2017春季総合特集(48)/豊島/社長 豊島 半七 氏/顧客ニーズに的確対応/国内外で市場開拓を強化

2017年04月27日 (木曜日)

 豊島の2017年6月期はほぼ計画通りに着地できる見通しだ。しかし、豊島半七社長は「この数年、利益水準が変わっていない。このまま踊り場が続けば、下降に転じる可能性がないとは言えない」と述べ、顧客ニーズに的確に応えるという「やるべきことをやる」との基本を徹底する考え。環境が常に変化し続けるが、それに対応して「ビジネスの手法を変えることができる」体制を構築し利益拡大を目指す。

  ――初めに、繊維事業の半歩先を考えたときに、見過ごせない状況変化とは何だとお考えですか。

 人口の構造、年齢構成の変化です。特に団塊の世代が70歳前後になり、日本の年齢構成は大きく変化していますし、それがさまざまな影響を与えています。これに伴い消費構造も変化しています。

 例えば、幼い頃からゲームや携帯電話、スマートフォンに親しんだ世代は考え方も違います。

 消費にしても彼らは店頭でモノを見て、手にしてから購入するのではなく、パソコンやスマートフォンを通じて、製品を購入するようになっています。

 つまり、日本は年齢構成の変化によって消費構造が大きく変わってきています。これに対応する形で、インターネット通販をはじめとする新しい業態も生まれています。もしかすると、数年後にはパソコンも不要になる時代がやって来るかもしれません。

  ――世界的に政治や経済なども変化し続けています。

 自助努力では変えようがない事象に対しては一喜一憂しないことにしています。為替相場の変動が原材料価格に大きく影響したとしても、それは仕方がないことです。

  ――そうした環境変化が起こるなかで、2017年6月期の業績見通しはいかがですか。

 ほぼ当初計画通りに終えられそうです。売上高は目標に対して若干微妙なところはありますが、利益目標は達成できる見通しです。ただ、利益の成長ができていません。

  ――今期の特徴は何でしょうか。

 前期、相場下落の影響を大きく受けた綿花ビジネスが、今期は需要旺盛で売り上げ面で回復したことは一つの特徴と言えるでしょう。

 一方で、テキスタイル事業や製品事業は伸び悩んでいると捉えています。

  ――昨今の日本での衣料消費低迷が影響しているのでしょうか。

 いいえ、外的な影響ではなく、要因は全て当社の中にあります。素材にしろ、製品にしろ、顧客の皆さまのニーズに的確に応えきれていないからです。つまり、当社がやるべきことができていないということです。

 いつも言っているのですが、やるべきことができていないことが、利益に表れています。当社の利益水準はこの数年大きく変わっていません。もし、このまま利益水準の踊り場状態が続いていけば、いずれ下降に転じる可能性がないとは言えません。

 利益が伸びていないのは、実に結び付いていないということです。当社のエネルギーの使い方が違う、あるいは力の入れ方が違うのかもしれません。

 もちろん、少数ですが、頑張っている営業部署はいくつかあります。しかし、全社的に考えるとできていない。

 頑張っている営業部署にしても業績は良いかもしれません。しかし、やるべき課題に対して何割かはできていても、全ての課題をクリアし、100点を取れているわけではありません。

  ――オーガニック綿の普及を目指す「オーガビッツ」や廃棄野菜・食材を染料として再利用する「フードテキスタイル」などの環境素材、また「オブレクト」「キャントン」「コハン」自社製品ブランドについてはいかがですか。

 まだまだ商いの単位になり切れていません。こうした新しいことを手掛けてはいるのですが、展開力に乏しい。スピードアップを図る必要があります。

  ――13年には営業企画室を設けて、素材部門と製品部門が連携した原料から製品までの一貫商品開発も強化しています。

 一貫生産は各社が指向している戦略ですし、今では当たり前になってきました。もちろん、当社でも一貫生産による開発品は増えてきていますが、まだまだ満足できる水準ではありません。

 その中で、いかに差別化できるかです。新しい切り口として素材から一貫開発による製品は市場から求められていますので、その面では次に何を打ち出せるかが重要です。それを生み出した企業は伸びていくと考えています。

 また、衣料品市場における当社のシェアは微々たるものに過ぎません。市場全体が縮小したとしても、大きな影響があるわけではありません。しかも、一般的に衣料消費が不振と言われますが、実際に伸びている企業もあります。ですから、当社にとっては開拓の余地があるということです。

  ――海外市場の開拓についてはいかがですか。

 部分的には伸びているのですが、全体として伸びが小さいですね。国内市場の将来性を考えると、新しい商権として、中国をはじめとする東アジアや欧米などの海外に目を向けるのは当然の流れです。引き続き海外の販路開拓に取り組んでいきます。

  ――中国は経済成長が鈍化する中で、価格的に厳しくなっています。

 しかし、中国は購買層が日本の何倍もいるのですから、伸ばす余地はあるはずです。欧米にしてもさまざまな展示会に出展してきましたし、これからも継続して取り組んでいきます。ただ、これまでは個々人に依拠する形になっていましたので、組織として取り組むという全社体制で顧客開拓に臨みます。

  ――ところで18年には設立100周年を迎えます。

 通過点です。特に何かを考えているわけではありません。今までできていない課題を着実にこなしていくだけです。

 100周年であろうと、単年度であろうとそれは当社の事情であって世の中が変わるわけでもありませんし、顧客の皆さまには関係のないことです。顧客の皆さまとの取り組みを、当社の事業年度で区切るわけではありません。

 ですから、当社はこれまで中期計画の数値目標は作ったことがありませんし、これからも作る考えはありません。事業環境があっと言う間に変化していますし、前提条件はすぐに変わってしまいます。その中で定量的な目標は設けても仕方がありません。

 もちろん、定性的な課題はあります。しかし、それも先ほど申し上げたように3年間など期限を設けるものではありません。環境が変化すれば商いのやり方を変える。そうした事業体制を目指していきます。それができれば利益を伸ばすことが可能と考えています。

 国内、海外とも基本は顧客のためにどうすれば、よいのかを考えるということです。組織体制・人員配置もそれを最重点に置いています。顧客のためになるよう、やりやすい形にするにはどうすればよいのか、それのために体制を変えることはあります。特に製品事業はこれに尽きます。

 とよしま・はんしち 1977年東海銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。85年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て2002年から現職。

〈思い出の味/母の愛情がしみている〉

 豊島さんにとって、思い出の味は“お母さんの手料理”。中でも小学生の時に作ってもらったお弁当とおせち料理の中にあった鰆の照り焼きが忘れられない。鰆の照り焼きは柔らかさ、味加減とも「どんな料理屋よりもおいしい。母の照り焼きが一番」と言う。お弁当は遠足に行く際には必ず作ってもらった。錦糸卵、鮭、海苔、紅ショウガの「微妙な取り合わせが大好き」だった。遠足にはいつも同じものをお願いするほど大好きだったという。「食べる時には弁当が冷えており、ご飯におかずの味が微かにしみている。これは家では食べられない」。恐らく、しみているのは味だけではない。お母さんの愛情も。