シリーズ事業戦略/クラボウ/新ビジネス創出へ前進/次世代の生産工程が実証段階に/代表取締役 常務執行役員繊維事業部長 北畠 篤 氏

2018年09月12日 (水曜日)

 クラボウの繊維事業部が新たなビジネス創出に向けて大きく動き出した。色落ちしにくいデニム「アクアティック」の量産体制が整い、製造コスト削減にもめどがついた。独自のスマートウエア「スマートフィット」もサービスの提供が始まり、導入社数を着実に増やしている。裁断くずをリサイクルする取り組み「ループラス」の店頭展開も始まった。生産面では“スマートファクトリー”実現に向け次世代の生産工程が実証段階に入った。

  ――ここまでの業績を振り返っていただけますか。

 第1四半期は、想定外のコストアップに悩まされました。染色や加工工程の薬剤が予想以上に値上がりしたことに加え、小口生産の増加に対応するために労務費も増えました。

 原糸販売は前期から引き続き苦戦しましたが、底を打ったとみています。昨年から仕掛けてきた新たな素材開発や顧客との取り組みが実を結びつつありますので、徐々に回復に向かうとみています。

 ユニフォーム分野はワークウエアを中心に安定した需要が続いています。6月に初めて大阪で開催した素材展も好評で、多くの新たな案件も出ました。

 カジュアル分野は悪くありません。下半期以降もロスを出さず、コストダウンをしながら収益に結び付けていきます。しかし、繁閑差が大きいことが課題です。この解決の鍵を握るのが、安城工場内に今春新設したテキスタイルイノベーションセンター(TIC)です。

  ――TICでの取り組みについてお聞かせ下さい。

 紡織、染色加工、縫製の各工程での省人化、生産状況の数値による可視化といった“スマートファクトリー”の実現に向けた研究をしています。安城と徳島の両工場を試験場としてTICが考案した新たな生産の在り方を検証しています。

 近い将来、工場の機械の稼働データを厳密に把握することでトラブルの原因をすぐに突き止めたり、瞬時に正確な納期をはじき出したりすることが可能になるでしょう。

  ――デニム分野での新たな動きを。

 アクアティックの販売が始まりました。安城工場、徳島工場が今期に入って量産技術を確立し、TICの尽力によりコストダウンの見通しが立ちました。世界的に日本製デニムは地位が高く、国産のアクアティックには、国内だけでなく欧米からも多くの引き合いが寄せられています。

  ――海外拠点の現状は。

 インドネシアのクマテックスの生地販売は、日本のユニフォーム市場が堅調なため順調ですが、糸の売れ行きが低迷しています。縫製のアクラベニタマは堅調です。中部ジャワの外注工場を活用し価格対応をしながらOEMの受注拡大に取り組んでいます。

 タイの拠点は全般的な労務費のアップもあり、日本向けの供給が落ち込んだため業績は伸び悩んでいますが、基本的に技術・販売の両面で実力はあります。

 来期からタイ・クラボウ(TKC)には、差別化素材を製造・販売する第二のヘッドクオーターとしての役割を担ってもらおうと考えています。今は本社が司令塔となって海外拠点に指示を出していますが、生産の大部分を海外が担っている今、TKCがハブになって自ら外注できるようにするなど一定の主体性を持って、インドシナ半島や周辺の需要に対応できる体制を検討しています。

 ブラジルは同国内の政治・経済情勢が不透明なほか、同業他社の攻勢もあり勢いを欠いています。

  ――スマートフィットを活用したサービスの提供が5月から始まりました。

 まだ1社当たりの着用人数は少ないが、導入する会社数は増えています。まずは試験的に使ってみるといったケースが多い。採用してくれる社数を増やして、それから1社当たりの着用者数を増やしていく計画です。

 これまで当社は“良質で、安く、速い”モノ作りに力を入れてきましたが、物があふれかえる現代において、物だけでは消費者に喜びや感動をもたらすのは難しくなっています。スマートフィットのように生体情報という一人一人異なる要素にマッチしたサービスや安全・安心といった目には見えない価値がこれまで以上に必要とされています。スマートフィットに限らず、こうした最新の技術を駆使して新たな価値を創造することがこれから成長するビジネスだと考えます。

 ループラスも当社の新たな挑戦です。この事業はビジネスと廃棄物を減らす社会貢献とを両立する取り組みです。国連が提唱する「持続的な開発目標(SDGs)」にも貢献できます。既にリサイクルした衣料品の販売が始まっており、これから規模を拡大していきます。今はベトナムの協力工場でリサイクルしていますが、秋頃に安城工場にも設備を入れて国内でもできるようにします。

 アクアティックのループラスという構想もあります。アクアティックは元々、製造時の水の使用量が少ないため、環境に貢献できる素材です。それが再生できるとなれば、環境への意識が高い欧米からのニーズがさらに拡大するのではと期待しています。