2017秋季総合特集(52)/top interview/豊島/人材の強みをさらに/社長 豊島 半七 氏/未開拓分野への進出

2017年10月26日 (木曜日)

 豊島は2017年6月期の単体決算で過去最高の営業利益、経常利益を達成した。しかし、豊島半七社長は「苦戦した事業もあり、手放しで良かったというわけではない」と語るとともに、国内市場が厳しさを増す中で維持・拡大する難しさも指摘する。このため、未開拓分野の進出に力を入れる考えを改めて強調。「当社の扱う衣料品のシェアはわずか。その面では余地は十分にある」とし、国内の周辺分野を含めた顧客、用途開拓や長期的な視野に立った海外販売の強化などに取り組む。

  ――今後を生き抜くための貴社の独自性あるいは強みとは何だとお考えですか。

 当社の強みは人材です。優秀な人材が多いと思います。ただ、それは長所であり、短所でもあります。優秀な人材は自分のビジネスを最優先しがちですから。これを変えるためにさまざまな手立てを講じてきました。横串組織を設けて、各課が連携して展開できる体制も進めています。全てではありませんが、さまざまな課が取引するような主要顧客に対しては課単位ではなく、チームとして総合的に対応する。また、必要に応じて臨機応変にチームを構成する。そうすると、良いことも悪いことも情報を共有することができます。少しずつ変わってきたとは感じていますが、変わり切れていない部分もあります。大きく変化するには時間が掛かりますが、これを推進していかないと、当社の強みが強みにならなくなります。

  ――さて、前6月期は過去最高の経常利益を計上するなど好業績でした。

 苦戦した事業もありますから、手放しで良かったというわけではありません。この数年は経常利益60億円台でステップを踏みながら前6月期が72億円。営業利益も過去最高の60億円となりましたが、これを維持・拡大することは難しい。素材、製品とも今までは確実に存在したマーケットがなくなることもありますから、それを踏まえて増収増益を目指すのは簡単ではありません。その面では今までと異なるビジネスを手掛けることが必要です。例えば、衣料品も衣料品店だけで販売するわけではありませんし、雑貨店でも繊維製品があるように周辺分野が存在します。その中で当社の扱う衣料品のシェアはわずかですから、未開拓の市場はあります。

 輸出も長期的に見て、素材、製品とも拡大の余地があります。国内市場は間違いなく少子化が進みますから、衣料品分野でシェアを拡大できたとしても、以前のような大きな伸びは見込めない。それを補完するために、周辺分野に加えて、輸出にも力を入れる必要があります。輸出も海外販売と捉えて最終的には本社が販売する形でなくても構わない。オール豊島として取り組み、海外の現地法人が海外販売を手掛けるぐらいでないと、拡大はできません。

 極端に言えば、海外の現地法人の駐在員を日本に置くこともあり得ます。綿花ビジネスと同じように日本も世界市場の一つという捉え方です。特に素材はこうした感覚が大切です。そうしないと生き残れても勝ち残れません。勝ち残らないと、従業員のモチベーションも高まらない。

  ――未開拓分野と異なりますが、今年1月にコーポレート・ベンチャーキャピタルファンド(CVC)を立ち上げました。その狙いを改めてお願いします。

 企画提案の差別化が難しくなっています。良い提案をするには消費者を知らなければなりません。当然、小売店は購入者のデータを持っていますが、消費者が衣料品をどのように着こなしているかなどのデータはありません。それが分かるアプリ開発などをITベンチャー企業は手掛けています。その知恵を借りて、顧客にさまざまなシステムを紹介できれば消費者サイドに立った企画提案、つまり精度を高めることができるのではないかと考えてCVCをスタートしました。

 CVCによるITベンチャー企業への出資は年内か年明けには5~6社になる見通しですが、顧客へのIT関連商材の提案はあくまでも営業支援ツールです。その機能を持つことで、顧客から頼りにされることにつながると考えています。これからは売りたいものが売れるのではなく、消費者は欲しいものを購入する。それを供給するには企画精度を高めることが必要です。当社は全社テーマに「消費者理解を深める」を掲げていますが、消費者が何を考えているかを知ることが今後より重要です。ただ、投資先の特徴、顧客の悩みなどを理解する必要がありますから、当社従業員の知識も深めなければなりません。

  ――10月にプリンタブルウエア製造・販売・加工のフェリックの株式も取得しました。

 当社独自のオーガニックコットン「オーガビッツ」や廃棄予定の野菜・食材を染料に使った「フードテキスタイル」を活用した商品展開を進める予定です。

  ――ところで、今6月期の商況はいかがですか。

 素材は綿花販売が好調ですが、価格が乱高下しています。糸・生地は国内での競争が激化しています。素材・製品とも円安の影響も受けますから、収益を維持することが難しくなっています。

 さらに中国の環境規制強化による染色加工スペース不足の問題もあります。それに伴い納期遅れが表面化しています。これは恒常的と捉えていますので、確かな生産体制の構築が重要です。店頭販売が厳しい中で品質、納期問題を起こさないというのは大きなテーマ。売るだけでなく、ちゃんと納める。商売の原点ですから、今一度しっかり遂行することが今期の課題の1つです。

〈25年前のあなたに一言/今思えば、勉強不足かも〉

 「あまり覚えていないのですが……」と前置きしながらも、豊島氏は「いろいろなことを、もっと勉強しておけばよかった」と25年前を振り返る。社長として経営のかじ取りを行う中で、さまざまな決断が求められる。その判断基準となるのが、これまでに積み重ねてきた知識だ。しかし、「今のIT化の流れや、コーポレート・ベンチャーキャピタルファンドの立ち上げ、そして顧客の事業展開を本当に理解するためには、さまざまなことに関心を持つことが必要」と説く。「視野を広げておけば、一つ一つの決断も早くできる」からだ。その面では25年前の自分自身を振り返りながら「今思えば、勉強不足だったかもしれない」と言う。

〔略歴〕

 とよしま・はんしち 1977年東海銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。85年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て2002年から現職。