2018秋季総合特集(12)/top interview 帝人/原燃料価格に好機見出す/帝人グループ常務執行役員マテリアル事業グループ長 小山 俊也 氏/アラミドで断トツの地位を

2018年10月29日 (月曜日)

 「2位を大きく引き離して1位を狙う」――帝人マテリアル事業グループの小山俊也帝人グループ常務執行役員マテリアル事業グループ長は、順調な販売を続けるパラ系アラミド繊維のさらなる成長に自信を見せる。確固たる地位を築くためには「生産設備の増強も辞さない」との考えで、メタ系アラミド繊維を含め、アラミド繊維全体での着実かつ大きな成長を志向していく。炭素繊維はターゲットとする2020年代の飛躍のために準備を整える時期と話し、花が開く時に向けて基盤を固める。

  ――マテリアル事業グループにとって最大のインパクトは。

 原燃料価格の動きに尽きるのですが、良い面と悪い面の両方があります。良いのはアラミド繊維です。モノマーから糸まで自社で生産しているので、原燃料価格の動向に対する耐性は比較的強いと言えます。その分競争優位性を発揮できるようになっています。アラミド繊維は需要自体も旺盛で、厳しさはあるものの、追い風が吹いています。悪い面は炭素繊維で、アクリロニトリル価格高騰の影響をまともに受けている状況です。

  ――どのような対策を行っているのですか。

 炭素繊維は原燃料価格動向の直撃を避けるためにも糸販売からの脱却が必要です。このために米国に立ち上げる炭素繊維原糸の新工場をハブに対応力を強化するなど高付加価値路線にシフトしています。当社が狙いを定めている中・小型航空機も伸び代が期待できます。航空機・宇宙機器メーカーは2037年までに生産する航空機のうち、8割が中・小型機とアナウンスしており、先行きへの不安感はありません。

 樹脂分野についてもコンパウンド化で対応しているのですが、特殊製法を生かした製品が展開できています。構造改革が終わり、キラーコンテンツを持つフィルムは、自動車関連や缶ラミネートなどで特徴を持ったビジネスを展開し、原燃料価格の直撃を回避しています。同時に自助努力だけで吸収できない部分は値上げもお願いしています。フィルムや樹脂のほか、アラミド繊維でも若干の価格改定を実施しています。

  ――米中貿易摩擦をはじめとする通商問題の影響はありませんか。

 アラミド繊維は、かつて米国向け防弾用衣料が主力でしたが、現在はタイヤ補強材などがメインです。高速で走った時にもタイヤの変形が抑えられるのがメリットで高い評価を獲得しています。これは欧州市場での販売が多く、通商関連での影響はあまりありません。炭素繊維は米国に工場を建設して資材などを輸入していますが、米国内で調達するよりも安く収まるケースもあります。樹脂は中国で生産しているものがあるので注視は必要です。

  ――そのような状況の中での18年4~9月期業績は。

 大変良い成績を残せたと考えているのがパラ系アラミド繊維です。マーケットが全体的にタイトだったことなどが奏功して、出荷量がプラスとなり、販売価格も戻りました。繰り返しになりますが、当社のパラ系アラミド繊維には強いフォローの風が吹いているので、この流れの中、販売量とコストリーダーシップ戦略で2位以下を大きく引き離した1位を狙います。そのためにはさらなる増設もあり得ます。

 メタ系アラミド繊維についてもタイの拠点がフル生産になるなど順調です。環境規制の影響で中国向けのバグフィルターの需要が拡大し、価格が上昇していることなどが背中を押しました。しかしながら元々念頭に置いていたのはASEAN地域でのプロテクティブアパレル用途の伸長でした。想定ほど伸びておらず、ビジネスドメインの見直しが不可欠です。

 苦戦を強いられたのは炭素繊維で、その大きな要因は航空機のビルトレートです。航空機そのものよりもエンジンが間に合わなかったと聞いています。航空機用途をカバーできませんでしたが、レクリエーション分野は伸長しました。特にASEAN地域でのバドミントンやテニスラケット、釣りざお用途などが好調でした。炭素繊維メーカーの多くが風力発電用途や圧力容器用途に目を向けたことが奏功したようです。

  ――下半期(10月~19年3月)の重点方針は。

 パラ系アラミド繊維は「テクノーラ」で能力増強を終え、「トワロン」も今年度からの5年間で生産能力を25%増やしていきます。これまでは「セル(販売)」と「ハント(新しい分野を探す)」の二つを志向してきましたが、テクノーラとトワロンともに今はとにかく販売面を重視したいと思います。糸販売に加えて、複合成形分野を強化したいと思っています。

 メタ系アラミド繊維は岩国事業所(山口県岩国市)とタイで生産していますが、岩国事業所は高付加価値品で勝負します。タイはバグフィルターのほか、欧米市場向けのプロテクティブアパレルやアウトドア衣料への提案を強めます。タイは生産が順調なのですが、人件費をはじめとする製造コストが上昇しているので、ロボットによる業務自動化などコンパクトなオペレーションを進めます。

  ――4~9月で苦戦した炭素繊維は。

 好調なレクリエーション分野をさらに深掘りすると同時に、航空機の需要を確実に取ることにまい進します。当社は熱可塑性炭素繊維複合材料の開発強化を続けてきたので、この分野では一歩リードしていると自負しています。これからさまざまなオーダーが入ってくると予想しているのですが、米国の炭素繊維工場と歩調が合い、良い形になっています。20年代には花を咲かせます。

〈私のお気に入り/真珠の耳飾りと舞台女優〉

 絵画が好きだと言う小山さん。風景画ではなく、美しい女性が描かれた作品に興味を引かれると話す。中でもヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」やアルフォンス・ミュシャが描いたサラ・ベルナール(フランスの舞台女優)がお気に入りで、複製品を会社の机に飾っているほど。オランダに出張した際には真珠の耳飾りの少女の原画を見て、なんて奇麗な色使いだと心を打ち抜かれたと振り返る。本人は絵を描かないが、理由は「美術の成績は、“6段階でゼロ”だから」とほほ笑む。

〔略歴〕

(こやま・としや) 1986年帝人入社。2000年フイルム開発センター宇都宮開発室長、08年新機能材料事業開発部長兼電子材料開発室長、15年帝人グループ執行役員新事業推進本部電池部材事業推進班長などを経て、17年4月から帝人グループ常務執行役員マテリアル事業グループ長。