特集 アジアの繊維産業Ⅱ(7)/全体最適化の中の役割担う/インドネシア/定番品生産に強み

2017年09月15日 (金曜日)

 インドネシアは長らく“チャイナ・プラス・ワン”の最右翼と見られていた。豊富な労働力、素材の生産能力などは、そう認識させるのに十分なポテンシャルを秘めている。一方、インドネシアでの事業が実際に拡大する中で、課題も鮮明になっていく。豊富な労働力は生産性の低さ、大きな素材生産能力はバリエーションの乏しさといった一面も持ち合わせていることによる。こうした中、日系繊維企業の多くが、インドネシアをアジア地域全体でのオペレーションの中に位置づけ、その強みを生かしたモノ作りに特化させようとする動きを強める。それは、全体最適化の中で役割を担うことである。

 2017年に入ってから新興国はおおむね堅調な経済成長が続いている。インドネシアも16年後半から、政府によるインフラ投資の効果が現れ始める。その後、財政悪化から政府支出は尻すぼみとなったが、旺盛な消費が景気を下支えした。このため17年の実質GDP成長率も第2四半期(4~6月)まで5%台を維持した。

 経常収支は依然として赤字だが、海外からの証券投資資金の流入が旺盛なことで資本・投資収支が大幅な黒字となり、国際収支も黒字を維持した。このためルピア相場も1ドル=13000ルピア台で推移するなど落ち着いており、インフレ率も3%台後半に止まる。

 このため繊維産業にとってもインドネシアの競争力は依然として高い。特に縫製業のコスト競争力が高い。現在、インドネシアの縫製業の中心である中部ジャワ地区の最低賃金は米ドル換算で月110ドル台。これに対してカンボジアは既に月150ドルを超えた。ベトナム・ホーチミン地区は160ドル台である。労働人口の動態などを含めた総合力では、他の東南アジア諸国と比較してインドネシア縫製の魅力が見直されている。

 インドネシア縫製の弱点も明確である。まず現地調達できる素材バリエーションの貧弱さ。このためアイテムによっては国外から素材を調達する必要があるが、ASEAN域外の素材を使用した場合、日本向けは経済連携協定による非関税メリットを失う。小ロットに対応できる縫製工場も少なく、地理的要因から納期対応でもカンボジアやベトナムに後れを取る。

 インドネシア縫製の強みを生かせるアイテムは、SPA向けカジュアルやシャツ、スポーツ、スーツ、白衣などとの認識が一段と強まった。いずれも計画生産をベースに比較的大・中ロットで生産するものであり、素材やデザインもベーシックな点が共通する。

 こうした認識の下、日系商社・素材メーカーもインドネシアの強みが生かせる用途・アイテムの縫製オペレーションと素材供給に特化する動きが強まった。これは内需向けも同様であり、やはりユニフォームなどがメーンターゲットとして存在感を増す。やはりそれはアジア戦略の全体最適化の中でインドネシアの役割が明確になったということになる。言い換えるならば、アジア戦略の全体最適化の中でインドネシアの役割を明確に捉え、その強みを生かした生産品種の選択や販売戦略などビジネスモデルを構築できた繊維企業にとって、インドネシアの競争力は大きな武器となる。国内需要も他の東南アジア諸国と比べてはるかに大きく、その可能性は魅力的。その意味で、やはりインドネシアは今後も“チャイナ・プラス・ワン”の最右翼であり続けることになる。

《有力・日系メーカー・商社の戦略》

〈“日本テイスト”打ち出す/TYSMインドネシア〉

 豊島のインドネシア子会社であるTYSMインドネシアは“日本テイスト”を打ち出した生地から製品までの一貫生産・販売に取り組む。特化原料のストック販売も開始した。

 テキスタイル販売は日本の店頭商況の悪さから2017年上半期も厳しい環境が続いた。こうした中、気を吐いているのが縫製品販売。日本向けスポーツ、ユニフォーム、セーターなどが堅調に推移する。こうした流れを受け、現地日系企業のユニフォームやローカル小売業向け衣料品・雑貨にも取り組む。“日本テイスト”を打ち出すことで差別化する。そのためにデザイナーを採用するなど企画部門を強化した。

 生地も含めて特化素材へのシフトも強めた。そのため今期から精製セルロース繊維「テンセル」やポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維など特化原料のストック販売も開始。日系だけでなくローカルへも販売する。

 特化素材による糸・生地・製品はいずれも小ロット対応となるが、将来に向けた基盤整備として取り組む。

〈ウラセ・プリマ生かす/蝶理インドネシア〉

 蝶理インドネシアは、ウラセとの合弁染工場、ウラセ・プリマの加工反販売拡大に取り組む。縫製品事業との連動も高めていく。

 2017年に入って同社は取扱高、売上高ともに前年を上回る水準で推移している。生地販売は中東向けが市況低迷で苦戦もウラセ・プリマの加工品の販売がブラックフォーマルを中心に順調に拡大した。無地染めやストレッチ品の加工も始まったことで、ウラセ・プリマは現在、月産35~40万メートルの規模での稼働となった。

 田中裕司社長は「今期はウラセ・プリマの加工品を中心に生地販売を拡大させるのが基本戦略」と話す。ウラセ・プリマは月100万メートルの加工能力に対して現在は月35万~40万メートル規模での稼働。「早期に50万メートル規模にする必要がある。そのためにユニフォームなど定番的な用途への提案も進める」と言う。

 さらに縫製事業との連動も進める。婦人フォーマルウエアが月産7千セットの規模となり採算ラインにも乗った。このうち約50%でウラセ・プリマの生地を使用しているが、将来的に70~80%にまで高めることで一貫生産体制を構築する構想である。

〈双日インドネシア/素材調達の現地化推進〉

 SPA向けを中心にインドネシアでの縫製を拡大させている双日。現地オペレーションを担当する双日インドネシアは課題である素材調達の現地化を進め、品質向上と納期短縮に取り組む。

 2017年も同社のSPA向けOEMは堅調が続く。アイテムも拡大したことでシェアが高まった。ただ、課題は素材調達。繊維部を担当する上滝準也取締役は「特に先染めシャツ地は現地素材の確立ができおらず、ベトナムとの競争で後れを取っている」と指摘する。

 このため現地の縫製会社と生地メーカーと連携し、新たに先染めシャツ地の工場を立ち上げることを検討している。素材の現地化によって、リードタイムを短縮し、競争力のある労働力を生かしてベトナム縫製に対抗する構想。

 「OEM事業の基本は品質と納期対応」と強調。生地メーカーに人員を派遣して検反を行っているほか、縫製企画も企画担当者を協力工場に常駐させることで企画スピードを高めた。

 SPA向け以外の受注拡大にも取り組む。双日ジーエムシー向けに食品白衣の縫製が新たにスタートした。こうした案件の開拓にも力を入れる。

〈内販へ種まき/島田商事〉

 インドネシア縫製の拡大に向けて欠かせないのがアパレルパーツの調達。アパレルパーツ商社の島田商事は、現地パーツメーカーの開拓を進める。日系メーカーのパーツのインドネシア内販に向けた種まきにも取り組む。

 島田商事はこれまでも日本や中国からインドネシアの縫製工場にアパレルパーツを供給してきた。しかし、インドネシアは通関トラブルなどが多く、アパレルパーツの調達も現地化するニーズが高まる。大手のパーツメーカーは現地生産を既に開始しているが、ロットの関係上、SPAやスポーツ向けがほとんど。

 このため「もう少し小さいロットにも対応できるローカルメーカーの開拓を進めている」と島田商事ジャカルタ駐在員事務所の山本栄一所長は話す。タグなどでは日本向けにも対応できる品質を確保した現地メーカーとの取り組みを既にスタートさせた。

 日本のパーツメーカーのインドネシア内販に向けた種まきにも取り組む。例えばスーツ縫製は有望な分野だが、現地で全ての副資材をそろえることは難しい。そこでローカルのスーツ縫製企業に日本メーカーの天然素材ボタンやウエストアジャスターなど紹介する取り組みが進行中である。

〈商流改革が加速/東レグループ〉

 インドネシア東レグループが商品の高付加価値化と商流改革の動きを加速させている。今期(2018年3月期)も、グループ各社とも素材から製品までのサプライチェーンの中で役割を担うコンバーティング機能を強化することでビジネスモデルの転換を進める。

 在インドネシア国東レ代表である福田康男トーレ・インダストリーズ・インドネシア社長は今期に関して「コンバーティング機能と不織布分野の強化・拡大がポイント」と強調する。

 東レグループが各地域で展開している糸・生地から縫製品までのサプライチェーンへの素材供給などコンバーティング機能の中で各社が担う役割を高める動きを強めた。

 一例としてポリエステル綿混紡織加工のセンチュリー・テキスタイル・インダストリーは染色設備の増強で加工能力を18年度までに月300万ヤードに高め(現行は月200万ヤード)、マレーシア東レグループのペンファブリックからインドネシア縫製向け原反など一部生産移管を進めている。

 合わせてポリエステル綿混紡織のイースタンテックスの生機を活用する。イースタンテックスでは現在、「イースタンテックス・フューチャープロジェクト30」をスタートさせ、定番品のさらなるコストダウンと19年度までに特品化率30%以上を目標に生産品種の高度化を進める。

 不織布分野もインドネシア・トーレ・シンセティクスで不織布用複合原綿の出荷が本格化した。ポリプロピレンスパンボンド製造のトーレ・ポリテック・ジャカルタも2系列目が順調に立ち上がり、ほぼフル稼働。短繊維不織布、長繊維不織布両方の領域で取引先との連携を深めながら業容の拡大を目指す。

〈日本向け生産基盤強固に/東洋紡グループ

 統括・販売の東洋紡インドネシア(TID)、編み立て・染色加工の東洋紡マニュファクチャリングインドネシア(TMI)、縫製のSTGガーメント(STG)で構成するインドネシア東洋紡グループは、好調のスポーツ素材やシャツ縫製を強みに、対日生産拠点としての役割を強固なものにする。

 グループ3社の社長を兼務する清水栄一氏は「日本向け素材・製品の品質統制などを一段と強め、生産基盤の整備に力を入れる」と話す。

 TMIの2017年上半期(1~6月)業績は、ニット製シャツ「Zシャツ」用生地やスポーツ素材の編み立て・染色が好調に推移。STGもシャツ縫製が好調。日本のシャツアパレルからの受注が旺盛なことに加え、Zシャツの縫製も拡大が続く。

 TMIは、差別化機能素材の日本からの生産移転を引き続き進め、開発・生産面での競争力を高める。STGは人件費上昇によるコストアップが深刻なため、自動化設備の導入などで合理化を進める。

 一方、TIDが進めているインドネシア内販や欧米への三国間輸出は依然として試行錯誤の状態が続く。今後に関してTIDは、インドネシア内販と三国間輸出に向けた種まきを引き続き進めると同時にTMI、STGの品質管理などを統括会社として一段と強化し、対日生産拠点としての基盤整備に力を入れる。

〈新規開拓へ攻勢かける/TTI〉

 東海染工グループのトーカイ・テクスプリント・インドネシア(TTI)は無地染め、プリントともに新規取引の開拓に向けて攻勢をかける。

 TTIの2017年度上半期(1~6月)商況は、絶好調だった16年度と比べやや一服した。レバラン(断食月明け大祭)休みが上半期にあったことや現地の市況がやや勢いを欠いたため。ただ、無地染め、プリント合わせて月平均加工量は430万ヤード以上を確保しており、フル稼働が続く。

 主力の現地向け加工・販売のほか、キルトやアロハ用プリント生地の対米輸出も堅調に推移した。

 川本修社長は「逆に今がチャンス。昨年は加工スペースに全く余裕がなく、新たな取引先の開拓ができなかったが、今期は対応ができる」と話す。特に欧米輸出の深堀りと香港やシンガポールにある欧米アパレルの調達拠点への提案、欧米向けを主力とする国内の縫製会社への販売拡大を目指す。

 さらなるコストダウンにも取り組む。今期からトラックスケールを導入し、ボイラー用石炭の納入に不足がないかを確認するなど調達を厳格化した。ボイラー燃料を石炭に一本化したことでコストダウン効果も発揮する。

〈グループの製販 最適化/クラボウグループ〉

 クラボウのインドネシア子会社は紡織のクマテックス、縫製のアクラベニタマ(AKM)ともにグループ全体で東南アジア地域での生産・販売を最適化する動きが進む。

 クマテックスの2017年上半期(1~6月)業績は前年同期比増収増益となった。原糸やユニフォーム用生機はクラボウから一定の受注を確保している。グループとして生産・販売を最適化する動きも強まる。加工反は自家に加工工程を持たないため一部をタイのクラボウ関係会社に移管し、クマテックスは原糸と生機に特化するなどグループとして最適な生産・販売体制を敷いている。

 木村浩一社長は「粗利率のさらなる向上が最大のテーマ」として原燃料や人員の効率化、現場スタッフの生産性向上などに取り組む。販売面では現地ニッターへのニット糸販売に力を入れる。

 AKMは17年上半期も堅調な生産となった。ブカシの本社工場と中部ジャワ地区の協力工場網で年間200万枚の供給体制を確立。白衣・介護衣が堅調で、クラボウの生体模倣素材「エアーフレイク」を使ったインナー製品など独自の縫製技術が必要な製品の生産も拡大した。

 今後も中部ジャワ地区での生産を拡大させ、生産の効率化にも取り組む。クラボウグループが利用するベトナムの協力縫製工場への技術指導もAKMが担うなど東南アジア地域でのクラボウグループの縫製事業の中核的役割を目指す。

〈グループ内シナジーを発揮/ユニチカグループ〉

 ユニチカクループの紡織先染め加工会社であるユニテックスと商社のユニチカトレーディングインドネシア(UTCインドネシア)は、グループ内での連携を強めシナジー発揮を目指す。

 2017年上半期(1~6月)商況はユニテックスが日本向けの競争激化で減収減益ながら黒字は確保した。老朽織機を廃棄するなど構造改革を進めたことや、ドレスシャツ地からユニフォーム地への転換を進めたことが奏功している。複重層構造紡績糸「パルパー」も基幹商品となったほか、「生産の40%がUTC向けになるなどグループ連携の効果が出ている」(本田一馬社長)。

 一方、UTCインドネシアは上半期に昨年対比10%の減収となったが、これは一部案件の納入が下期にずれ込んだためで、通期では売上高20%増を計画する。「日本向け縫製への生地販売がスポーツを中心に年々拡大している」(熊谷英樹社長)。製品事業もアウトドア系パンツで生地から縫製までの一貫生産が始まった。

 今後は両社の連携を更に進める。ユニテックスはUTCの中国・ベトナム拠点への原糸供給を拡大する。内需向けはパルパーを活用してユニフォームの開拓に取り組む。UTCインドネシアは引き続きスポーツの拡大を進め、ユニテックスの生機活用にも取り組む。

〈日本企画で内販促進/モリリン・リビング・インドネシア〉

 モリリンリビンググループのインドネシア現地法人、モリリン・リビング・インドネシアは、日本で企画、デザインしたメード・バイ・ジャパン製品で内販を加速する。

 同社はリビンググループと現地パートナーの合弁企業で、日本の量販チェーンや通販向けのインテリア製品や寝具製品のOEMを主力事業とする。工場ワーカー90人、オフィススタッフ10人の100人体制で事業を展開する。

 2017年度上半期(1~6月)は増収で、ほぼ計画通りの売上高で推移した。日本向けOEMに加え、本格化したインドネシア国内への販売も業績に寄与した。現地の大手企業3社との取引が始まり、全社売上高の25%を占める規模に成長している。

 現地の消費者は親日で「日本のファッションやデザインに対する意識が高い」(河合航太郎役員)だけに、引き続き日本企画のメード・バイ・ジャパン製品で販路拡大を図る。既に来年度に向けて新たな取引先とも具体的な案件が進む。将来的には売上高を拡大しながら日本向けと内販の比率で50対50の構成を目指す。

〈テキスタイルと製品連動/帝人フロンティアインドネシア〉

 帝人フロンティアインドネシアはテキスタイル事業と製品事業の連動を進める。帝人グループの独自素材を活用したテキスタイル・製品事業を拡大させる戦略である。

 2017年上半期(1~6月)は、テキスタイルで中東向けが市況悪化で苦戦も主力の婦人スーツ地が欧州向けで堅調。香港の欧米アパレルのバイイング拠点への提案が成功した。

 製品事業も拡大が続く。スポーツウエアは年産220万枚の規模となりキャパ不足の気味も。スラックスは月産3万本を超えた。このため4万本体制に向けて工場拡大を準備する。シャツも年60万~70万枚のキャパシティーがあり、最近ではニットシャツの縫製も増えた。

 江成俊一社長は今後に関して「テキスタイルと製品の連動を進める」と言う。帝人グループの機能素材などを活用した時事開発と縫製品への導入を拡大させる考え。

 もう一つ注目は資材分野。主力のゴム資材は自動車用途の拡大が続くほか、衛材用ポリエステル短繊維のビジネスもある。

 ポリエステル繊維の生産機能が帝人フロンティアに移管されたことを生かし「帝人フロンティアの原料部門との連携も進める」との構想が進む。