特集 全国テキスタイル産地Ⅰ(3)/商社編/日本のモノ作りを見直す

2019年07月30日 (火曜日)

〈北陸連携で成長戦略/蝶理〉

 蝶理は北陸産地企業と連携しながら成長戦略を描く。世界各国からバランスを取りながら調達する合繊長繊維糸の安定供給に重点を置きつつ、糸から生地、そして製品までのビジネス構築を目指すことを基本戦略に置く。

 その上で「当社と北陸産地の成長戦略はリンクしている」と吉田裕志取締役繊維事業統括兼繊維第一事業本部長兼北陸支店長は強調。産地企業とは「ウィンウィンを目指し、製品まで結び付ける一方、人手不足問題から発生する供給不足については、共同で海外に進出できる手法を模索する」。

 2019年4~6月の合繊長繊維糸販売は在庫調整の影響を受け5、6月が落ち込み、前年同期比5%減となったが、下半期から衣料、自動車向けとも新しい案件が立ち上がるとして、上半期の落ち込みを通年ではカバーできるとみる。

 糸種では衣料用を中心にポリエステル100%高伸縮性糸「テックスブリッド」に力を入れるほか、自動車資材を中心に需要が拡大する原着糸も強化。機運が高まる再生糸は「前期比倍増で伸びており、さらに拡大する。そのための仕組み作りも進めている」。新原糸も開発中にある。

〈国産守る役割果たす/旭化成アドバンス〉

 旭化成アドバンスは「産地企業はパートナーであり、日本でしか作れないものがある。メードイン・ジャパンを守る意味からも当社の役割を果たしていく」(西澤明取締役兼副社長執行役員繊維本部長)方針だ。

 その役割とは最終需要家近くに位置することから、さまざまな情報を産地のモノ作りに結び付けること。旭化成の繊維先端技術センターでの知的財産を含めた技術開発との連動もその一つになる。最適なサプライチェーンを構築するために設備貸与など資金面も含めた支援も行う。

 同社は2020年3月期、新中期経営計画をスタートした。環境、メディカル・ヘルスケア、防災・安全、快適、エアバッグ、高齢化対応をテーマに、衣料、資材とも拡大を目指す。

 メディカル・ヘルスケアはインナー・レッグ事業部傘下の開発営業部が主体となり、メディカル用ストッキングに加え、ウエアラブルなどの参入も見込む。環境ではセルロース繊維、カポック繊維、再生ポリエステルなどサステイナブル(持続可能な)素材に力を入れる。今上半期の繊維業績は若干ながら減収減益となる見通しながら、下半期は回復軌道に戻す。

〈国内で短繊維開発強化/一村産業〉

 一村産業は「グローバルコンバーター」を掲げ、中国、インドネシア、ベトナムの海外生産拠点を拡充してきた。「確かに基盤はできたが、価格競争力だけでは限界もある」(藤原篤社長)とし、北陸産地を中心に国内のモノ作りを強化する。その一環で今年4月に商品開発チームを新設した。

 同社のテキスタイルは金額ベースで約60%が国内生産。しかも「海外生産を拡充すればするほど、国内でのモノ作りの重要性を実感する」と言う。その中で力を入れるのが中東民族衣装向け以外のポリエステル短繊維織物。2020年3月期はインド向けや国内の一般衣料向けで120万㍍の販売を見込み、さらにポリエステル長繊維使いが主力だったユニフォーム地も狙う。

 藤原社長は「北陸産地企業と連携し紡績、織布、染色加工の国内生産で高付加価値品を開発し、ポリエステル短繊維を多様化する。欧米輸出にも結び付けたい」と意気込む。紡績子会社である丸一繊維(新潟県糸魚川市)と取り組んだナイロン短繊維使いも力を入れる。高まるエコ、サステイナビリティー(持続可能性)にも対応。マテリアルリサイクルなど環境対応素材の開発も進める。

〈「売り」から「取り組み」へ/ヤギ〉

 ヤギは原料販売事業で「ヤギならでは」の戦略を推進する。その一つが北陸産地向け合繊糸と、和歌山や播州、東海産地向け綿糸との融合。4月にはそのための組織も編成した。福井、和歌山、名古屋に置く事務所でもそれぞれ拡販を目指す。

 同社によると合繊糸と綿糸の融合に向けた取り組みは既にスタートしており、ファッション市場で複合化の流れが強まっていることも背景に今後も逐次、独自商品の開発を続けていく。

 ニッター向け綿糸販売を主事業とする和歌山営業所は近年、産地ニッターとの“取り組み型”を志向。細番手糸や付加価値糸、合繊糸など幅広い品ぞろえを強みに深耕を図っている。今後も独自性を磨き、拡販を狙う。

 合繊糸販売の福井支店も取り組み型で事業を推進している。ファッション向けが不調でコスト高も顕在化しているため、価格への転嫁を狙うが、その際に重視するのが「定番品ではなく差別化開発」。独自の差別化糸を開発、販売することで利益向上と産地の発展に貢献する考え。

 また、部門全体でエシカルの流れを意識してエコロジー商材の開発を強めるとともに、山弥織物(浜松市)などグループ企業との連携にも力を注ぐ。

〈産地企業と取り組み深化/豊島〉

 豊島は綿花をはじめ羊毛や化合繊といった原料に加え、綿糸・スフ糸、毛糸・化合繊糸など、数千種類の糸を販売する。さらに生機の展開もするなど、専門的な情報やネットワークを強みに全国の産地企業と結び付きを深めている。

 原糸部門のうち一宮本店一部では梳毛糸を中心にさまざまな糸を取り扱っており、主に尾州産地に供給する。ウールの高騰や店頭販売の不振などにより尾州の商況は決して良くないが、今後も糸の備蓄を続け必要な時に即納できる体制を構築する。

 サステイナビリティー(持続可能性)など顧客のニーズに応えた商品もそろえる。「アプリクション」は高品質な反毛を原料に使用しリサイクルをうたう。「ローバー」はニュージーランド産のノンミュールジングウールを使用したのが特徴。

 合繊素材の需要の高まりを受け、合繊でウールの質感を表現する商品も提案する。「ウールナット」は通常のポリエステル長繊維では難しいとされる、ウールの毛羽感、膨らみ感を表現できる。糸の種類は433デシテックス(T)、844Tの2タイプで、アウターだけでなく、カジュアル、ユニフォーム、アウトドア・スポーツウエアなどの用途に使える。