2017回顧

2017年12月26日 (火曜日)

〈紡績●円安で事業環境は悪化●店頭振わず糸売り苦戦●新たな事業領域を開拓〉

 紡績は海外生産比率が高く、糸・生地から製品まで商品の多くを中国、東南アジアで調達している。そのため為替動向が業績に大きな影響を与える。2017年は16年秋ごろから進んだ円安により、海外調達のコストが増え、収益を圧迫する構図となった。

 綿紡積大手の今年度上半期(17年4~9月)業績は全社ベースでは7社中4社が前年同期比減収になった一方、経常利益・純利益では5社が増益、1社が黒字転換と健闘した。半面、繊維事業のみを見ると7社中5社が減収と苦戦が目立つ。営業利益は2社が増益、1社が黒字化。構造改革による利益面の改善はまだ道半ばだ。

 大手、中小紡ともに国内産地への原糸販売で苦戦した。国産生地のほとんどが中・高級品に使われることを考えれば、百貨店をはじめとする店頭の売れ行きの悪さが川上に、これまでよりはっきりした形で表れるようになったと言える。一方、大手紡績のユニフォーム素材の売れ行きを見ると底堅い動きが続いた。東京五輪に関連した需要の盛り上がりは期待されたほどではなかったが、厳しい環境下の繊維事業の業績を下支えした。

 繊維分野のノウハウを活用した新たな事業領域事業の開拓も進んだ。これまで繊維製品の後加工用に使っていた消臭薬剤を商品化したり、情報技術と衣料を組み合わせて熱中症のリスクを把握するシステムを構築したりする試みが見られた。

 環境への配慮がより重視されるようになった。これまで廃棄していた裁断くずを再利用したり、レーヨン製造において管理された森林資源から切り出した原料を使ったりする取り組みが注目された。中わたとして使用される羽毛の洗浄回数を減らし水資源の節約に貢献する洗浄剤も開発された。

〈合繊●衣料はジャンル横断進む●産資分野の設備投資加速●急浮上した “環境素材”〉

 近年、衣料用素材ではジャンル横断の動きが目立つが、2017年もその傾向が一段と鮮明になった。アスレジャーやスポーティーカジュアルのトレンドを背景にスポーツ素材は機能性に加えて快適性やファッション性が問われる一方、ファッション・カジュアル素材では高感性と合わせてストレッチなど機能性を求める動きが目立った。ユニフォームもスポーツテイストやカジュアル感が求められる傾向が強まる。

 このため合繊各社ともジャンル横断的な糸・生地開発が加速した。ファッション、スポーツ、ユニフォームといった各担当部署の連携の重要性も一段と高まっている。

 好調な世界経済を背景に、産業資材分野で合繊メーカーによる設備投資が加速したのも17年の特徴だろう。けん引するのが自動車関連と建材、衛材といった用途。いずれも最終製品の生産がグローバル化し、それに合わせた素材メーカーのグローバル生産・販売戦略が成果を上げている。

 産業用繊維は多くが需要家企業との取り組み型ビジネスのため、需要家企業のグローバルな生産拡大戦略に追随できなければ競争から脱落する。このため思い切った設備投資は事業継続のために不可欠となる。

 素材開発・提案の面では大きなテーマとして急浮上したのが“環境”だろう。欧米アパレルを中心にバイオ原料素材、生分解性繊維、再生ポリエステル使い、低環境負荷生産プロセスによる素材などへの引き合いが急増した。機関投資家の間で「環境(エンバイロンメント)」「社会(ソーシャル)」「ガバナンス」の観点から企業を評価し、投資判断の材料とするESG投資が拡大していることが背景にある。

〈商社●中国生産、難度増す●海外市場開拓へ展望●基盤強化、事業開発で投資〉

 商社繊維事業の主力ビジネスである製品OEM/ODMは中国生産の難しさが顕在化した。多くの企業が「素材のリードタイムが長くなり、納期トラブルが発生した」との内情を明かす。

 同国で環境規制が強化されていることが大きな要因。汚水処理設備が整っていない染工場が操業停止に追い込まれ、原料を投入しても素材が上がって来ない状況が従来に増して顕著に表れた。「主力の調達先とは年間ベースで取り組みを決め、信頼関係を深めておく必要がある」との対策は同事業の共通認識だ。

 海外に市場を求める動きも鮮明になった。7月には日本と欧州連合(EU)の経済連携協定交渉が大枠合意に達した。関税の即時撤廃、2工程の加工工程基準の採用は日、EUの両業界の合意内容をおおむね採用したもの。日本が得意とする原糸・テキスタイル、産業資材の貿易や製品調達先としてのEUの活用拡大が期待される。伊藤忠商事は中国人向け電子商取引プラットフォームを運営するインアゴーラ(東京都港区)に出資。日中越境市場を本格的に開拓する姿勢を示した。

 基盤強化、新規事業開発の投資も進んだ。丸紅がSPA向け製品事業強化を目的にトルコODMメーカーに出資。豊田通商グループも収益基盤のスポーツウエアで3社合弁の縫製工場をベトナムに設立することを決めた。

 豊島はITビジネスの展開を方針に掲げ、コーポレート・ベンチャーキャピタルファンドを立ち上げた。国内外のITベンチャー企業に出資し取引先にIT関連商材を提案する。三井物産は人工知能(AI)技術を開発するプリファードネットワークス(千代田区)社に出資。事業開発機能、競争力の強化へAIを活用した新規創出につながる人材育成に取り組む。

〈生地商社●国内向け総じて苦戦●輸出は伸び率が鈍化●トレンドは追い風か〉

 アパレル製品の店頭不況は生地商社の本業である国内向け生地販売にも影響を及ぼした。主要各社の同事業の直近売上高は、宇仁繊維やコスモテキスタイル、澤村、川越政など一部を除いて前年同期比を下回るケースが相次いだ。2016年まではなんとか持ちこたえていた生地商社が、タイムラグを伴いながら17年はアパレル不況の影響を免れられなかったという構図だ。

 各社が輸出拡大にかじを切っているとはいえ、ほとんどの生地商社の基幹事業は依然として国内向け生地販売。苦戦の要因は、百貨店を中心としたアパレル製品の店頭不況、低価格品が多いネット通販が台頭したことによる国産生地使用の減少、供給過剰による在庫過多――などとされる。

 輸出拡大も思うように進展しない一年だった。各社が輸出拡大を方針に掲げて臨んだが、中には伸ばすどころか減少したところもあり、伸ばしたところでもその伸び率は当初方針からすればものたりないものだった。背景には、日本と同様に欧・米・中のアパレル市場も停滞局面を迎えていることや、為替の問題があったようだ。特殊市場とはいえ、中東民族衣装向けも供給過剰や在庫過多を背景に、17年に需要が急落した市場であった。

 トレンドは若干の追い風だったと言える。数シーズン続いた「ノームコア(シンプル)」の揺り戻しとして久しぶりに柄物に脚光が当たった。先染め、プリント、ジャカードといった国産に優位性があるものや、無地一辺倒ではなく意匠性やこだわり、デザイン力で勝負できる商材が台頭してきたことは、国内を主戦場とする生地商社にとっては追い風だった。ただしその恩恵は限定的であり、先述の国内向け不振を払い去るまでには至っていない。