が主なターゲットだったが、厳しい価格競争の前に日系紡織は苦戦を余儀なくされた。現地企業や、中国やベトナムといった他の新興国の生産品との競争が激しい上に、インドネシア独特の事情として密輸品との競合という問題も無視できない。

 こうした中、成果が出始めたのがユニフォーム用途。日本の差別化素材をベースに価格や性能を現地化した商品を提案することで、採用されるケースが出てきた。現地ユニフォームアパレルも提案時の差別化の方法を求めており、そのニーズに対して日系紡織の差別化素材が評価される。インドネシアなどアジア新興国にはユニフォーム文化が根強く存在することも追い風。こうした用途の開拓も日系素材メーカーにとって今後、重要な市場となりそうだ。

 生産・販売の両面でインドネシアの可能性に改めて注目が高まっているといえよう。

〈三菱商事ファッション/今年は真価を問われる年〉

 三菱商事ファッション(MCF)は、インドネシアでの縫製オペレーションで日系紡織の差別化素材を活用するなど主力のSPA向けで素材の現地化を進める。ジャカルタ駐在事務所の井上和人所長は「インドネシア縫製の競争力低下は2016年で底入れした。17年は再度拡大できる。その意味で今年は真価を問われる年になる」と話す。

 インドネシアでの縫製はカンボジアやベトナムなど他のアジア新興国との競争が激化していたが、ここに来てインドネシア縫製の競争力が回復傾向だ。背景には相対的なコスト競争力の回復がある。現在、インドネシア縫製の中心地である中部ジャワ地区の最低賃金は月110ドル台。これに対してカンボジアは月150ドルを超えた。

 一方、最大の弱点は現地で調達できる素材バリエーションが貧困なことだ。このためMCFでは、日系紡織などとの関係を深め、現地での素材調達拡大を進めている。井上所長は「SPAとスポーツアパレル向けで既に成果が上がり始めた」と話す。

 今後も引き続きインドネシア縫製で素材の現地化を進め、重要性が一段と高まっているリードタイムの短縮などに取り組むことで事業の拡大を進める。

〈双日インドネシア/現地素材活用でQR追求〉

 双日インドネシアの繊維部は主力のSPA向け縫製でASEAN域内生産の生地の採用を拡大している。繊維部を担当する上滝準也取締役は「次はインドネシア製生地の活用を進め、要求が強まるリードタイム短縮に取り組む」との考えを示す。

 近年、SPAからはリードタイム短縮などQRへの要求が一段と高まった。このため調達構造の改革として中国製生地からベトナム製生地へのシフトを進めた。ASEAN域内で調達することで経済連携協定による非関税化の利点に加え、リードタイムの短縮につながる。

 今後はさらなるリードタイム短縮のためにインドネシア製生地の活用を進める。そのため現地縫製企業とテキスタイル工場設立を検討する。

 組織体制も変更し、マーチャンダイザーを工場に常駐させる方針。生地の品質管理を強化するためバンドン地区に人員を配置。日本人技術者を活用して検反も強化する。

 一方、SPA向け以外の受注開拓にも取り組み、既に双日ジーエムシー向けに食品白衣の縫製が新たにスタートした。双日ファッションと連携し、生地の備蓄販売「バンセット」のインドネシア版による日本製テキスタイルの内販スキーム構築にも取り組む。

〈TTI/内販、輸出でバランス取る〉

 インドネシア内販で既に大きな成果を上げているのが東海染工グループのトーカイ・テクスプリント・インドネシア(TTI)。2016年度もローカル向けの加工・販売が無地染め、プリントともに好調。輸出も対米がキルト、アロハ用途を中心に回復した。このため加工量は月430万~440万ヤードと前期比15%増となる。

 川本修社長は17年度に関して「ローカル向け加工・販売が全体の70%に達していることから、改めて輸出の拡大に取り組み、バランスを取る必要がある」と話す。米国向けトランクス地など輸出拡大に取り組み、ローカル向けも受託加工ではなく自販を強化する。シャツ・ブラウス地やパンツ地の現地アパレルへの販売拡大を進める。

 省エネ投資も継続し、コスト競争力の強化に努める。石炭ボイラー1台を増設して3台体制とする。

 従来はガスボイラーとの併用だったが、石炭ボイラーに一本化することで燃料コストを削減する狙いだ。加工設備も保有するフラットスクリーン捺染機3台のうち、並幅機だった1台を広幅機に更新。これで広幅機3台体制となる。

〈ユニテックス/評価高まる「パルパー」〉

 ユニチカグループの紡織加工会社であるユニテックスはユニフォーム地への内販やユニチカトレーディング(UTC)との連携を進み、日本向けの先染めシャツ地やユニフォーム地の販売が拡大。強みである独自の複重層構造紡績糸「パルパー」の評価も高まる。

 同社は2015年度に赤字転落したことから16年度は老朽織機の廃棄など構造改革を実施。販売量も拡大したことから16年度は黒字浮上した。

 特に売上高の50%を占める内販はドレスシャツ用先染め織物が主力だが、ここ数年は市況が低迷。このためユニフォーム用途の開拓を進め、16年度は大口案件も受注した。UTCへのワーキングユニフォーム用生機や先染めシャツ地の販売も拡大。売上高に占めるUTC向けの比率は35%まで高まった。強みになっているのがパルパー。ローカル品にない機能や風合いが差別化要素として需要家に評価されており、受注拡大につながった。芦田直彦社長は「17年度も『ユニフォーム用途への転換』『UTCとのシナジー追求』『パルパー活用』の3戦略で増収・大幅増益を計画する」と話す。

〈クラボウグループ/収益性向上へ改革加速〉

 紡織のクマテックス、縫製のアクラベニタマ(AKM)で構成するインドネシア・クラボウグループは収益性向上への改革が加速している。

 クマテックスの2016年度業績は、生機販売がユニフォーム向け堅調も、カジュアル向けが市況低迷で低調だった。それでも紡績はフル操業を続けており、織物も老朽織機を廃棄するなど合理化を実施。木村浩一社長は「織物もフル操業にこだわらずに利益が出るように体質改善が進んだ」と話す。

 17年度はインドネシア内販の拡大を目指す。バンドンのニッター向けにピマ綿使いや綿合繊混紡糸など差別化糸の提案などを既に進めている。クラボウ本体の原糸販売との連携も深め、クラボウのグローバル原糸販売への供給を拡大する。織物も低環境負荷栽培の「BCIコットン」やGOTS認証のオーガニックコットン使いなど差別化品提案を強化する。

 AKMも16年度業績は黒字を確保した。中部ジャワ地区の協力工場網整備が成功しており、辻本雪雄副社長は「生産ロスを抑えることで最終的なコスト競争力がある点で評価は高い」と指摘する。ローカルの熟練縫製工を協力工場に派遣指導する取り組みが成功した。

 17年度も中部ジャワでの展開を強める。年内に専用ラインのチャーターも開始する。昨年末に自動裁断機も本社工場に導入。裁断工程を本社工場に一元化。生産品種も学販ニット、ユニフォーム、白衣に加え、新たにドクターコートの生産も始める。

〈TYSMインドネシア/差別化素材の活用進める〉

 豊島のインドネシア子会社、TYSMインドネシアは差別化素材を活用した生地・製品開発・提案を強化している。岡部良輔社長は「インドネシアでの生地・縫製品事業は特化したモノ作りでないと通用しない」と強調。プロダクトアウト型の提案が可能な組織・体制作りを進める。

 テキスタイル販売は他のアジア諸国の生産品などとの競争が激しい。このため差別化素材を活用した商品開発と提案に力を入れ、インビスタとの取り組みで涼感ポリエステル「クールマックス」などを活用した素材提案を進めた。ポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維使いの開発も進めたことで2016年度は成果が出始めた。

 従来はインデント取引による調達・販売が主流だったが、開発スピードを速め、QRを実現するために17年度も一部の特化わた・糸・生機を自前で備蓄する取り組みを開始する。さらにインドネシア縫製の競争力が回復しつつあることから縫製品事業も強化。精製セルロース繊維「テンセル」やPTT繊維使いなど差別化素材活用を進める。「プロダクトアウト型の提案ができる組織・体制を作る」ことを目指す。

〈蝶理インドネシア/ウラセ・プリマと連携〉

 蝶理インドネシアは稼働が本格化した染色合弁、ウラセ・プリマと縫製品事業の連動を進める。2017年度について田中裕司社長は「ウラセ・プリマの稼働をいかに利益につなげていくかが課題」と、加工バリエーションの拡大に合わせて、縫製品事業でウラセ・プリマの加工反の採用を高める。

 ウラセ・プリマが昨年10月から本格稼働。現在はブラックフォーマル地のほか中東向け織物(白クリーム)、無地染めなどのポリエステル長繊維織物を月産35万~40万メートル規模で加工する。一方、縫製品事業は婦人フォーマルウエアが月産6千セット前後の規模となり採算ラインにも乗った。田中社長は「現在は7ラインでの生産だがフル生産。さらに拡大を検討する」と言う。ウラセ・プリマの加工品を使用するケースも増え、使用する生地の約50%がウラセ・プリマの加工品となった。

 このため17年度はウラセ・プリマの無地染めの品種を拡大し、ユニフォーム用途などで販売拡大を進める。縫製品事業でウラセ・プリマの加工品の使用率を高め、婦人フォーマルに加えてゴルフパンツなどスポーツ分野の拡大を進める。