特集 差別化ヤーン/今こそ糸の価値を見直そう/糸の魅力で需要を掘り起こせ

2019年09月04日 (水曜日)

 衣料品を中心とした繊維製品の市況が盛り上がらない。特に国内衣料品市場は依然として低調な状況が続いている。こうした状況を打開し、需要を掘り起こすためには、従来以上に商品力の強化が欠かせない。その際、重要になるのが原糸。繊維の付加価値の原点は糸の魅力にほかならない。

 糸の魅力を再発信するためには、高品質な原料の選択や独自性のある機能化などが重要になる。近年は世界的にESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)への要求も高まる。こうしたニーズに応えるためにサステイナビリティー(持続可能性)などにも配慮した個性的な糸が求められる。

 個性的な糸の存在は、国内の繊維産地にとっても重要。産地企業が国際的にも競争力のある繊維製品を生産するためには、競争力のある糸の確保が必要不可欠となる。

〈東洋紡STC/人気高まる「トライクール」〉

 東洋紡STCのポリエステル紡績糸「トライクール」の人気が高まってきた。高い遮熱性能やUVカット機能が評価されている。

 トライクールは異型断面マイクロポリエステル短繊維による紡績糸。特殊紡績を得意とする富山事業所井波工場(富山県南砺市)の技術で開発したものであり、最近ではレディースシャツ地などで採用が進む。スポーツやアウトドア用途でも堅調な販売となっている。

 井波工場や同じく富山事業所の入善工場(富山県入善町)の紡績技術を生かした高付加価値糸の提案に引き続き力を入れる。ウール・ポリエステルの長短複合糸「マナード」もスポーツやアウトドアでウールへの注目が高まっていることから、これら新規用途への拡販を進める。

 サステイナビリティー(持続可能性)も重視し、オーガニックコットンの活用にも力を入れる。独自の原綿改質技術を応用し、吸水速乾や消臭といった機能性を併せ持ったオーガニック綿糸の開発を進め、インナーやカジュアル用途への提案を進める。

〈シキボウ/貴重な連続シルケット綿糸〉

 シキボウは、連続シルケット加工綿糸「フィスコ」を改めて打ち出す。現在、国内生産の連続シルケット加工綿糸は事実上、フィスコだけ。こうした希少性も打ち出しながら、新しい用途の開拓を進める。

 国内のアパレル関係者やデザイナーの中には連続シルケット加工綿糸についての知識が少ないケースも多い。ここで改めてフィスコを提案することで新鮮な印象を与えることもできるというのが同社の狙いとなる。

 既にタオルや靴下、インナー、レースなど新しい用途でも採用の動きが出てきた。また、婦人服でも従来の主力であったミセスに加えてキャリアやヤングにも可能性が広がる。

 そのほか、革新精紡による綿糸「ドラゴンツイスト」の提案にも力を入れる。革新精紡糸は太番手や中番手が一般的だがドラゴンツイストは60番手など細番手やラミー混紡糸など個性的な糸種をラインアップする。

 そのほか、横編みや経編み向けの糸開発にも力を入れる。10月に福井市で開催される糸展示会「北陸ヤーンフェア」にも出展し、北陸産地などでの新規取引先の開拓にも取り組む。

〈泉工業/引き合い強まる生分解性ラメ〉

 ラメ糸製造の泉工業(京都府城陽市)が開発した生分解性ラメ「エコラメ」への引き合いが強まっている。特に欧州へのテキスタイル輸出に取り組む産地企業からの注目は高く、既にサンプル出荷も始まった。量産化の目途も立ち、着色もテスト段階となる。

 ラメは基材にポリエステルやナイロンのフィルムを使うのが一般的だが、エコラメはセルロースフィルムを使用することで生分解性を実現した。現在は透明タイプのみだが、着色タイプの開発もテスト段階に入った。

 発表以来、日に日に引き合いが強まっている。特に欧州市場への輸出に取り組むテキスタイルメーカーの関心は高く、既にサンプル出荷も始まった。キュプラなどセルロース系繊維を使った織・編み物にエコラメを使うといった企画が多い。

 「欧州市場では生分解性などサステイナブル(持続可能な)素材が商談に欠かせなくなっている。その流れでラメ糸も生分解性のニーズが高まった」と福永均社長は分析する。このため得意の織物用途に加えて丸編みでも採用が進みそうだ。

 現在、着色によるシルバータイプの開発を急いている。早ければ10月に福井市で開催される糸総合展「北陸ヤーンフェア」で披露することを目指す。

〈豊島/定番糸から差別化糸まで〉

 豊島は綿糸、毛糸、合繊糸などさまざまな定番糸を備蓄販売する一方、差別化糸にも力を入れている。一宮本店一部は定番の梳毛糸、紡毛糸を取り扱うとともに、再生ウールを使った「アプリクション」やノンミュールシング羊毛使い「ローバー」を18秋冬から投入。さらに19秋冬からウールライクなポリエステル長繊維「ウールナット」も発売した。

 ウールナットは通常のポリエステル長繊維では難しいとされる、ウールの毛羽感と膨らみ感を表現できる点が評価され、同シーズンは計画を上回る販売数量を記録した。さらに20春夏向けには麻調ポリエステル長繊維「FLD」も新投入する。ウールナットの技術を生かして開発したもので、既に採用が決まっていると言う。

 綿糸や合繊糸を担当している二部は、サイロスパン精紡のコンパクト糸「スプレンダーツイスト」、スペイン産ピマコットンを使いによりサイロスパン精紡で甘撚り糸「サンリットメローズ」などの差別化糸を展開するが、着実に広がりを見せている。

〈ヤギ/エシカル切り口に糸開発〉

 ヤギは今春、独自のエシカル生地ブランド「フォレシカ」を立ち上げた。第1弾として、レンチングのレーヨン短繊維「エコベーロ」とオーガニックコットンの複合素材を投入。同社はエシカル指針「ヤギシカル」に事業部横断で取り組んでおり同生地ブランドもその一環。

 フォレシカは、わた軸、糸軸で展開するもの。オールシーズンに対応し、その肝はエシカルという要素。第1弾素材に採用したエコベーロは、木材資源を有効活用した環境対応型の繊維。欧州連合(EU)のエコラベル認証も取得するもので、ここにプレミアムオーガニックコットンを組み合わせた。

 第2弾以降の素材開発も進めて、サステイナビリティー(持続可能性)の関連団体との共同開発なども積極化していく。

 同社はこの間、糸加工の山弥織物(浜松市)を子会社化して糸からの差別化を推進。7月にはタオル製造のツバメタオル(大阪府泉佐野市)を子会社化して糸の「出口」を確保した。今後もグループ各社と連携し、祖業である糸で差別化戦略を推進する。

〈増井/認証も取得のレーヨン長繊維〉

 繊維専門商社の増井(大阪市中央区)は、中国から輸入販売するレーヨン長繊維で高いシェアを持つ。世界的にサステイナブル(持続可能な)素材へのニーズが高まる中、各種認証も取得するレーヨン長繊維を改めて打ち出す。

 同社は中国の吉林化繊が生産するレーヨン長繊維「プラチナホース」「ホワイトマウンテン」を国内産地に供給してきた。日本向けに対応した品質を確保し、紡糸方式もセントル方式と連続紡糸方式をそろえる。特に最近は連続紡糸方式の提案に力を入れる。国内の加工場を使い糸染めや撚糸、加工糸も供給する。

 吉林化繊のレーヨン長繊維は繊維製品の安全性の国際規格「エコテックス規格クラス1」を取得しているほか、原料の木材パルプも森林認証を取得している。このほどエコマーク認証も取得した。こうした認証を活用し、サステイナブル素材としての提案を強化する。

 同社は、再生ポリエステル長繊維や再生ポリエステル・綿混紡糸も販売しており、こちらもエコマークを取得している。環境配慮素材を「エコリンク」ブランドとして打ち出す。

〈新内外綿/「ボタニカルダイ」拡充〉

 新内外綿は天然由来染料を化学的に処理することで実用的な染色堅ろう度を実現した染め糸「ボタニカルダイ」の提案を強化する。ラインアップも拡充し、糸販売だけでなくニット生地の備蓄販売も始めた。

 ボタニカルダイは花由来7色、果物由来7色、コーヒーや茶、ハーブ由来5色の計19色に再編し、全色で30番手と40番手をそろえた。原綿はオーガニックコットンやレンチングの再生セルロース繊維「テンセル」を使用し、ボタニカルトレンドに対応した糸として打ち出す。

 ニット生地の備蓄販売も開始した。19色を備蓄販売し、既に母の日企画やペット用品向けで注文も得ている。糸だけでなく生地でも販売することでボタニカルダイの需要掘り起こしを進める。

 9月3日から5日まで東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれる「東京インターナショナル・ギフト・ショー」にも出展し、ボタニカルダイを採用した製品を紹介する。来場者にはミツヤコーポレーションと取り組むソニーの天然由来機能材「トリポーラス」を使った靴下をノベルティーとして配布する。