2018秋季総合特集Ⅳ(5)/top interview 豊島/ソサエティ5.0対応怠りなく/社長 豊島 半七 氏/産業資材・合繊分野の拡大へ

2018年11月01日 (木曜日)

 今後最大のインパクトは「ソサエティ5.0」と豊島の豊島半七社長は指摘し「研究、対策、実地に怠りなく取り組む」と強調する。事実、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)を通じた事業投資に続き、先頃、東京大学の生産技術研究所への寄付による「豊島ライフスタイル寄付研究部門」の新設も明らかにした。この研究所ではソサエティ5.0の芽生えとなる技術シーズをビジネス段階に引き上げ「新ビジネスの創造」を目指すなど、同社は先を見据えて着実な布石を打っている。

  ――業界にとって今後最大のインパクトは何だとお考えですか。また、それに対してどのように対応されていますか。

 最大のインパクトは「ソサエティ5・0」ではないでしょうか。言葉だけが多少先行していますが、そう捉えていると足元をすくわれます。その面ではソサエティ5・0に対する研究、対策、実地に怠りなく取り組む必要があります。その中で、消費者に付加価値を理解してもらえる努力を全ての業種で行うことが重要です。それはネット販売であろうと、実店舗であろうと同じです。時代とともに専門店から量販店、モール、そしてネット販売へと流通が変化する中で、それに対応できる能力を身に付けることが重要だと考えます。

  ――先日、発表された東京大学の生産技術研究所(東京都目黒区)への寄付による「豊島ライフスタイル寄付研究部門」の新設も対応策の一つですね。

 豊島ライフスタイル寄付研究部門は生産技術研究所の野城智也教授を特任教授としてファッション業界だけでなく、医療・介護・健康などライフスタイルに関する市場ニーズをくみ取り、ソサエティ5・0の芽生えとなる技術シーズをビジネス段階に引き上げる取り組みです。これを通じて新ビジネスの創造を目指します。期間は3年間ですが、進展するような案件があれば、さらなる投資または寄付も考えます。

 CVCを通じた事業投資も同じです。ケミカルリサイクルの日本環境設計(東京都千代田区)、スマートアパレル開発のXenoma(東京都大田区)、インドネシア最大級のEC(電子商取引)モールであるVIP PLAZAインターナショナルなどへ投資も行いましたが、さらに新しい案件も検討しています。

  ――投資では国内外の縫製工場を子会社化されました。

 ベトナムではレディースユニフォームの安定した生産拠点として商権の拡大を図る目的で現地企業を子会社化し、トヨシマ・ロン・アン・ガーメントを設立しました。日本では婦人服の縫製工場を継承し、トヨシマエクセルとして10月からスタートしています。当社は百貨店向け婦人服が元々強くありません。トヨシマエクセルは高品質なパンツやスカートの生産機能があります。百貨店全体は落ち込んではいますが、当社にとっては一からのスタートですので、チャンスと捉えています。

  ――さて、前6月期は2桁%増収ながら2桁%減益となりました。

 繊維素材は増収も減益でした。綿花は前期に続き東南アジアでの三国間貿易の拡大により取扱数量の増加と、綿花相場高騰による単価上昇も寄与し増収でした。綿糸は三国間貿易や産業資材の取り扱いが減少しましたが、原毛価格の高騰と販売数量の増加で原糸販売全体では増収でした。しかし、主力品の競争激化に加え、原油価格や輸送費上昇分を転嫁しきれず利益は横ばい。生機・加工織物は生地輸出が減少しましたが、ユニフォームや切り売り向けが拡大し、コンバーター向け定番品のシェア向上もあり売上高は横ばい。ただ、原糸と同じくコスト上昇で利益は前年を下回りました。

 繊維製品も増収減益です。消費低迷などによるアパレル業界の苦戦や低価格化の定着など厳しい状況下にあり、為替相場は安定していましたが、中国や東南アジアでの環境規制強化や人件費上昇もありました。その中でEコマース市場が急速に拡大していますので、強化に取り組んだほか、自社開発素材による差別化や異業種への販売促進、CVCを通じたファッションテック出資をベースにした付加価値提案も寄与し増収でした。ただ、品質不良や納期トラブルの増加、生産コスト上昇分を転嫁しきれず減益でした。

  ――今期の見通しはいかがですか。

 厳しい状況が続いており、第1四半期も芳しくはありませんが、期初目標は達成したいと考えています。そのために素材発信力・調達力の強化による主力商材のシェア拡大、産業資材・合繊分野の拡大、海外販売の商流拡大、製品OEM/ODMの進化、その上でCVCやM&Aによる新たな商材やITを活用した市場開拓に取り組みます。また、人材育成や多様な人材の活用により業務効率化や組織力を強化し、外的要因に左右されにくい安定的、持続的収益を確保できる体制の確立を目指します。

  ――合繊の拡大の狙いは。

 人口増に加え、天然繊維に比べて安価な点もあり、合繊市場は広がっています。その面で当社が産業資材を含めた合繊に力を入れるのは自然な流れです。しかも、決して強い分野ではありませんので改めて力を入れます。

  ――人材育成や多様な人材活用も課題に掲げておられます。

 やはり、従来とは異なる人材を育てる必要があると考えています。一律でカラーに合うか合わないかだけではなく、女性活用はもちろん、こだわりを持った人などさまざまな考え方を持つ人材が必要な時代です。当社は今年「健康経営優良法人2018~ホワイト500~」にも認定されました。この点もアピールしながら、多様な人材を採用、育成していきたいと考えています。

〔略歴〕

(とよしま・はんしち) 1985年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て、2002年から現職。

〈私のお気に入り/ファイターズファン、目指すは球団幹部〉

 「北海道日本ハムファイターズ」がお気に入りという豊島さん。名古屋にいながらパシフィックリーグ派は珍しい。しかも、前身の「東映フライヤーズ」時代からというから、年季が入っている。今でもファイターズが負けると「態度に表れてしまうので、家族にはすぐ分かってしまう」そうだ。そんな豊島さん、最近は単にファンにとどまらない欲求がある。それは「球団幹部になりたい」というもの。「お金を払ってでもやってみたい」と本気モードだ。55歳ごろから思い始めたらしく、知る人ぞ知る、静かなる野望かも。GMに就任して「チーム編成も変えてみたい」とも話す。さて、豊島さんの手によって、ファイターズがどう変わるのか。見てみたい気もする。