シリーズ事業戦略(1)/クラボウ/代表取締役常務執行役員 繊維事業部長 北畠 篤 氏/共創ビジネスを構築へ/海外でも技術継承・人材育成

2019年02月26日 (火曜日)

 クラボウは2018年度(19年3月期)で中期経営計画の最終年度を終え、19年度に新たな中期経営計画がスタートする。繊維事業部長である北畠篤代表取締役常務執行役員は「世の中にないものを作ることが重要。特に“コト”売りと共創ビジネスを作ることがテーマ」と話す。このほどベトナムに子会社を設けるなど海外拠点の整備も進めた。国内工場は情報通信・デジタル技術の活用でスマート・ファクトリー化を進めると同時に海外工場での技術継承・人材育成に取り組む。

  ――中計最終年度となる18年度もあとわずかです。

 繊維事業は全体として厳しい環境にあります。原燃料や染料・薬剤価格などコストアップが続き、それを十分に価格転嫁できていません。受注の小ロット化も進み、これもコストアップ要因です。

 ただ、原糸は国内需要低迷も海外中心に改善傾向です。営業スタッフの育成を進めてきた成果が上がり始めたことや、世界的に脱プラスチック・脱合繊の動きがある中で、当社はグラフト重合加工で天然繊維を機能素材化できる点で注目されています。インドネシア子会社のクマテックスで品質対応の設備投資を実施した効果もあります。ユニフォームも堅調です。定番品が安定していることに加え新商品や別注品が好調。増収基調で推移しています。

  ――カジュアルとデニムは。

 カジュアルは生地・製品とも苦戦です。品質に優位性があっても価格競争で後れを取るケースが増えてきました。品質と価格のバランスをどうするのか難しい問題ですが、やはり市場ニーズに対する分析をもっとしっかりとやる必要があります。デニムは対米輸出で成果が出始めています。色落ちしにくいデニム「アクアティック」も本格的な量産が始まりました。レーザー加工の際に廃水への環境負荷が低いことも海外を中心に評価されています。

  ――このほどベトナムにも子会社を設立しましたが、海外拠点はいかがですか。

 クマテックスは17年度に苦戦したのですが、原糸販売の回復に合わせて改善傾向です。タイ・クラボウなどタイの子会社も堅調です。当社のテキスタイル生産は既に、国内生産よりも海外生産の方が多くなっていますし、供給先も海外の縫製工場が中心です。そうした供給体制の核になるのがタイ・クラボウ。これは次期中計のテーマにもなりますが、繊維事業の海外拠点での生産全体のコントロールタワーの役割をタイ・クラボウで担う構想があります。そこでテキスタイルに関する技術継承や人材育成も行う。その上で国内工場は情報通信・デジタル技術を導入してスマート・ファクトリー化するという考えです。安城工場(愛知県安城市)にテキスタイルイノベーションセンター(TIC)を設置した理由もそこにあります。

 ベトナム法人の設立については、ベトナム縫製への生地供給が拡大していることが背景にあります。ベトナムは縫製品を多く輸出する一方、生地は輸入が多い。そこで現地での生地生産・販売体制を作ることが狙いです。原糸は早くから現地紡績で委託生産していますし、新たに織布・染色加工企業と連携し、技術指導もします。

  ――19年度から新中計が始まります。

 TICを中心に“世の中に無いもの”を作ることが重要。そのために情報通信・デジタル技術も活用し「スマートフィット」などスマートウエアなどウエアラブル分野への参入を進めます。製造と営業が一体となって市場からイノベーションを起こしたい。ポイントは、モノではなく“コト”を売る、そして“共創ビジネス”の構築です。例えば裁断くずを原料に再生する「ループラス」は、当社と取引先双方が知恵を出し合ってリサイクル・アップサイクルのイノベーションを起こす必要があります。そこから既に、開繊わたを原料にした30番手糸の紡績に成功するなど成果も上がり始めました。両者が協力して色管理することでリサイクル原料による色糸なども可能になるでしょう。繊維製品だけでなく複合材料の強化材といったアイデアもあります。そしてスマートフィットのように製品を売るだけでなく、機能やデータ、システムを売る仕組みも重要になる。次期中計では、こうした“コト”売りと共創ビジネスの構築に取り組みます。