特集 スポーツ19秋冬編(3)/機能性にサステ提案/環境負荷軽減を前面に

2019年08月06日 (火曜日)

 サステイナビリティー(持続可能性)がファッションシーンに広がる中、素材メーカーも対応する動きが強まった。リサイクル素材や天然素材、動物愛護、マイクロプラスチック問題など、これまで培ってきた技術をさらに幅広く提案。2020年は日本でもいよいよサステイナブル製品が太い流れとなっていきそうだ。

〈エコ追求し「ナノスリットナイロン」/質感・表面感を一ひねり/東レ〉

 東レはスポーツに加えて、ビジネス、ファッションにも対応する快適素材群を重点的にプロモートし、20秋冬でも増収・増販を計画する。

 環境配慮型素材の打ち出しを強めており、独自技術「ナノデザイン」を駆使して環境低負荷と撥水(はっすい)性能とを両立させた耐久撥水素材「ナノスリットナイロン」を開発。販売40周年を迎えた透湿防水「エントラント」シリーズなどに導入する。

 「これまでとは異なる質感、表面感を求めるニーズが強まっている」と見ており、ダウンウエア向けの軽量極薄織物「エアータスティック」にはシャンブレー調や膨らみ感を強調したタイプを加えた。

 快適ストレッチ「プライムフレックス」では、カチオン可染糸をミックスし杢(もく)調の表面感を持たせたタイプを新開発。保温性・耐摩耗性に優れたニット「かるいし」では、短繊維や再生ポリエステルをミックスしたタイプも打ち出す。

〈新たに「ニュートロン」/エコ素材を拡充/東洋紡STC〉

 東洋紡STCは20秋冬から新素材「ニュートロン」と「リノフレックス」を販売する。合繊ニット「Xジャケット」や「Zシャツ」で周辺ゾーンの開拓を改めて強化する。

 ニュートロンはノン・スパンデックスで適度なストレッチ性、キックバックを持たせたポリエステル・綿混糸。綿の風合いとポリエステルのイージーケア性とを両立させた。

 リノフレックスはダウンウエア向けの販売が好調なナイロンの軽量極薄織物「シルファイン」によるニット。抗スナッグ性、耐摩耗性が特徴。アウトドアやアスレチック向けに丸編み、経編みを投入する。

 エコ素材の増強も重視。ペット再生ポリエステル「エコールクラブ」によるエコ素材群を今後、打ち出す。ダウンウエア用極細糸を完成させた時点でエコ素材のプロモーションを立ち上げる。

 XジャケットやZシャツでは、スーツ向けやスクール用ブレザー向けの販売が好調といい、今後もシャツやジャケット、スクールといった周辺領域での拡販を計画する。

〈「エプシロン」を重点投入「スペースマスター」をエコ化//クラレトレーディング〉

 クラレトレーディングは芯・ポリエステル/鞘・ポリプロピレン(PP)とすることで分散染料で染められるようにした「エプシロン」を打ち出す。

 国内生産する丸編みをベトナムや中国で縫製し日本に持ち帰る製品OEM・ODMを中心に展開。汗冷え防止機能を売り込み、スポーツインナーにエプシロンを浸透させる。

 クラレトレーディング上海、同ベトナム、海外協力工場との連携で強化してきた製品OEM・ODM事業の拡大を計画する。この間の受注増を踏まえ、ベトナムで生産体制を拡充。協力工場の縫製、プリントの能力をそれぞれ33%増強し6月から稼働させ、2019年度(12月期)は同事業で7%の販売増を目指す。

 エコ素材への対応も強化する。今後の戦略を検討しており、吸汗速乾ポリエステル「スペースマスター」のエコ化に「しっかり取り組んでいく」

〈エコ素材でブランド戦略/「ロイカEF」打ち出す/旭化成アドバンス〉

 旭化成アドバンスはサステイナブルに配慮したエコ企画の拡充に力を入れており、再生スパンデックス「ロイカEF」やリサイクルポリエステル、同ナイロンを前面に20秋冬商戦に臨んでいる。

 同社はエコ素材を統合した新ブランドをプロモートするブランド戦略の立ち上げに意欲を示し、11月に開催する21春夏向けのスポーツ素材展から新ブランドを販売する。

 前哨戦の20秋冬では、ロイカEFで開発したエコ素材を重点的に投入。リサイクルを含むポリエステルとの交編で開発したコンプレッションウエア向けの経編み、丸編みを売り込んでいく。

 これまではドイツの拠点・旭化成スパンデックスヨーロッパから輸入するロイカEFでテキスタイル開発を進めてきたが、日本(守山工場)でも既に生産技術を確立しており、19年度中に量産をスタートさせられるめどをつけている。

〈サステ素材として存在感/他素材との複合で引き合い増加/レンチング〉

 レンチングの再生セルロース繊維「テンセル」がスポーツウエア分野でも存在感を高めている。世界的にサステイナビリティー(持続可能性)への要求が高まる中、合繊が主流のスポーツウエアで複合素材の原料としてテンセルへの引き合いが増加した。

 近年、スポーツウエア分野ではサステイナビリティーへの要求が急速に高まった。このため再生ポリエステルやオーガニックコットン、ウールとの複合素材としてテンセルへの引き合いが増加した。

 テンセルは資源管理された木材パルプを原料とし、生分解性があるだけでなく、生産プロセスも独自のクローズド方式で環境負荷を抑えていることへの評価が高い。こうした点がアウトドア分野で評価され採用が拡大する。

 この流れを受け、レンチングはサステイナビリティーへの取り組みを強化した。2050年までにカーボンニュートラル企業となることを宣言し、そのために1億ユーロを投資すると発表している。

〈独自混綿技術で均一に混合/高い機能性中わた提案/モリリン〉

 モリリンは吸湿発熱や消臭性などに優れる中わた素材「コズミックス・ウォーム」の提案に力を入れている。独自の混綿技術によって、ポリエステルとアクリレート繊維を均一に混ぜ合わせる製法を確立。アウトドアやスポーツなどのアウター向けとして訴求する。

 同素材はファイバーボール(粒わた)とソフトシートの2タイプをそろえる。ダウンの高騰や動物愛護の高まりから、ダウンに代わる素材として1年ほど前に発売した。かさ高性や保温性といったダウンの特徴に近づけながら、ダウンにはない消臭性や速乾性などの高い機能を付与した。

 製法は同社が開発したオリジナルの混綿技術を活用した。異素材を使った中わたを多層構造にすることなく、一つの粒わたやシートとして均等に混ぜて作り上げることができる。そのため、さまざまな機能を持った混綿中わたの開発が可能になる。現在、国内外で特許を出願している。

 この技術を使うことで、ポリエステルやアクリレート繊維に限らず、さまざまな素材を使って生産することができ、顧客のニーズに応じたカスタマイズが可能。同社としても今後は機能面だけにとどまらず、サステイナビリティー(持続可能性)を意識し再生ポリエステルを使った中わた素材も展開する。

 コズミックス・ウォームは発売して1年ほどだが、実績も徐々に付いてきており、顧客から高い評価を得ている。現在生産は中国で行い、年内をめどにベトナムでも始める予定。それぞれの国で現地調達ができる体制作りを進める。

〈新素材「アスティ」/アスレジャーに最適/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアは、コットン調ポリエステル高機能素材「アスティ」を発売した。ポリエステル長繊維でコットン調の外見と柔らかな風合い、吸汗速乾性・UVカットなどの機能性を併せ持つ。スポーツとタウンユースをミックスした「アスレジャー」をはじめ、スポーツ・アウトドア向け衣料の重点プロモート素材に位置付けている。

 スポーツ衣料向け素材で多い綿や綿混素材は、汗によるべとつきや汗冷えの克服が課題。同社は、糸加工の効果を最大限に発揮させる原糸技術と、一本の糸の中に細い部分と太い部分を不均一に混在させる高次斑延伸糸加工技術により、コットンの外観と風合いに、遮熱機能、防透性、耐久性などを付加。リサイクルポリエステル糸を使用することで環境にも配慮した。

 スポーツ・アウトドア衣料をはじめ、ファッション、学生服・ユニフォームなどの機能衣料向けに幅広く用途展開していく。2020年度は20万メートル、22年度に100万メートルの販売を目指す。

〈毛羽脱落を抑える保温生地開発/マイクロプラ問題に対応/ユニチカトレーディング〉

 ユニチカトレーディングは、断熱保温生地「エアーホールド―NB」を開発した。生地組織の工夫で合成繊維くずの脱落を抑制し、マイクロプラスチック問題に応じる。起毛品と同レベルの保温性も特徴の一つであり、アウトドア分野の中衣用途などを中心に、20秋冬物で販売を始める。

 ダブルラッセルのかさ高構造によって保温性を付与したほか、非起毛のため毛羽の脱落も抑える。繊維脱落率を試験すると、一般的な起毛品の脱落率(ほつれ防止のため端を溶着した生地を洗濯して捕集した繊維から算出)が0・199%だったのに対して、エアーホールド―NBは0・06%にとどまった。

 断熱保温素材の「エアーホールド」シリーズでは、「エアーホールド―QT」も新提案する。キルト組織によって生まれるデッドエアー層と吸光熱変換機能を持つ「サーモトロン」の中わたを組み合わせて保温効果を高めた。スポーツ分野を中心に展開する。

〈簡単に閉められる新構造/「クリックトラック」/YKK〉

 YKKはスポーツ・アウトドア用途に向けて、さまざまな機能性のあるファスナーを提案する。

 挿入補助、簡易緊急解放/クイックリリース機能を併せ持つ「クイックフリー」もその一つ。「外れ、かつ閉まる」のバランス調整に工夫を凝らし、一定以上の負荷でエレメント(務歯)が自動解放される機能を持つ。試合時に、選手が待機から本番へと素早く脱ぎたいときに便利。

 5月には、ファスナーを閉める際の操作性を簡単にした「クリックトラック」も販売を開始した。スポーツやアウトドアウエア、キッズウエアのほか、ユニバーサルファッション分野にも向ける。

 特徴は左右の開具がスナップボタンのようになっていること。ファスナーを閉める際の“差し込み”動作で、これをパチッとはめるだけで開具が自動的に回転・係合し、ファスナーを簡単に閉じることができる。使いやすさやデザイン性をモニタリングし、調整を施して完成した。慣れれば片手操作も可能という。東京五輪だけでなく、パラリンピックでも採用されることを期待したいと言う。