特集 アジアの繊維産業Ⅰ(3)/インドネシア/日系企業は事業再構築へ/産資や企業制服で攻める

2018年03月28日 (水曜日)

 インドネシアはこれまで、豊富な労働力、素材の生産能力から“チャイナ・プラス・ワン”の筆頭と見られてきた。だが、日系繊維企業の事業が軌道に乗るにつれ課題も明らかになってきた。労働人口が多い半面、技術水準は低く、ボリュームゾーンを担うだけの素材生産力があるものの、素材の多様性には欠ける――。こうした負の側面も含めて、各企業はそれぞれの強みを生かした事業の再構築を進めている。

 2017年、東南アジア諸国経済は堅調な成長を遂げた。インドネシアの17年の実質GDP成長率は5・2%(IMFによる)と、昨年に続き堅調な伸びを示した。

 経常収支は依然として赤字だが、海外からの証券投資資金の流入が活発で資本・投資収支が大幅な黒字となり、国際収支も黒字を維持している。このためルピア相場も1ドル=1万3千ルピア台で安定しておりインフレ率も3%台をキープ。

 景況感の指標の一つとされる自動車販売台数は、14年の120万台から15年に101万台にまで落ち込んだものの、そこから徐々に増え17年度は108万台にまで回復した。

 景況感の明るさが数値に表れる半面、現地の日系繊維企業から聞かれるのは同国で事業を拡大する難しさだ。

 これまでインドネシアは豊富な労働力と人件費メリットから“チャイナ・プラス・ワン“の筆頭として多くの日系繊維企業が生産基盤を構築してきたが、ここに来てさまざまな課題が指摘されている。

 例えば、ベトナムやタイなどと比較したときの生産技術水準の低さや素材のバリエーションの少なさ、日本向けの多品種少量生産への対応力などで問題が顕在化している。日本以外の生地輸出でも仕向地での衣料品市況の悪さが影を落としており、内販も容易ではないのが現状。

 カジュアル用途の内販は、現地企業との競争に加え、中国やベトナムといった新興国の生産品との競り合いが激しい。さらに、中国からの安価な密輸品も無視できない量になっている。

 毎年8%程度上昇する最低賃金やポリエステル、ナイロン、綿花、レーヨンの原料価格の高騰は利益を圧迫している。こうした難しい状況の中、日系企業は一層のコスト削減を進めるとともに、ボリュームゾーンの生産に特化したり、あるいは衛材用不織布、産業資材、ユニフォームといった成長分野に攻め手を転換したりすることで事業の再構築を進める。

〈日本と現地で販売拡大へ/クラボウグループ〉

 クラボウのインドネシア紡織子会社、クマテックスは今期(2018年12月期)、主力のクラボウへの販売とインドネシアなどでの高収益案件の受注拡大に取り組む。

 生産する糸の種類を素早く切り替えられる体制を敷き、少量・短納期で適時適品を供給できるようにする。引き続き現地の人材教育にも力を入れ、コストダウン、不良品の削減に力を入れる。

 近年、利益率の改善で成果が出てきた。その要因の一つが工場の経費削減だ。従業員数や業務効率化で16、17年度にそれぞれ50万ドル規模で利益に貢献した。

 従業員数は16年1月に比べ31%減の501人(18年1月末)にまで削減。生産面では主力の日本向けでクラボウへの販売が安定したためコスト改善が進んだ。売上高に占める対日輸出の割合は、17年度は82%(前年度比6ポイント拡大)だった。

 生産工程では工場の空調機器のエネルギー源をガスから電気に切り替えてコストを軽減させた。生産効率を高めるために最新の練条機を導入したほか、生産設備の配置も見直し、合理化を進めた。国内外の物流も改めて検証し、最も費用を抑えられるルートにした。

 インドネシア縫製子会社、アクラベニタマ(AKM)が海外アパレルのOEM受注に乗り出す。これまで売り上げの全てが日本市場への縫製品販売だったが、新たにインドネシア国内、欧米、豪州などの企業から、OEM受注を目指す。

 18年度に営業チームを立ち上げる予定。これまで海外市場への営業担当がいなかったが、新たに語学と営業に強みを持つ従業員とデザイナーを現地で採用し、組織的な営業活動を始める。これまで日本向けで培った高い縫製技術を強みに顧客を開拓する。昨年10月にはジャカルタ市内のメディカル関連展示会に初出展し、白衣などの看護ユニフォームをアピールした。

 18年度はブカシの本社工場の人件費上昇が続いているため、人件費のより低い中部ジャワ地区にある協力工場での縫製を増やす。AKMから技術指導を加えレベルも高まっている。

 AKMはクラボウグループの海外唯一の縫製拠点。ベトナム協力工場への技術指導も行っており、東南アジア地域に日本の縫製技術を伝える中核的な存在として今後も重要な役割を担う。

〈非繊維拡大し増収増益/東洋紡グループ〉

 インドネシア東洋紡グループは、現地事業統括・販売の東洋紡インドネシア(TID)、編み立て・染色加工の東洋紡マニュファクチャリングインドネシア(TMI)、縫製のSTGガーメント(STG)で構成する。

 2018年3月期は樹脂などの非繊維分野の拡大で大幅な増収増益となる見込み。繊維分野は減収増益を予想する。日本向けの縫製品、生地販売が主力で、これまで収益率を重視した中高級ゾーンの受注拡大に力を入れてきた。量よりも質を重視する戦略だ。

 縫製地が人件費のより低い中部ジャワにシフトしていく中、東洋紡グループは追随せず工賃が比較的高いカラワンを今後も本拠とする。そのため高級品ゾーンの開拓が一層重要になる。

 日本をマザー工場とし、TMIは、差別化機能素材の生産移転を引き続き進め、素材開発・生産面での競争力を強化する。STGは人件費上昇によるコストアップが深刻なため、自動化、省人力化を進める。

 グループ3社の社長を兼務する清水栄一氏は「不採算の案件は見直し、当社にしかできない案件に集中していく」とし「3社が連携し自社で工場を持つ強みを最大限に生かした仕事に力を入れる」方針を示す。

〈連携強め相乗効果狙う/ユニチカグループ〉

 ユニチカグループの紡織先染め加工会社、ユニテックスと商社のユニチカトレーディングインドネシア(UTCインドネシア)は連携を強め相乗効果を狙う。

 ユニテックスは2018年、インドネシア国内でのユニフォーム用途の先染め織物販売を強める。

 現在、主力とするドレスシャツ地の販売が現地で伸び悩んでいるため、用途をユニフォームに転換して拡大を目指す。業務用のシャツやサービス業の制服用途として提案する。売り先はUTCインドネシアや現地アパレルなど。

 競争力となるのはポリエステルの芯を綿で包む、複合重層構造紡績糸「パルパー」。09年に現地にパルパー専用の紡機を導入し、生産に乗り出した。肌触りの良さ、吸汗速乾性、寸法安定性といった多機能が人気で糸、生地の両方で近年、売り上げを伸ばしている。

 主力のドレスシャツ地の低迷の背景にはインドネシア国内の市況の悪さもあるが、中国からの安価な密輸品が流通していることによって価格競争力がそがれている側面もあるという。

 中国、ベトナム、日本への糸販売も増やす。糸売りでもパルパーが拡販の軸となる。近年、パルパー糸は多機能が支持され、国内に加え海外でも需要が増えている。UTCグループの北京やベトナムの現地法人と連携してシェアアップを図る。

 UTCインドネシアは、18年12月期の売上高を現在の1・8倍にまで引き上げる。

 そのために、主力のスポーツウエア用途以外の新たな分野への生地の拡販やスポーツ分野での縫製品の拡販に取り組む。レディースカジュアル、ユニフォーム、スポーツシューズといった新たな用途の生地を開発中。

 生地開発は現地の協力工場やユニチカの紡織加工子会社ユニテックスと連携して行う。UTCが日本国内で製造する機能素材も輸入し新たな商材を開発する。

 遮熱素材「コカゲ」、吸放湿ナイロン「ハイグラ」、ナイロン100%融着糸「フロールM」(スポーツシューズ用素材)などを輸入して新素材の開発を進めている。

 主力のスポーツ分野では縫製品の販売を増やす。ブカシとバンドンにある協力縫製工場を活用する。生地は現地内販がメインだが、縫製品は日本市場で増やす。アイテムは学校体育衣料、スポーツTシャツ、アウトドア用パンツなど。先月にはサッカーファン用のチームウエアを開発した。

〈デニムも設備投資で拡大/日清紡テキスタイル〉

 日清紡テキスタイルは紡織のニカワテキスタイル、織布・染色加工の日清紡インドネシア、シャツ縫製のナイガイシャツ・インドネシア、デニム製造のマラカサリ日清紡デニムインダストリーによるインドネシアでの生産と販売の拡大に取り組む。馬場一訓社長は「対欧米・対中東輸出、そして内販という“外・外ビジネス”の拡大が重点テーマ」と指摘。そのため営業体制も変更して取り組みを強化した。特にシャツ地・シャツ製品は紡織加工から縫製まで一貫生産の設備を生かしてグローバル市場で通用する品質とコスト競争力の確立を目指す。

 一方、マラカサリ日清紡インダストリーの生産も拡大する。主に米国デニムアパレル向け輸出品やオリジナル製品の生産を行ってきたが、技術指導を進めたことで国内外のプレミアムジーンズ用生地の安定生産も可能になった。このため既存のロープ染色ラインに硫化染色設備を追加導入する。18年1月に稼働させた。

 ブルーデニムだけでなくカラーデニムなど生産品種を広げる。

〈産資・衛生材の拡販に力/帝人フロンティアインドネシア〉

 帝人フロンティアインドネシアは2018年度以降に向けて、産業・自動車用資材、おむつや生理用品メーカーへの繊維素材販売で業績を拡大する。

 現在、産業・自動車用資材と衛生用品素材のほとんどは内販が占める。衛生材に関してはまだ始まったばかりだが、消費者の生活水準の高まりから、今後は大きく飛躍が期待できるという。

 産業資材用は、耐熱アラミド繊維「コーネックス」を使った集塵(しゅうじん)フィルターなどがここまで好調で、自動車用繊維資材も同国内での車両の販売量が増えており活発な動きが続く。

 来期もフィルターなどの需要は伸びる見通し。車両向けは日系自動車メーカーが生産台数を増やす方針を打ち出しているため事業環境は明るい。

 課題となるのは16年から市況悪化が続く、中東民族衣装向け素材輸出の立て直し。現在、トーブ、アバヤの縫製品輸出を計画中、観光客や巡礼者の需要を取り込み、復調のきっかけにする。

 欧州、米国、中国などへの生地輸出、さらにインドネシア内販も拡大する。そのために、インドネシア国内における、帝人独自の機能素材の生産から織布、加工、縫製までの一貫した生産体制を活用する。

 日本向けのスポーツアパレルOEMは五輪が近づいた影響で堅調な売れ行きが続く見通し。

〈適地適品の生産体制構築/三菱商事ファッション〉

 三菱商事ファッション(MCF)は、東南アジアに展開する縫製事業で各国・地域の拠点ごとの特性に合った生産基盤を構築する。顧客のニーズに応じた適地適品の生産体制を目指す。

 MCFのインドネシア縫製は大手SPAとスポーツアパレルのOEMがメイン。ターゲットとなる市場は日本向けが中心だが近年、海外マーケットや内販向けも増えてきた。2017年度の取扱高は取引先の販売が順調なことに支えられ底堅く推移する。

 現地で生産管理を行うジャカルタ駐在員事務所の桑本幸三所長は「事業拡大に向けて新規顧客の開拓が重要」と述べ「納期、品質と量、価格で顧客のニーズとマッチする案件の受注拡大を進める」と話す。

 インドネシアもここ数年、毎年8%程度の賃金上昇が続くが、中部・西ジャワ地区の最低賃金はカンボジアやベトナムより低くインドネシア縫製の競争力は依然として強い。豊富な労働人口もメリット。

 半面、調達可能な生地のバリエーションが少ない、技術レベルの低さといったデメリットもある。これらの弱点を補うため①素材メーカーとの関係を深めることによる現地での素材調達拡大②技術者育成による品質向上とリードタイム短縮③現地スタッフ増員による生産管理業務の効率化――に力を入れる。