特集 ビシュウ・マテリアル・エキシビション(BME)(1)/ウール高騰の対応商品を/持続可能性の流れも顕著

2018年10月09日 (火曜日)

 尾州産地の新作服地の展示会「ビシュウ・マテリアル・エキシビション(BME)」が17~19日、東京都港区のテピアで開かれる。尾州の生地メーカー16社が出展し、19秋冬向けに企画した生地を出品する。一宮地場産業ファッションデザインセンター主催。

 尾州の多くの生地メーカーが対応課題に挙げるのがウール価格の高騰。「びっくりするぐらい上がっている」という声もあり、今後、価格が下がる見通しはないというのが共通認識となっている。対応に苦慮している生地メーカーも多く、この19秋冬企画のモノ作りも大きな影響を受けている。

 ウール高騰への対応策として見られるのは二つ。一つはウールの混率を落としたり、ウールに見える代替素材を使ったりして値段を下げる方法。もう一つは、高価格に納得感を持たせるため、あえてウール100%などで高級感を狙うかだ。

 今展でも、各生地メーカーは、ウールにポリエステルやナイロンなどの合繊を入れてリーズナブルな価格にした生地や、スーパー120、140の梳毛やカシミヤ、シルクなどの高級素材を使った生地などさまざまな商品を出品する。

 そして、もう1つの大きな流れはサステイナビリティー(持続可能性)を意識した商品だ。ノンミュールジングウールや再生ポリエステルといった素材はもちろん、生地を購入すると途上国へ寄付できる仕組みを始めた企業もある。

 欧州ではサステイナビリティーをテーマにした展示会も開かれている。その流れは日本国内に波及しつつあり、2020年の東京オリンピックに向けてさらに加速する。今展ではその一端が垣間見えるだろう。

〈岩田健毛織/こだわりのイタリア糸使い〉

 岩田健毛織は、梳毛や紡毛の国内糸を使った生地に加え、ファンシー系のイタリア糸を使ったこだわりの生地をアウター向けに訴求する。全体の出品数は約100点で、そのうち新作は50点ほどになる。

 以前からイタリア糸を使ったモノ作りをしている同社。これまでは、春夏向けで多く使用していたが、他社との差別化を図るため、秋冬向けにも広げる。今回の提案商品でも3割ほどがイタリア糸。

 イタリア糸の原料はスーリーアルパカやスーパーキッドモヘアなどの高級獣毛が中心。メランジカラーのネップ糸やスラブ糸、ループ糸などのファンシーヤーンを使った生地を提案する。

 鮮やかな色合いやシャギーなどの表面感といった見た目にインパクトのある生地をそろえた。

〈ソトージェイテック/グループ力を生かす〉

 ソトージェイテックは、ソトーのグループ力を生かしたモノ作りで、高級感や上質さをアピールする。ウールや化合繊などの素材や組織に合った整理加工で、豊かなバリエーションの生地を展示する。

 ウール100%やウール・合繊混などの素材に対し、ソトーの染色や仕上げ加工の技術を活用しながら、多彩な商品を出品する。具体的には、48、60、72、90番単糸を使った無地の生地には加工で表情を変えた商品を提案する。

 16番単の紡毛糸を使った生地は織・編み物で展開する。ラッセルは軽さと膨らみが特徴。織物に近い、生地の安定性があり、着やすさがある。16番双糸を使った織物は、起毛に適した変化組織で、ビーバー・メルトン仕上げを施し、高級感を表した。

〈鈴憲毛織/有松絞りのコラボ第2弾〉

 鈴憲毛織は、伝統工芸「有松・鳴海絞り」とコラボした生地の第2弾を提案するほか、顧客のニーズに合った織物や編み地などの商品を訴求する。

 有松・鳴海絞りとコラボした生地は、「コイン絞り」と呼ばれる技法を使った。生地にコインの円形を浮き出すため、絞りの工程で生地にコインを入れて縛り、縮絨を施した。Vの字型にコインの形が並んでおり、一風変わった表面感が特徴だ。生地はブルガリアのハイランドウール100%。

 ウール価格の高騰に対応した生地も提案。「ウールに見えるもの」という顧客からの要望に応え、表側にポリエステル・ウール混を配したラッセルを訴求する。

 膨らみ感を持たせたジョーゼットや、浅野撚糸(岐阜県安八町)とコラボした生地もそろえた。

〈長大/持続可能性意識した商品〉

 長大は、ウール100%の生地を中心に、サステイナビリティー(持続可能性)をうたったり、特徴的な表面感を施したりした商品を提案する。

 リサイクルウールを使ったデニム地は、上着などのアウター用に展開する。経糸には豊島が開発した再生ウール使いの「アプリクション」、緯糸に綿100%を配した。他にも、同社のノンミュールジングウールの「ローバー」を使った生地もそろえた。

 48番双糸の梳毛100%使いの生地は、タンブラー加工で生地表面に凹凸感を表した。ナチュラルでソフトな風合いも特徴とする。ジャケットやパンツ素材として訴求する。

 経糸にスーパー140の梳毛、緯糸にスーパー120の紡毛を配した生地は、樹脂の含浸加工でハリ感を付与し、ソフトすぎない風合いを目指した。

〈中伝毛織/テーマに沿ったモノ作り〉

 中伝毛織は、自社で決めた四つのテーマに沿い、イタリアのテキスタイルデザイナーとコラボした生地ブランド「テクスター」を打ち出す。

 テーマは「アイスエイジ」「ブリット」「グリーンワールド」「アンカテゴライズド」の四つで、それぞれのテーマに合わせた原料や素材、カラーでモノ作りを行った。1テーマで10~15点ほどの新作を出品する。

 アイスエイジはカシミヤなどの獣毛混を使い、北欧をイメージさせるナチュラルカラーの商品をそろえた。ブリットはツイードやコーデュロイのほか、先染めチェック柄で英国調を表現。グリーンワールドはグリーン系のカラーを多数そろえ、エコや自然を意識した。アンカテゴライズドはファンシー系の素材を使って、生地の表情や色合いを強調した。

〈林実業/特徴的な表面感を〉

 林実業は、ロービング糸を使った生地やカラミ織りを中心に特徴的な表面感を持たせた商品を展示する。

 ウール、アクリル、ポリエステルを使った生地は、緯糸にロービング糸を配した。透明のフィルムで巻いてあるため、生地の色が透けて見え、ラメのような光沢感がある。リング糸を使い、表面に凹凸感を表した。

 ウール、ナイロンを使ったカラミ織りは、加工でボリューム感を施した。生地は肉厚だが、軽量感に優れる。経糸にファンシーヤーンを入れて、独特な柄を表現した。

 秋の立ち上がりに向けて、透け感のある生地もそろえる。ウールとナイロンを使ったチェック柄で、シャツやブラウス向けに提案する。

 ウール、モヘアのカラミ織りは、ジャケットとして製品展示する。

〈西川毛織/ウールで多彩な生地〉

 西川毛織は、ウール100%やウール混の生地でさまざまな商品を提案する。

 経糸に60双のウール、緯糸にモヘア、綿、ウールを配した生地はジャカードで大柄を表現した。モヘアを入れることで、ハリ・コシ感のある風合いを表した。

 経、緯糸に72双のスーパー100のウールを使った生地は、ドビーでチェック柄を施した。織り組織と色、撚り方法を組み合わせて、角度によって色の見え方が変わるのが特徴だ。チンツ加工により、抑えた光沢感もある。

 綿、ウール、ナイロンを使った2重織りは、裏側を起毛してパイル調にした。綿を入れることで、ウールでは出せない、風合いやかさ高性を実現した。

 サステイナビリティー(持続可能性)に向けた取り組みもアピールする。

〈ヒラノ/機能糸でストレッチ性〉

 ヒラノは、ストレッチ性がある機能糸を使った生地を中心に、非ウールの素材や高密度織物などさまざまな生地を出展する。

 ポリエステルのウーリー糸を交撚した「パスタ」を緯糸に使った生地は、ハリ感や軽さがある上に、ストレッチ性に優れるのが特徴。毛番で6番という太さで、カーシートやインテリア関連に使われていた。生地はコート向けに訴求する。

 経、緯糸にポリエステル・ウール混の高収縮糸「ZT」を使った生地は、2ウエーのストレッチ性を持たせた。スカートやボトム向けに提案する。経糸にトリアセテート、緯糸にZTを配した2重織りは、1インチ当たり、経195本、緯92本の高密度で織り上げた。抑え目の光沢感も特徴で、ワンピースやスカート向けに訴求する。

〈日本エース/リーズナブルな商品を〉

 日本エースは、異素材のリバーシブルやセミファンシーニット、ポリエステル・ウール混の糸を使った生地を提案する。ウール価格の高騰に対応し、リーズナブルな商品をそろえた。

 表側がポリエステル・レーヨン混、裏側がスーパー100ウール・ナイロン混の2重織りは、ループやシャギーでボリューム感を表現した。2重織りではほかにも、ウール・ポリエステル混や綿・ウール混などの生地もそろえる。

 ニットはウールやアクリル、ポリエステル、ナイロンを使ったファンシー素材をアピール。ループやラメなどにより、特徴的な表面感やカラーを表した。

 インドで紡績したポリエステル70%・ウール30%のオリジナル糸を使った同社定番の生地も出品する。

〈ファインテキスタイル/天然繊維などをアピール〉

 ファインテキスタイルは、ウールや綿などの天然繊維をメインに使った生地に加え、ウール・合繊混でリーズナブルな商品も提案する。

 経糸が綿、緯糸が綿・ウール・ナイロンの混紡糸を配した生地は、繊度が17・5マイクロメートルというジーロンラムウールを使い、ソフトな風合いとタッチの良さを追求した。

 梳毛糸やストレッチ糸を使った生地は、表面をパイル調に仕上げ、ニット風に見えるのが特徴。緯糸に配したストレッチ糸が縮むことで、ウールが表面に浮き出て、パイル調になる。

 ウール価格高騰でコストを抑えた商品もそろえた。梳毛糸、ポリエステル・レーヨン混の強撚糸を使った生地は、ワンピースやブラウス向けに提案。角度で柄の見え方が変わるポリエステル・レーヨンのジョーゼットもある。

〈三星毛糸/あえて高級素材訴求〉

 三星毛糸は、ウール価格の高騰に対応する商品として、あえて高級な素材を使った生地をそろえた。ウール値上がりに納得感を持たせるためで、スーパー140~160のウールを中心に、カシミヤやシルクなどを入れたアウター向けの商品を訴求する。

 経糸にウール、緯糸にカシミヤを配した生地は、コートやジャケット向けに提案する。表面に起毛を施した。光沢感と高級感が特徴。経糸がウール、緯糸がウール・モヘアの混紡糸を使った生地はコート向けで、モヘアで光沢感を表した。表面はシャギー調に仕上げた。

 ウールとシルクの交織織物は、シルクの光沢感とウールのマットな色合いで、生地に独特の表情感を付与。シミ防止のため、撥水(はっすい)加工も施した。ジャケット向けに展開する。

〈虫文毛織/薄手向けを中心に〉

 虫文毛織は、備蓄するオリジナル糸を使い、秋の立ち上がりを見据えた、薄地商品を中心に梳毛から紡毛までのバリエーション豊かな生地を展示する。

 72双のウール100%梳毛糸やウール・レーヨンの混紡糸に強撚をかけることで、シャリ感がある生地に仕上げ、秋の立ち上がりを狙って打ち出す。

 ウール価格の高騰などに対応するため、経糸に合繊、緯糸にウールを配した交織織物などもアピールする。半面、上質でこだわりの素材を使った生地も提案する。ウールのスーパー原料やシルク混などで高級感を狙った。

 今展の糸製造業とのコラボ企画では、滝善と共同でモノ作りを行った。滝善のファンシーヤーンを部分的に使いながら、華美になり過ぎない落ち着いた商品に仕上げた。

〈みづほ興業/加工技術と企画力訴求〉

 みづほ興業は、7月にイタリアで開催された服地見本市「ミラノ・ウニカ」で好評だった生地を中心に、同社の加工技術と企画力を生かした商品を訴求する。

 先染めのウール100%の生地は、ムラ染めを表す「アーバン」加工で独特の色合いを表現した。経糸にポリエステル、緯糸にウールを配した生地は桐生産地とのコラボ商品。桐生で高密度に織り上げ、自社で針起毛を施した。

 ポリエステル・ウール混の生地は、一風変わった手触りとハリ・コシ感が特徴。融着ポリエステルを使い、整理工程で溶かすことにより、樹脂加工では表せない生地の表面感を実現した。

 ウール・ポリエステル・レーヨン・ポリウレタン混の生地はロービング糸を使うことで、凹凸の立体感を表した。

〈森織物/ウールと合繊の複合提案〉

 森織物は、ウールに合繊素材を複合させた生地を中心にさまざまな商品を提案する。

 ウール80%・カシミヤ10%・ナイロン10%の混紡糸使いの生地は、先染めのチェック柄を展開する。スーパー90のウールを使い、ナップ調の凹凸感を施した。カシミヤで高級感やソフトな手触り、ナイロンで強度を持たせた。

 英国羊毛を使ったオリジナル糸の生地は同社のロングセラー商品。トップで8色展開しており、メンズ向けにはジャケット、ブルゾン、コート、レディース向けにはジャケットやスカートの生地として訴求する。

 サステイナビリティー(持続可能性)を意識した商品もある。ブークレ糸で表面にループ状の表面感を施した生地は、裏側にリサイクルウールを使った。軽さと膨らみ感もある。

〈宮田毛織工業/持続可能性を意識〉

 宮田毛織工業は、サステイナビリティー(持続可能性)を意識したオリジナル素材を提案する。素材は尾州の染色、紡績の2社とコラボして開発した。

 同社は輸出の割合が高く、直接・間接貿易を含め売上高の35%以上を占める。そのため海外に訴求する上で、「環境と未来を考える企業へ」というテーマを掲げ、環境保護や動物愛護を掲げたモノ作りを行ってきた。

 前回のBMEにもサステイナビリティーの商品を出品していたが、既存の商品を紹介するにとどまっていた。今回はオリジナル素材を開発したという点で大きく異なる。

 再生ポリエステルやノンミュールジングウールなどの原料調達ルートも確立。自社工場には編み機を150台保有し、QRができる生産体制も敷く。

〈渡六毛織/羊の毛色をそのまま使用〉

 渡六毛織は、サステイナビリティー(持続可能性)を意識した商品として、染色工程を省き、羊の毛色を生かした「エコウール」を提案する。

 染色工程で使われる薬剤や染料などが、環境へかける負荷が大きいことに着目した。染色せずに羊が本来持っている毛の色をそのまま使い、さまざまな柄をそろえた生地を訴求する。

 羊の毛を色ごとに選別し、糸にする。オフホワイト、グレー、チャコールと、これらを混ぜたミックススラブの4色をそろえ、生地ではチェックや千鳥格子など6~7種類の柄を展開。ジャケットやパンツ向けに訴求する。

 同社はリサイクルにも力を入れる。生糸にはできないシルクの繭から作る紬糸を、紡糸の方法に工夫を加え、ワンランク上で高品質な紬糸を使った生地もそろえている。