2019春季総合特集Ⅱ(8)/トップインタビュー 帝人/「肝」を持つことが必要/代表取締役社長執行役員 鈴木 純 氏/目指す姿の実現へ前進を

2019年04月23日 (火曜日)

 帝人の鈴木純代表取締役社長執行役員は「大きな転換期だった」と、平成の30年間を振り返った。新時代の幕開けが目前に迫ってきたが、「変化(転換)は止まることなく、これからも続く」と予想し、「メーカーであっても完全自前主義でなくていい。ただ『肝』になる物を作ることが重要」と説く。進行中の中期経営計画は2019年度が最終年度となり、足元を固めながら、積極的に投資を仕掛けるなど、長期ビジョンで掲げている「目指す姿」の実現に向けて着実に足を進める。

  ――平成を振り返ると、どのような30年間だったと感じていますか。

 昭和の後半である80年代前半から変化の兆しは見えていたのですが、平成はまさに転換期だったと言えます。その典型が、日本経済を引っ張ってきた「設備投資を行い、良い物を作ることで世界を席巻していく」というやり方の終焉(しゅうえん)です。装置型産業の主役の座は新興国に移り、新たなビジネスモデルが求められましたが、うまく転換できずに多くの日本企業が苦しめられました。

 米国のようにIT産業が台頭し、モノ作りとかけ離れた世界が日本に訪れるとは考えていませんが、モノ作りだけでは立ち行かなくなるでしょう。その意味ではドイツが一つのモデルケースです。例えば、現在の繊維工場では、人間がやっていた部分がどんどん機械に置き換わっていますが、その機械はドイツ製であることが多い。最先端のIT技術とモノ作りのバランスが不可欠になると思います。

 結局、産業全体が振り回されたという感があります。繊維産業で言えば、新合繊が盛り上がりを見せたのですが、結局は低価格化の波にさらわれてしまいます。平成中盤にはSPA企業がメジャーになり、終盤は衣料品市場でレンタル、リユース、リサイクルという言葉を聞くようになりました。そのほかでは高機能繊維の資材分野への展開が加速した時代でした。

  ――平成は「転換期」ということですが、新しい時代はどうなりますか。

 変化は止まることなく、これからも続きます。変化の一つとして「サーキュラー・エコノミー」という考え方も出てきました。原材料に依存せず、既存の製品や遊休資産の活用で価値創造の最大化を図る経済システムです。世界の潮流になると思いますが、誰もが「現在の生活の質を落とさずにより良いステージに行きたい」と考えます。どのような形でサーキュラー・エコノミーを実現していくかが大きな課題です。

 帝人グループは今の中期経営計画2017―2019「ALWAYS EVOLVING」を作るときに、環境価値ソリューション、安心・安全・防災ソリューション、少子高齢化・健康志向ソリューションの三つに対してより良い解決策・サービスを提供したいと考えました。環境価値は地球に向き、安心・安全・防災は社会に向き、少子高齢化・健康志向は人に向いています。地球、社会、人に関するビジネスはこれからもなくなりません。

 その中で何が重要かと言えば、「肝」となるモノを作ることです。装置型産業は、どれだけ高度な製品を作っても長期間にわたって勝ち続けることはできません。「物」は設備があればできてしまい、どうしても競争が生まれます。肝となる部分は自分で作りながら、他社から購入できるものは購入してもいい。別の言い方をすれば完全自前主義とは違うところに新たな価値を見出すことも可能です。

  ――中期経営計画の2年目が終了しました。どのような着地でしたか。

 2016年度と17年度は世界的に見ても非常に良い2年間でしたが、18年度は、特にケミカル分野が息切れしました。今の事業環境をおかしいと見るか、今までが良すぎたと捉えるかで在り方が変わります。帝人の樹脂事業はスプレッドが最低とも言える状態にあったのですが、これがベースだと位置付ければ後は上に向かうだけです。そう考えられるのは、筋肉質の事業体を構築できたからですが。

  ――19年度は中計の最終年度です。事業環境の見通しは。

 世界経済の潮目が変化したのが18年度だったのですが、今後も何が起こるのか先が読めません。比較的良好と言われる米国の経済ですが、かなり低い成長率を予想する声があります。中国の動向も同様に全く読めません。自動車の売れ行きが落ちており、相当なダメージを受けているという観測があります。

 分かりにくいのが、英国の欧州連合(EU)離脱問題がくすぶっている欧州です。英国離脱による域内への経済影響を、EU諸国がどのように判断するかで今後の動向が違ってくるでしょう。それ以上に心配しているのがドイツの景気です。特に自動車関連が良くないのですが、こちらも見方が分かれていて「今年の中盤には戻る」と言う人がいる一方で、「長引く」と言う人もおり、注視が必要です。

  ――中計を仕上げるための重点施策は。

 事業環境が厳しく、しっかりと足元を固めることが大きな方針になるのですが、予定していた投資(3年間で3千億円規模)の3分の2程度しか決定ができていないので、積極的な投資を実施していきます。長期ビジョンとしてEBITDA2千億円超を掲げていますが、それが最終到達点ではありません。3千億円も見えるようにするためにも投資は重要です。

 19年度は次の中計も考えないといけないのですが、長期ビジョンで掲げた「目指す姿」が変わることはありません。SDGs(持続可能な開発目標)も経営に取り込んでいかなければならないでしょう。SDGsをポジティブに捉えればビジネスチャンスも生まれてきます。

〈平成の思い出/人生にある無限のチャンス〉

 「平成が始まった1989年1月は30歳。独身でアパート暮らしだった。その自分が社長職を務めているのだから感慨深い」と鈴木さん。平成に入ってから結婚し、欧州にも赴任した。激動・激変の30年間だったが、人間は変われると知った。「人生は思いもよらぬことが起こるが、無限のチャンスがある。変わることでモノにできる」と強調。帝人の将来を担う若手社員には「目の前の仕事をきっちりとこなせば、その仕事で第一人者になれる。そうすれば社内外で認められ、道が開ける」との言葉を送る。

〔略歴〕

すずき・じゅん 1983年帝人入社。2011年帝人グループ駐欧州総代表兼Teijin Holdings Netherlands B.V.社長、12年帝人グループ執行役員、13年4月帝人グループ常務執行役員、同年6月取締役常務執行役員、14年代表取締役社長執行役員CEO。