2019年秋季総合特集Ⅳ(6)/トップインタビュー 豊島/従来のやり方では通じない/社長 豊島 半七 氏/新しいことを模索する姿勢を

2019年10月31日 (木曜日)

 「日本の潜在力は技術力や開発力」と述べる豊島の豊島半七社長。それらは日本ならではの丁寧なモノ作りやメード・イン・ジャパンの発信などを支える土台とも言える。その一方で「従来通りのやり方で通用する時代ではない」とも指摘。開発はもちろん、生産から販売までのあらゆる工程で今までにない新しい発想が必要で、「顕在化するには常に新しいことを模索する姿勢が必要」とする。それは同社にも当てはまること。「イノベーションに乗り遅れてはいけない」と力を込める。

  ――日本の繊維産業の潜在力は何だと思いますか。また、その潜在力を顕在化させるためには何が必要になりますか。

 丁寧なモノ作りの姿勢であったり、メード・イン・ジャパンの発信であったり、そうしたことを含めた技術力や開発力だと思います。商業ベースとは別にして、それらは新たな技術開発やデザイナーのモチベーションアップにつながることもありますからね。各産地では生き残りを懸けて若い人たちが頑張っている企業も多いので、技術力などを活用していけば、今後も残っていくだろうと考えています。

 しかし、従来のやり方や物差しでは通用しない時代になっていますので、顕在化するにはそれらを刷新して、どうやって新しい発想を持つかが必要になるでしょう。それは素材開発や製造、販売の仕方などあらゆることが含まれます。常に新しいことを模索する姿勢が大事で、そのイノベーションの波に乗り遅れないようにしないといけません。

  ――2019年6月期の業績は微増収ながらも2桁%の減益でした。

 繊維素材部門は綿花を除いた部門で三国間貿易の取引が伸びましたが、国内市場の縮小と物流コストなど仕入れ価格の上昇を転嫁できず減収減益となりました。繊維製品部門はコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)の出資を継続していますが、従来型のビジネスモデルから脱却できず、収益性を大きく落とす結果でした。

  ――現況を踏まえ今後の方針を教えてください。

 素材部門は今期も綿花や羊毛相場の影響を受け、業績は去年並みで推移しています。その中で合繊糸は伸びてはいますが、当社はあくまで天然繊維が主力です。米中摩擦の影響で綿花相場の見極めも難しいですが、ポリエステル・綿混を含めた綿絡みの商品の提案にもしっかり注力したいと思います。

 製品部門は去年より少し良好です。ただ、気温の影響でアウターがあまり売れておらず、追加もないような状態ですので、先行きは厳しいです。ですから、お客さまのニーズをくみ取り、先取りした提案で受注を取り負けないようしなくてはなりません。前期は今まで通りの営業の仕方で、コストや納期だけを重要視しており、お客さまからしたら魅力を感じなかったのだと思います。

 ただ、全社的に言いますと、冒頭の話と共通する部分がありますが、新しい取り組みができていないため、苦戦していると言えます。新しい分野に仕事を求めたり、お客さまのニーズを探りながら、どうしたいかを真剣に考えている部署は徐々に出始めており健闘もしていますが、全体で見ればまだまだです。

 通期では売上高2千億円、経常利益60億円が目標です。ここ4、5年は経常利益60億円台だったので、今期で回復できないとなると抜本的な解決策が必要になります。今までのやり方ではいけないということがより明確になるでしょう。

  ――輸出やコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)についてはいかがですか。

 輸出はなかなか増えません。中国や欧州では少しずつ継続しているブランドも出てきましたが、米国については、一度決まっても次の年はゼロということもあり厳しい状況です。欧州では展示会にも積極的に出展し始めていますし、中国では上海法人で人員を増強しました。いずれにせよ中国、欧州、米国と全方位的に提案を強めていきます。

 CVCについては、人間の身体に関わるヘルスやスポーツ、ワーキングといった方面に投資をしています。そのうちの1社では現在試作品を作っておりテストを繰り返しています。来春ごろに完成品を発表できたらと考えています。

  ――現状の課題は何でしょうか。

 社員一人一人が充実した仕事ができているかを考えると不十分な部分もあると思います。ですから、当社の社員が豊島で働くということの満足度を上げていきたいですね。昔は余暇を犠牲にしてまで会社のために働くということが当たり前でしたが、現代では労働環境を無視することはできない。社員一人一人の満足度も異なりますから、その多様性に対応した会社のシステムがないといけません。ただ、会社は営利活動が基本ですので、なかなか大変ですが、一つ一つ地道にやっていくしかないと考えています。社員や世の中のために貢献できる企業として正しくありたいです。

  ――産地では規模の縮小に歯止めがかかりません。

 夫婦で切り盛りしているような織布工場や規模の小さな染工場などが日本のモノ作りを支えています。しかし、そうした企業の経営者は工賃の安さなどから、自分の子供たちに仕事を継がせようとはせずに廃業を選択しています。そういった厳しい現実に対して川下の企業はもっと理解を深めるべきでしょう。ただ、現代に合った知恵と行動力、そして新しい発想があれば生き残っていけると思います。これは産地のみならず当社にも言えることです。

〈私のリフレッシュ法/一人でいる時間を作る〉

 「仕事のことを考えない時間を作ること」と話し、最近は一人旅にはまっている。出張の後に時間を作り、神奈川県の三崎港や福島県の会津若松などへ足を運んだ。「この時間をどうしようか」と心を躍らせながら旅の計画を立てる。「ネガティブな考えになってしまうから」と基本的に自宅では仕事のことを考えないようにしている。10年前からはサイクリングもしており、「仕事を考えないような状況を作る。それが自転車だったり、一人旅だったりする」。せわしない日常から離れ一人だけの時間を楽しむ。

〔略歴〕

とよしま・はんしち 1985年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て、2002年から現職。