合繊メーカー エアバッグ事業/川下戦略に乗り出す/加速する海外生産増強

2019年12月19日 (木曜日)

 中国や欧州での自動車生産減速などに伴い、これまで右肩上がりを続けてきた自動車用エアバッグのマーケットが一転、伸び悩みを強いられている。エアバッグ用ナイロン66事業を展開する東レ、東洋紡、旭化成の3社はいずれも「下半期以降も苦戦は避けられない」と見通しており、市況回復後に同事業を再度、成長路線に乗せるべく、各社各様の中期戦略に力を入れている。(堤 貴一)

 エアバッグ用ナイロン66の市場は現在、踊り場を迎えているものの、中長期的には中国、インドのような後進国での需要拡大やエアバッグ搭載部位の広がりなどを背景に今後も年率7~8%程度で成長を続ける、というのが一般的な見方。このため、各社は市況が回復し、需要が再び拡大基調へと転換するタイミングをにらんだ中期戦略に取り組んでいる。

 川下志向を強めているのが東レと旭化成。

 東レはグローバル化に取り組み、原糸生産を日本、タイ、メキシコで、織布を日本、タイ、中国、チェコ、インド、メキシコでそれぞれ展開中。今年度はスウェーデンのエアバッグ縫製メーカーであるアルバ・スウェーデン及びポルトガル、チュニジアの子会社買収を決めた。この買収劇について、「予想以上の反響とともに、多くの引き合いが寄せられている」と言う。

 今後は縫製に関する知見を取り込むことで、次世代型のエアバッグ基布開発に反映させるとともに、日本やアジア、欧州連合(EU)、北米に展開する織布工場の隣接地に「縫製工場を設立することで縫製事業の拡大を検討したい」という考えを示す。

 旭化成は2020年度中にアジアでナイロン66「レオナ」の新工場を立ち上げる計画だったが、原糸生産での海外進出を2年ほど延期。しかし、将来の事業拡大をにらみ、旭化成アドバンスがベトナムに新会社・旭化成アドバンスベトナムを設立しエアバッグ縫製に参入した。

 出口戦略を充実させるだけでなく、自動車メーカー、モジュールメーカーと頻繁にコンタクトを重ねることで今後、自動運転などの普及に伴い多様化していくとみられている新しいエアバッグの設計、開発に縫製のノウハウを生かす。

 ベトナムでは、縫製能力を22年度で年産250万個、その数年後に同500万個に拡大。アジアにおける需要急増でエアバッグの縫製キャパシティーは近々、足りなくなると見通しており、縫製事業を「いずれは年産1千万~1500万個に拡大したい」と意欲を示す。

 東洋紡グループは日本、ドイツ、米国、中国で原糸を、日本、米国、中国、アジア、EUでエアバッグ基布をそれぞれ生産するグローバル化を進め、現在は海外で新工場を建設する準備を急いでいる。エアバッグのサプライチェーンにマッチしたタイを有力な進出先に位置付け、インドラマとの協議を急ぎ、遅くとも21年春から新工場での生産を立ち上げたい考えだ。

 今後は、東洋紡がエアバッグ縫製にも進出するのか、あるいは旭化成が現在は外注するエアバッグ基布の織布にも参入するのかが注目される。