特集 差別化ヤーン/糸段階からの差別化を支える企業

2017年09月05日 (火曜日)

 店頭に並ぶ繊維製品の同質化が問題視されるなか、糸段階からの差別化が再び注目されている。糸提案に力を入れるメーカー、商社の戦略を紹介する。

〈東洋紡STC/200キロから別注糸生産/特殊糸の備蓄販売も拡大〉

 東洋紡STCが、東洋紡の入善(富山県入善町)、井波(富山県南砺市)の両紡績工場で生産している糸の販売規模が拡大している。現在、両紡績工場が生産する糸の30%ほどを、西脇・一宮・新潟・遠州・桐生などの生地産地や、今治などのタオル産地へ販売している。

 継続使用している原料を使う場合は、顧客仕様の糸の生産に200キロから対応する。新規の原料を使う場合も、「原料1俵使い切り」を条件に別注に応じている。短繊維と長繊維を均一に混繊する「マナード」紡績技術を用いたポリエステル長繊維・レーヨン短繊維複合糸の別注が増加しているという。0・6デシテックス(T)という世界最細クラスのポリエステル短繊維を使って昨年発売した糸「スレンダーシックス」も好評だ。0・6Tのポリエステルを使った不織布はあったが、細すぎるため紡績することは難しかった。入善、井波工場の技術でそれを可能にした。シャツ、ハンカチ、タオル素材としての別注が増えている。

 3、4年前から、「マスターシード」などの純綿糸4、5種や機能糸の備蓄販売も開始した。この販売規模が年々拡大している。マスターシードは、「シーアイランドコットン」と「ピマ」の交配種綿を使った糸。米ニューメキシコ州立大学と東洋紡が同綿を共同開発した。

 タオル用としては、マスターシードに加え、「金魚」も備蓄販売している。金魚は東洋紡創立間もない1918年に誕生した綿糸ブランド。それをタオル専用糸として復活させた。加えて、日本エクスラン工業と共同で、抗菌アクリル混糸「金魚AG」もタオル糸として商品化し、6月に発売した。

〈シキボウ/シルケット糸拡販へ/日本唯一の連続方式で〉

 シキボウの糸生産拠点としては、富山工場(富山市)とベトナムの協力工場が有名。しかしそれだけではない。子会社のシキボウ江南(愛知県江南市)も糸の重要な生産拠点だ。

 シキボウ江南は、織布・編み立て・染色加工に加え、糸の連続シルケット加工も行っている。この加工を行っているのは日本で同社だけだという。シキボウは同加工糸を「フィスコ」ブランドで、婦人ポロシャツ向けなどに供給している。

 糸のシルケット加工には、シキボウ江南の連続法と、綛(かせ)状態で行う方法の2種ある。シキボウによると連続法の方が、光沢が増し、発色性も高く、加工むらも少ないという。この特長を生かし、靴下やレース用途へも拡販する方針だ。

 技術指導しているベトナムの協力工場1社を活用しては、精紡交撚糸「デュアルアクション」などを生産している。これまで生産してきたデュアルアクションは、綿100%、綿70%・「モダール」30%混、綿70%・アクリル30%混の3種で、前2者で60番双級と76番双級を、後1者で60番双級と72番双級をそれぞれ備蓄販売している。今後、これら3種の全てについて、100番双級糸も備蓄販売する。

 富山工場では、抗ピル性、清涼感に優れた特殊紡績糸「ドラゴンツイスト」などを生産している。ドラゴンツイストでは、綿100%はもちろん、綿・リネン混、綿・ウール混、ポリエステル100%、ポリエステル・リネン混、ポリエステル・ウール混、「モダール」100%の実に7種をそろえる。カットソー製品向けが中心で、タオルにも採用された。靴下用途へも提案している。

〈新内外綿/大阪、東京で展示会/顧客ニーズを改めて収集〉

 新内外綿は9月14、15日にシキボウビル(大阪市中央区)で、10月12、13日に同社東京オフィス(東京都渋谷区)で展示会を開催する。糸の多品種小ロット生産機能や新開発糸をアピールすると同時に、顧客のニーズを改めて収集することを狙う。

 両展示会で、村田機械の渦流精紡機「ボルテックス」で作った、精製セルロース繊維「テンセル」100%のメランジ糸(多色霜降り糸)を披露する。紡績子会社のナイガイテキスタイル(岐阜県海津市)にボルテックスを1台初導入し、昨年10月に稼働させた。今年2月に愛知県一宮市で開催された「ジャパン・ヤーン・フェア」で、同機で紡績した綿100%のメランジ糸を披露。テンセル100%のボルテックス・メランジ糸はこれに続くもの。

 テンセル100%のメランジ糸としては、リング精紡機で作ったタイプを「ビスコチェント」ブランドで備蓄販売している。これにボルテックス版が加わることになる。ビスコチェントではドレープ性があり過ぎると感じていたユーザーに注目されそうだ。グレー色を中心に、30、40、60番手糸を備蓄する。テンセル・綿混のボルテックスメランジ糸についても、同様の品ぞろえで備蓄する方針だ。

 両展では、コンパクト精紡機によるメランジ糸も披露する。生産は協力工場で行う。毛羽の少なさを求めるユーザーに対応するのが狙いで、これについても備蓄販売する。

 同社は、各産地のニーズを改めて聞くことを重視しており、11月8、9日に金沢市で開催される「北陸ヤーンフェア」に初出展することも決めた。

〈豊島/毛糸初の自社ブランド/スペイン産綿糸も新展開〉

 豊島は梳毛糸、綿糸など天然繊維使い、化合繊糸など幅広い原料を取り扱う一方、差別化糸の販売にも力を入れる。

 一宮本店一部は梳毛糸はじめ定番毛糸のほか、フランス産やアルゼンチンなど南米産の羊毛使い、インビスタのナイロン66「コーデュラ」との混紡糸を販売するほか、このほど自社ブランド糸の販売も始めた。

 自社ブランド糸は再生ウールを使用した「アップレクション」とノンミュールジング羊毛使いの「ローバー」(仮称)。同部が自社ブランドを設けるのは初めて。

 欧州を中心として環境問題や動物愛護に対する意識の高まりに対応したもので、アップレクションは再生ウールを使用しながら、機能合繊との組み合わせもラインアップする。

 「再生ウールからスタートするが、他の再生原料にも広げていきたい」(伊藤彰彦一部長)と言う。ローバーはニュージーランド産のノンミュールジング(子羊の臀部の皮膚と肉を切り取らずに育成した)羊毛使い。ノンミュールジングは「欧州だけでなく、中国でもニーズが高まっている」。

 二部は定番綿糸に加え自社ブランドによる差別化糸を備蓄販売する。差別化糸ではサイロスパン精紡によるコンパクト糸「スプレンダーツイスト」、スペイン産ピマ綿を使いサイロスパン精紡による甘撚り糸「サンリットメローズ」などに力を入れる。

 スプレンダーツイストは前期から販売を開始した。合繊ライクな表面感、先染めによる奇麗な色目、シャリ感などの特徴が好評でニット、織物双方向けに販売する。糸種は24、35、45、55番手。今年から綿100%に加えウール混紡糸やナイロン混紡糸の備蓄販売もスタートした。

 サンリットメローズは今年から展開するもので、原料手配から撚り係数までこだわった綿糸だ。8、18、28、38番単糸を備蓄し、織物、丸編み地向けに投入する。

 「スーピマ」単一混コーマ糸「エタニティーSP」を除いた二部の差別化糸比率は現在10%だが、「需要家、消費者目線での開発を進め、さらにバリエーションを拡充し、差別化比率を高める」(天野裕之執行役員二部長)。

〈モリリン/合繊との取り組みに強み/PTTやキュプラ混など〉

 モリリンのマテリアルグループは、合繊メーカーなどとの取り組みによる独自の差別化糸開発に定評がある。

 差別化糸比率はブランド名がないものを含めて実に40%。水谷智廣マテリアルグループ統括部長兼素材2部長は「伝統として、オリジナル素材を開発し発信してきた。それは今後も変わらない」と語る。素材からの打ち出しを強める繊維商社は多いが、原料を含めて一から紡績糸を開発できるという面では、真に素材に強い商社とも言える。

 差別化糸の中でも18春夏シーズに向けて特に力を入れるのは「ネオリネンソロ」と「ポルカ」。

 ネオリネンソロはフランダース地方で栽培された上質のリネンと帝人フロンティアのポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス」混。リネン80%、ソロテックス20%から成り、毛番の29番を販売する。当初は精紡交撚糸で展開していたが、品質面での問題もあったことから撚糸に製法を変更。18春夏向けから改めて本格販売する。

 ポルカはキュプラ繊維とポリエステル・レーヨンの混紡糸だ。ファッションアパレル事業本部傘下の各製品グループだけでなく、マテリアルグループでの糸売りにも力を入れる。6月に開催した春夏総合展示会でも人気を博したポルカはこれまでニットが先行していたが、「3年目に入り、織物の開発が進んでいる」。同グループではニット用は綿番手の40番手、織物用は60番手を中心にラインアップする。ポルカに使用するポリエステルはペットボトルから再生したわたを使用し、キュプラ繊維を含めてエコ素材としても打ち出せる。

 さらに18春夏向けからは、キュプラ繊維50%・ポリエステル50%というキュプラ高混率紡績糸もアウター向けに投入する。糸種は綿番の50番手が中心。他用途向けに開発したものだが、アウター用にも展開する。

 差別化糸の開発に取り組む一方「海外発信も課題」として、上海茉莉林紡織品に置くマテリアルグループ直轄の上海マテリアル部と連携。差別化糸を使った産地企業品やコンバーター品の中国内販にも取り組む。

〈泉工業/ストレッチラメを開発/透けるラメ糸「ピカスケ」も〉

 ラメ糸メーカーの泉工業(京都府城陽市)は、このほどラメフィルム自体が伸縮するストレッチラメを開発した。その他にも織物にした際に生地が透けるラメ糸も開発するなど、独自性のあるラメ・ラメ糸の提案に力を入れる。

 ストレッチ性のあるラメ糸は、弾性糸にラメスリットヤーンをカバーリングする方法が一般的だが、こうした糸は伸縮を繰り返すことでカバーリングしたラメがほどける、緩むといった課題があった。

 これに対して泉工業がこのほど開発したストレッチラメは、ウレタンフィルムに金属を蒸着させ、これをスリットすることでラメスリットヤーン自体が伸縮する。蒸着する金属も特殊なものを採用し、伸縮による金属膜の割れ・剥離などが起こらないのが特徴。

 このためラメスリットヤーンを撚糸せずにストレッチ織物などに織り込むことが可能になった。まずは細幅織物への提案を進める。

 もう一つユニークな新商品が透けるラメ糸「ピカスケ」。金属蒸着ではなく光を乱反射することで光沢感が出るポリエステルフィルムをスリットした。ラメに一定の透過性があるため、織物にすると透けるなど従来のラメ糸にはない新しい表現が可能となる。

 金属非使用のため、高周波ウエルダーによる溶着も可能。このため衣料だけでなく資材用途でも新たなニーズを掘り起こすことを目指す。

 これまでも後加工対応ラメ糸など独自性のあるラメ糸を世に送り出してきた泉工業。今後も世の中に無いラメ糸を開発することで、ラメ糸の用途開拓に取り組む。