ジーンズ別冊17SS(2)/Discussion ジーンズ座談会/それでも欲しくなるデニムとは

2017年03月27日 (月曜日)

 ジーンズ業界の取り巻く環境は厳しさを増すなか、デニムはトレンドとして確固たる地位を築き始めているのも事実である。デニム認知が浸透するなか、再度「それでも欲しくなるデニム」とは何か。ジーンズ業界の各方面で活躍される有識者たちに、昨今のトレンドをはじめ、今後のデニムの可能性をうかがった。

  ――今回は、バイヤー、専門商社、ジーンズプロデューサーとそれぞれ立場の異なる方々に集まっていただきましたので、簡単に自己紹介をお願いします。

 坂井氏(以下敬称略) 伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店、三越銀座店を中心に全国で約20店舗の婦人部門の買い付けをしています。国内はもちろん、直接海外に赴いて買い付けするほか、自社のプライベートブランドのモノ作りにも携わっています。2016年度から、当社にデニムだけにフォーカスしたバイヤーが新設されたことで、毎日デニムと携わる仕事を行っています。

 佐藤氏(同) 入社して24年間、ジーンズ一筋でやってきました。SCブランド、ジーンズ小売店向けのOEMを中心に行っているほか、本格国産ジーンズ第1号で知られる「CANTON」(キャントン)を2008年に「CANTON OVERALLS」(キャントンオーバーオールズ)として復活させました。現在も同ブランドのディレクターを担当しています。

 本澤氏(同) ジーンズ業界に入ったのが1989年で、今年で28年目になります。ジーンズメーカーに16年働き、その後独立して12年を迎えます。仕事は多岐にわたり、自分のブランドの展開をはじめ、ディレクター、プロデューサー、コンサルティングなどジーンズに関わることはいろいろと携わっています。縫製、加工、付属など15社の日本人チームを作って仕事をしています。

  ――本澤さんの「ドクターデニム」にはどういった意味があるのでしょうか。

 本澤 企業と契約し、私が指示することで悪い部分を治療すると言う意味でドクターデニムを名乗っています。デニムが売れない会社は必ず理由があって、そこを見つけてあげる。特に、デニムをファッションスタイルの中で売ろうとするから、デニム単品で見たときの中身がない。ジーンズ専門の立場で商品の発想を膨らませ、原因を治して、良いものに変えていきます。

 ちなみに治療の中で一番初めにすることはジーンズを見るのではなく、治療する会社の概要や経営者の性格を見ていきます。そうした部分を理解した上で治療方法を考えます。

  ――近年のジーンズトレンドはどうですか。

 坂井 婦人は見え方にこだわる人が多く、特にトレンドを追う人はシルエットを意識する傾向が強い。ワイドのハイライズシルエットは店頭でも動きは良いです。カットオフなど裾部分の変化に反応する顧客も少なくありません。

〈価格と価値のバランス重要(坂井氏)〉

 素材感で言うと、機能性やストレッチとは相反した綿100%のヘビーオンスの生地、リペア加工を施したものなどジーンズならではの質感のものに好反応を示す顧客が以前より増えているのは確かです。少し前までのストレッチジーンズ一辺倒から顧客ニーズが多様化しているようです。

 佐藤 撥水(はっすい)ジーンズといった機能素材を使ったものが目立ちます。近年ジーンズ業界は、スポーツやアウトドアの要素が合わさったものなどクロスオーバー化が進んでいます。1970~80年代の素材感を意識したジーンズなど天然繊維志向も需要としてありますが、量的には少ない。特にメンズでは、シルエットが細身に向かっており、ストレッチは必須です。メンズ向けのほうがスキニーシルエットを好む傾向にあると感じます。

 本澤 以前は、女性がストレッチ、メンズは綿100%を好む傾向にありましたが、今やメンズとレディースのトレンドは逆転しています。この逆転現象は米国でも同じで、自分の体の線を出すスキニーとボーイフレンド、ガールフレンドの市場がはっきりと分かれています。

  ――ブルージーンズが苦戦気味のなか、あえて欲しくなるジーンズの条件とは。

 坂井 量で売ることを考えると2万円以内の価格設定が一つの目安かと。最近では洋服に使うお金も減っているみたいで、たとえ、作り手の思いが強くても3万~5万円の商品を販売していくのはハードルが高くなっているように思えます。

 顧客の購買傾向を見ても、デニム単体で買うのではなく、全体のファッショントレンドやスタイリングをイメージして購入する顧客が多い。デニム起点で全体のスタイルを意識した商品作りが必要と感じます。

 実際にあるラグジュアリーブランドが展開するワイドシルエットのジーンズは高額ですが、シーズンで40~50本売れるそうで、ブランドの世界観がうまく表現されたデニム商品は訴求力があると言えます。

 機能性素材を使った商品も多く出回っていますが、依然として顧客のニーズが高い。とはいえ、新しい技術が出るにつれ、商品の価格も上がっていく。最近の顧客の懐事情を考えると、価格と価値のバランスを取ることも求められるでしょう。

 佐藤 トレンド感や素材感、加工感、シルエット、値段、ブランド力のバランスが鍵になってきます。最近の若年層はジーンズを長期間はくという考えはなく、トレンドアイテムの一つとして見ており、安くないと売れない傾向が続いています。

 そうした中、当社ではブランド力の発信を強めています。2008年に復活させた「キャントンオーバーオールズ」も9年目を迎え、昨秋にオリジナル開発デニム素材使用の「1963XX」シリーズという当社が想定する最高級デニムを打ち出しました。ビンテージ感にフォーカスし、価格もファイブポケットジーンズやGジャンは3万円台というかなり強気の値段設定で挑みました。こうしたブランディング化も価値の追求を目指す上で必要です。

 本澤 売れる商品を作るには値段、販路、価格帯、コンセプトなどさまざまな要素が必要です。その中でバイヤー含め売り場に携わる人と入念に話し込み、顧客ニーズをつかむことが大事。市場の隙間を突いた顧客ニーズと販売戦略を絡めながら、ブランディング化を進めていくことが売れ筋を作るカギだと思います。

 売り方の変化も必要です。まだ誰も狙っていない客層に向けた提案の一つに中高年向けのジーンズが挙がります。ミセス向けジーンズはありますが、中高年のために考えたジーンズは今のところありません。高齢化が進む国内事情を踏まえても、潜在市場だと考えています。

 ジーンズ専門店を作ることも取り組みとしてあってもよいのでは。タビオが展開する店舗「靴下屋」のように、ジーンズだけを売る専門店を作るのも面白いです。売り方の改革は新しい消費も期待できます。そのためには、ジーンズをオフィスではける環境作りも今後は重要な要素となってくるでしょう。

 坂井 「プレミアムフライデー」(月末金曜日の終業時間を通常より早め、個人消費を喚起する取り組み)が今年始まりましたし、その日はジーンズで出勤できるようにするのもアイデアの一つです。

〈コトを絡めた企画も期待(佐藤氏)〉

 佐藤 コトを絡めた提案も面白いと思います。当社はオーガニックコットンを通して社会貢献とビジネスを両立するプロジェクト「オーガビッツ」を展開しています。「使うことで地球に優しい」など社会貢献になるだけでなく、例えば寄付活動につながるとか、コトと絡めることも重要だと思っています。コトを背景においた企画も必要です。

  ――昨今、デニムはトレンドアイテムから、定番アイテムに変わりつつあり、ファッションにとどまらず、他業界への広がりも目立ちますが。

 坂井 デニムの生地を使ったリビングアイテムは顧客からの関心も高い。色落ちなど物性面でクリアしないといけないハードルはありますが、インテリア分野など仕掛け方次第でまだまだ可能性があると思います。

 佐藤 元々、デニムのルーツは作業着です。当社でも7年前から栃木県で和綿を育てており、それを使ったデニムトラウザーズを作っています。作業着としてだけでなく、仕事後でも活用できるようにスタイリッシュに仕上げいます。

 また、建設作業現場ではくニッカボッカはダウントレンドかもしれませんが、薄いデニムを使って作れば、汚れも良い味となって格好良いスタイルに変わると思います。

 ワーキング業界も以前は、ストレッチやデニム素材の使用は認められないなど制約がありましたが、ここ数年でかなりカジュアル化が進んでおり、ワーキング業界へのデニムの提案は需要拡大に期待が持てます。

 本澤 クッションカバー、筆箱などデニム素材の商品は着実に広がっています。ただ、意外と展開している会社が少ない。デニムを使ったアイテム展開はまだまだ可能性に満ちていると思います。

 坂井 ほかにも、デジタルを活用するのも面白い。何かの動作をすれば色が変わるとか、近い将来とは言えませんが、可能性を閉ざしてはいけない分野だと思っています。確実に世の中にデジタルは浸透してきているし、デニムにとどまらず、ファッションとデジタルの融合は可能性の一つです。

  ――繊維業界は生産機能の衰退が顕在化していますが、ジーンズの生産背景の状況はいかかがですか。

 本澤 そこに関しては懸念しているところです。縫製工場もこの先、日本国内で残る保証はありません。中には縫製を機械で行うといった工場の無人化を考えている企業が存在するほどです。自動でジーンズを縫製する体制を迫られるほど縫製現場を含めて、日本でのジーンズ作りが難しい状況にあります。

 加えて、クリエーターの分野でも人材が不足しています。全体的にジーンズに携わる人は減っているのが現状です。かつては、ジーンズについての教育を担っていた国内のジーンズメーカーの衰退が大きいでしょう。

 そうした土壌がないと、クリエーターも育たない。業界内で革新的なことをする人がいなければ、新しい魅力を伝えることもできないのも当然です。業界内での人材育成は急務だと考えています。

 佐藤 人材不足の問題で言うと、デニムで活躍できる場もなくなってきていることも事実です。海外で素材開発、縫製、洗い加工などを指導する仕事はありますが、日本国内は少ない。そうした活躍ができない環境も業界内の人材不足を生んでいると言えます。

 本澤 ただ近年、いろいろな企業が実際に現場に行って正面からモノ作りしたいという意欲が出始めているのも確かです。こうした姿勢が増加傾向にあるのは、良いことだと思います。

 佐藤 今後も日本の職人技や感性が生かされた商品は残していかなければならない。人の手が加わることで付加価値を生み出す日本人の匠の技は継承していく必要があります。

  ――坂井さん、「日本製」は付加価値として顧客に伝わるものですか。

 坂井 正直、日本製を優先的して購買する人が多い訳ではありません。それでも、メード・イン・ジャパンを気にする人がいることも確かです。例えばゲストリストのブランド「RED CARD」(レッドカード)だと品番に職人さんの名前が入っていて、顧客の反応は良いです。購入時にどの職人が手掛けたものなのかと会話が弾むそうで、モノ作りの背景を知りたがる傾向がうかがえます。

 同時に職人の名前を入れることで、顧客の商品に対する安心に結び付いているようにも思えます。販売員のセールストークとしても使える。日本製をうたうことは、購買意欲をそそる材料の一つだと言えるでしょう。

 本澤 生産者の名前を出すことで、開発者にも責任が生まれる。良い意味でプレッシャーとなってモノ作りに対する思いも強まります。

  ――厳しい状況が続くジーンズ業界ですが、そういった時だからこそ、新たな仕掛けが必要だと思うのですが。

〈厳しい時こそ業界団結も必要(本澤氏)〉

 本澤 例えば、日本でものを作るときに売り場のことが分かる坂井さんと連携して、国産の良いジーンズを作ろうという会話になっても面白いと思っています。厳しい時代だからこそ、業界が団結して取り組み始めていくべきです。

 佐藤  徳島県に「BUAISOU」という藍染め職人の集団があります。20代~30代の若手が栽培から染めまで手掛けており、そうした人と連携した取り組みも面白いです。地方創生が目立っていることを考えれば、地元の町おこしと絡めた仕掛けも可能性はあります。

  ――本日はありがとうございました。

〈登壇者〉

ドクターデニム ホンザワ 社長 本澤 裕治 氏

豊島 東京本社 東京三部三課(ジーンズカジュアル課)課長 CANTONディレクター 佐藤 健二 氏

三越伊勢丹 婦人・子供統括部仕入構造改革商品部 デニム バイヤー 坂井 良次 氏