特集 商社原料・テキスタイル/協業による開発戦略加速/糸、生地輸出も本格化へ

2017年09月11日 (月曜日)

 商社の原料・素材事業の成否は独自性の発揮に大きく左右される。昔ながらの右から左へのトレーディング機能は薄れ、独自開発品や自社ブランドによる「顔の見える」原料・素材事業が展開されている。鍵を握るのはメーカーとの協業や出口戦略。出口戦略としては海外市場も有力だ。主要商社の原料・素材事業の今を追う。

〈生産機能と相乗効果/原料からニーズに応える/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアの衣料繊維第一部門繊維素材本部は、ポリエステル繊維の生産機能が帝人から移管されたことで原糸・テキスタイル販売で相乗効果の発揮を目指す。

 繊維素材本部は、原糸販売の原料部、国内外スポーツアパレル向け素材販売のテキスタイル第一部、中東民族衣装用織物と欧米ファッションアパレル向け輸出のテキスタイル第二部、ユニフォーム素材販売のユニフォーム部で構成する。東政宏本部長は今期の重点戦略として「ポリエステル繊維の生産機能が帝人フロンティアに移管された効果を打ち出す」と話す。

 原料部やテキスタイル第一部は需要家との取り組み型ビジネスが主流のため、原料からニーズに応える商品開発・提案を進める。海外スポーツアパレル向けに高バランスニット素材「デルタ」のヒットが続くなど成果も出ていることから、こうした取り組みをさらに強める。

 テキスタイル第二部はエンドユーザーであるアパレルブランドとの接点を増やすと同時に、「産地で生産した生地を売る部署でもあるので、原糸販売とも連携し素材を軸にした提案を進める」。

 ユニフォーム部も人員も増強し、反転攻勢に出る。ワーキング、オフィス・サービス、学生服、白衣など用途ごとに戦略目標を策定するなど営業体制を強化した。特にファッション性と機能性を融合させた商品開発・提案に力を入れる。そのためスポーツ素材やファッション素材を扱う他部署との連携も重視する。

〈備蓄販売で糸売り拡大/シャツ地は安定供給狙う/東洋紡STC〉

 東洋紡STCは3、4年前から、紡績糸の別注生産に加え、備蓄販売も開始した。これにより糸売り規模は拡大している。織物販売では、主用途の一つであるドレスシャツ分野に向けて、特化素材を特定ユーザーへ安定供給するというスタンスで臨んでいる。

 備蓄販売している糸の一つは、「マスターシード」。米ニューメキシコ州立大学と東洋紡が共同開発した、「シーアイランドコットン」と「ピマ」の交配種の綿花を使った糸だ。タオル専用糸の備蓄販売にも力を入れており、純綿糸を、東洋紡創立間もない1918年に誕生した綿糸ブランド「金魚」を冠して販売している。日本エクスラン工業と共同で、抗菌アクリル混糸「金魚AG」も開発した。

 糸の別注にも、同社が継続使用している原料を使う場合は200キロから対応する。新規原料使いの別注にも、「原料1俵使い切り」を条件に応じている。

 ドレスシャツ地については、生地問屋とシャツメーカー合計4、5社へ、同社ならでの織物を供給している。例えば、20年ほど前に発売した「マスターシード」使いや、3年前に発売した「マハラニ」使いだ。マスターシード使いは、ハリ・コシを特徴とする。マハラニは、インドの超長綿を使い技術指導したインドの工場1社で紡績した糸であり、これを使ったシャツ地の特徴はヌメリ感。

 純綿だけでなく、ポリエステル長繊維、同短繊維、綿を組み合わせた3層構造糸「アルザス」や、独自のY型断面マイクロポリエステル使いの紡績糸「トライクール」使いなどさまざまなシャツ地を提案している。

〈産地への供給体制継続/11月 新綿糸ブランド投入/ヤギ〉

 ヤギの営業第一本部第二部門第一事業部は、原料ビジネスとして和歌山、播州、尾州など各産地の織・編み物向けに綿糸を販売する。ニッターや機業との生地開発、コンバーティングも手掛け、両者が事業の両輪。

 同事業部では現在、自社企画生地を軸に製品ビジネスを展開する第二事業部と連携強化を図っている。

 量販店向けから高価格品まで幅広いゾーンをカバーする狙いで、「各段階でオリジナル性が出せる原糸販売から生地・製品までの一気通貫の仕組み作り」に取り組む。

 国内で目下そのモデルケース作りを試みているが、その一つが和歌山営業所を所管する営業二課が進める和歌山ニット産地との取り組み。

 同産地に事務所を構えて定番糸販売を手掛けるのは現在では同社のみで、「今後も産地に定番糸を供給していく義務がある」と考えている。ニッターの生機を染色加工した後にテキスタイル販売を行うのも同事業部であるため、開発は欠かせない。

 投入を予定しているのが「顧客に求められたときにすぐに供給でき、品質・価格・風合いの三拍子がそろう一格上の定番綿糸」の新ブランド。丸編み地や先染め織物など衣料用だけでなく、タオルなど生活雑貨分野への展開も見据える。同ブランドは11月の同社展示会で披露する。

 一方、同社で化合繊糸販売を手掛ける営業第一本部第一部門第一事業部は今後、現状の糸販売に加えて生地のコンバーティング事業に力を入れる。社内他部署やグループ連携、北陸産地の織り・編み企業との相乗効果の発揮を図りながら、生地ブランドの導入も計画する。

 軸になるのは福井支店。北陸産地企業と「メードイン北陸」の独自生地開発を加速しており、既に幾つかの独自生地が完成している。独自生地を製品部門(営業第二本部)へ供給することが一つの方向性になるが、同事業部によるアパレルなどへの販売や、連携する産地企業による販売も今後、進めていく。輸出も強化するとともに、生地ブランド導入も計画する。

〈糸売りと車シート地伸長/差別化品 世界にも販売/蝶理〉

 蝶理の繊維第一本部は2017年度上期(4~9月)、第1四半期の前年同期比5~6%増を「若干上振れする」(吉田裕志取締役執行役員繊維第一本部長)見込みだ。

 同本部は合繊原料、産業資材分野を主力とするが、今上期はポリエステル長繊維などの糸売りやカーシート地などが伸びた。下期も全般的に商況は厳しいものの、事業拡大に手応えを示す。

 下期はカーシート地など産業資材分野の拡大が見込めるほか、衣料用テキスタイルも国内外への販売増、さらに糸売りも需要家と連携した高付加価値品の強化が奏功するとみる。

 主力である糸売りは現在、月4千トン弱の規模。さらに1千トン弱の海外への販売もある。台湾・韓国・中国・東南アジアの合繊メーカーから調達する購買力は同社の強さでもある。

 カーシート地も同社の特徴の一つだが「トリコットから織物、合成皮革へのシフトにしたことも寄与し大幅に販売を伸ばしている」と言う。

 衣料用についても「シャツ地やパンツ地など短繊維から長繊維へのシフトが進んでいるうえ、差別化品を開発できるのは世界的に見ても北陸産地しかない。その面では国内生産の立ち位置は悪くない」と指摘する。その上で、差別化品を国内はもちろん、世界に売る仕組み作りに取り組む考えを示す。

 同本部はもちろん、繊維事業においても北陸産地は基盤と位置付けており、19年度に北陸産地との取引額で300億円(16年度は250億円)を計画。現在は原料販売とテキスタイルなどの仕入れが半々となっているが、今後は仕入れ額が増える見込みと言う。

 なお、同社は11月8、9の両日、金沢流通会館(金沢市)で開催される「第2回北陸ヤーンフェア」の取りまとめ役でもある。今回展の出展者数は昨年の13社から9社増えて22社になる。

 商事子会社を含めて合繊メーカーが出そろうほか、島精機製作所、村田機械の機械メーカー2社も出展する。

〈素材の強さを海外へ/川中連携で中国内販も/モリリン〉

 モリリンのマテリアルグループは引き続き独自の差別化糸開発に力を入れるとともに「海外発信も課題」(水谷智廣マテリアルグループ統括部長兼素材2部長)として国内のコンバーター、機業場と連携した中国内販などに取り組む。

 同社は合繊メーカーとの取り組みにより独自の差別化糸を数多く開発してきた。差別化糸比率はブランド名がないものを含めて実に40%。この素材での強さを国内だけでなく、海外にも発信する。

 その一つが中国現地法人である上海茉莉林紡織品に置くマテリアルグループ直轄の上海マテリアル部との連携。差別化糸を使った産地企業品やコンバーター品など「日本の仲間と開発してきた」生地の中国内販を目指す。その一環で、上海茉莉林紡織品の担当者による日本の産地企業の訪問や日本の産地企業を中国の販売先に紹介する取り組みも行う。

 差別化糸の海外発信として、「プルミエール・ヴィジョン」(9月19~21日)で、差別化糸開発で取り組みの深い旭化成のブースに、「リーナ」「セルティス」などキュプラ繊維を使ったモリリンの差別化糸を出品する。

 こうした世界への発信は同社が「素材に強い繊維商社」として、数多くの差別化糸を開発してきたからこそ。

 国内向けでは18春夏向けにキュプラ繊維50%、ポリエステル50%というキュプラ高混率の紡績糸をアウター向けに新開発した。

 その他、同シーズンでは「ネオリネンソロ」と「ポルカ」も重点素材に位置付ける。

 ネオリネンソロはフランダース地方で栽培された上質のリネン80%、帝人フロンティアのポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス」20%混糸(毛番手で29番)。

 同シーズンから撚糸に製法を変更し、改めて本格販売する。キュプラ繊維とポリエステル・レーヨンの混紡糸「ポルカ」はニットで先行するも、織物の開発が急速に進んでいる。

〈定番に加え差別化充実/原料からこだわる糸など/豊島〉

 豊島は綿糸や梳毛糸など天然繊維使い定番糸の備蓄販売に強さがある。国内商況は厳しいものの、QRが求められる中で、対応力の高さは武器だが、定番糸だけでなく、差別化糸の充実も図っている。

 綿糸などを主力に取り扱う二部は「スーピマ」単一混コーマ糸「エタニティーSP」を除いた差別化糸比率は10%。「さらにバリエーションを拡充し、差別化比率を高める」(天野裕之執行役員二部長)

 特に力を入れる差別化糸はサイロスパン精紡によるコンパクト糸「スプレンダーツイスト」と、スペイン産ピマ綿を使いサイロスパン精紡による甘撚り糸「サンリットメローズ」。

 スプレンダーツイストは綿100%だけでなく、今年からウール混紡糸やナイロン混紡糸もラインアップした。織物と編み地用に販売するスプレンダーツイストは、合繊ライクな表面感、先染めによる奇麗な色目、シャリ感などが特徴。

 サンリットメローズは原料から手配し、撚り係数までこだわって開発した。今年から販売を開始しており、織物、編み地向けに4品番を単糸で構える。

 一方、梳毛糸など定番毛糸を取り扱う一宮本店一部も差別化糸に力を入れる。その一環で、このほど再生ウールを使用した「アプリクション」、ノンミュールジング(子羊の臀部の皮膚と肉を切り取らずに育成した)羊毛使いの「ローバー」(仮称)という自社ブランド糸を発売した。

 同部はフランス産やアルゼンチンなど南米産などの羊毛使い、インビスタのナイロン66「コーデュラ」との混紡糸を販売するが、「自社ブランドを設けるのは初めて」(伊藤彰彦一部長)となる。

 アプリクションは再生ウールのほか、機能合繊との組み合わせもある。スタートは再生ウールだが、他の再生原料にも広げる。

 コーデュラ使いも順調に拡大する。ウール混のほか、綿混、さらに長繊維でも販売しており、強度が高い強みを生かして、ユニフォームや靴下などファッション衣料以外の分野にも広がりを見せる。