特集 安心・安全(4)/高視認/労働者の安全を守る

2019年08月08日 (木曜日)

 世界の労働現場では安全確保の観点から作業服に高視認染色生地や再帰反射材を使用することが一般的。日本でも日本工業規格(JIS)が発行されるなど普及に向けた機運が高まる。高視認染色生地や再帰反射材を扱う企業にとって商品の提案に加えて普及へ啓発活動も重要になる。

〈ユニチカトレーディング/機能加工で高付加価値化〉

 ユニチカトレーディングが展開する「プロテクサ」シリーズは、着用者の安心や安全につながる高機能ユニフォーム素材だ。高視認の「プロテクサ―HV」や難燃タイプをラインアップしているが、機能加工と組み合わせることによって、高付加価値化を図っている。

 プロテクサ―HVは、ISO規格やJIS規格に応じた高い視認性が特徴。一般的に高視認素材は、汚れで視認性が弱まる場合があるが、同社は高耐久防汚加工の「ナノアクア―SO」「ナノアクア―MD」と融合し、そうした問題を解決に導いている。

 ナノアクア―SOは、汚れを落ちやすくする加工で、制電や吸水などの機能も持つ。従来の樹脂加工法(パディング法)とは異なる手法で機能剤をポリエステル繊維表面に強固に結合しているため、耐久性が高い。ナノアクア―MDは粉体汚れに対応する。そのほか、11月に開催する展示会で新高耐久防汚加工を発表する予定。

 難燃タイプの「プロテクサ―FR」は安全性と快適性を両立した。限界酸素指数(LOI値)が高く、自己消化性に優れるほか、耐薬品性、親水性、吸水性も持つ。綿に似たナチュラルな着心地を付与している。

〈上原商店/パイピング用途にも重点〉

 再帰反射材を中心とした繊維副資材販売の上原商店(大阪市北区)は、高視認素材を使用したウエアの市場拡大に向けてさまざまな用途や製品への提案を進めている。最近ではバイアス事業部を発足させ、パイピング材向けに再帰反射材を付加したバイアス生地の販売にも重点的に取り組む。

 同社は再帰反射材と高視認繊維製品の販売が主力。2015年に高視認服の日本工業規格(JIS)が発行して以降、高視認製品の需要が少しずつ増えている。ただ、当初に期待したレベルにないというのが業界の見方だ。

 このため同社ではさまざまな用途に再起反射材と高視認生地・製品を提案することで需要の掘り起こしを進めている。自然災害の増加を背景に防災グッズのベストなどで引き合いがあると言う。

 ユニフォームのパイピング材に再帰反射材が使用されるケースが増えてきた。このため同社ではバイアス事業部で反射材を転写したパイピング材向けバイアス生地の販売に力を入れる。

 上原和也社長は「“令和の光らせ方改革”をテーマに打ち出し、カジュアル用途にも提案する。反射材や高視認素材・製品の普及のために、やれることは全てやる」と強調する。

〈岐セン/レッドも技術確立済み〉

 染色加工の岐セン(岐阜県瑞穂市)は2020年3月期、高視認性生地の加工数量で前年度並みを見込んでいる。高視認用蛍光生地の染色加工「コモシーニ」は経ポリエステル長繊維、緯綿糸の交織品などを手掛けており、輝度の維持が難しいとされる蛍光レッドも技術確立している。

 主力はイエロー・オレンジで色相、輝度などをクリアするには染料、加工ノウハウに加えて織り構造なども重要になるが、同社はスキーウエアなどで、蛍光染料を使った染色加工で培った技術を背景に、コモシーニも開発した。

 「ISO20471」に定められた厳しい品質基準もクリアしており、後藤勝則社長は「東京五輪や大阪万博などを背景に高視認性安全服の需要拡大に期待したい」と話す。

 高視認性生地の加工だけでなく、安全・安心に対する機運の高まりを踏まえて、抗ウイルス加工「キアリーV」、防虫加工「カヌンチュール」の受注増も見込む。

 キアリーVは、インフルエンザウイルスとネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)にも効果を持ち「SEK抗ウイルス加工マーク」も取得する。カヌンチュールは特殊加工によって虫が嫌がり寄り付きにくくする。

〈学生服メーカー/安全性高める商品開発強化〉

 学生服メーカー各社は安心、安全といった切り口で反射材を付けた商品開発を増やす傾向にある。明石スクールユニフォームカンパニーは今年3月、高視認性安全服の「セーフティーベスト」を発表。同社は「明石セーフティープロジェクト」として防災教育に取り組み、セーフティーベストはその一環となる。

 ベストは、遠くからでも目立つ蛍光オレンジ色を採用。再帰反射テープを前後・左右に取り付け、ドライバーから遠く離れたさまざまな方向で、着用者の存在を早期に確認できる。素材には通気性の良いトリコット生地を使用。面ファスナーでサイズ調整が可能となっている。

 宇部市立厚東川中学校(山口県宇部市)で、登下校中の着用が義務付けられるなど、着用が広がりつつあるという。

 児島は高校生がバイク通学や、勉強と部活動などで帰宅時間が遅くなることから小中学生に比べ、意外に事故率が高いことに着目。来入学商戦に向けて「ルッキング」をテーマに、交通事故防止のために高視認性の素材や反射材を使った商品を充実させている。

 他のメーカーも制服やスポーツウエアで安全性を考慮した開発が増えつつあり、学生服業界では高視認性の素材や反射材の需要が今後増える可能性がある。

〈反射材のエキスパート/ミツボシコーポレーション〉

 服飾資材商社のミツボシコーポレーション(広島県福山市)は、国内屈指の反射材の品ぞろえを誇るこの分野のエキスパートとして知られる。

 3Mジャパングループ、オラフォルジャパン、ユニチカスパークライトといった反射材メーカー8社の販売代理店であるほか、国内外の協力工場とタイアップして別注素材の開発も手掛ける。ミツボシコーポレーションは「反射材なら既製品から別注品まで何でもそろえられる」と自信を示す。

 今夏、3M社の反射材ブランド「スコッチライト」から発売される黒色のアパレル用再帰性反射材「C790」の取り扱いを始める。平時は黒色だが、一定の角度から入る光を銀色に反射する。

 再帰性反射材の大半がシルバーで占められる中、見た目が黒でしかも高い反射性を併せ持つものは珍しい。衣料品の企画やデザインの幅を広げる新たな副資材になる。スポーツウエア、チームウエア、ユニフォームなどでの需要を見込む。

 高視認性素材の国内市場での普及に早くから着手した。同素材の専門家が数少なかった2003年から素材の研究や市場調査をスタート。12年には、欧州の高視認性衣類規格を満たす独自の製品展示会を東京で開催、これがきっかけで同社の高視認における同社の認知度は全国的なものになった。

〈JAVISA/高視認性安全服のこれから~「安全創造会議」から〉

 人対車両事故ゼロをめざしてーー日本高視認性安全服研究所(JAVISA)はこのほど、第6回JAVISA会員総会を都内で開催した。「安全創造会議」のタイトルで毎年、講演や会員の活動報告などが行われた。

 高視認性安全服はJIS(日本工業規格)T8127に続き、一般利用者向けの規格JSAA2001が策定されている。会議では、防災用品としての必要性、洗濯耐久性、リサイクル、サステイナビリティー(持続可能性)への対応といった高視認性安全服の役割が示された。

 特別講演では、文化学園大学講師の小柴朋子氏が「災害時に向けた備蓄と日常用高視認性安全服の必要性」の演題で登壇。不測の災害に備えるため日常的に着用できる高視認性の必要性を説いた。

 特別会員緊急提案として、日本環境設計の日比伸一郎ゼネラルマネージャーが、地域や社会、環境に貢献する製品としての高視認性安全服の役割と可能性を示唆した。