2020年春季総合特集Ⅲ(11)/トップインタビュー/東洋紡STC/東洋紡 執行役員生活・環境ソリューション本部長の補佐兼東洋紡STC代表取締役社長 田保 高幸 氏/ウエアラブル的領域に進化/

2020年04月22日 (水曜日)

 2008年4月に新会社としてスタート後、12年が経過。この間の選択と集中で企業体質の強化はだいぶ進んだものの、縦割りの組織がもたらす壁ができてしまったという。この壁を取り払い、課題解決型のビジネスを提案できる組織に再編することを検討している。20年度から中期計画の後半2カ年に突入しており、どう乗り切っていくのかを田保高幸新社長に聞いた。(インタビューは3月26日)

  ――10年後、日本の繊維産業はどう変わっているとみていますか。

 衣料繊維はウエアラブルのようなデータと一緒になった商材に進化しているのではないでしょうか。われわれは過去からさまざまな機能素材を登場させてきましたが、もう一歩、踏み込んだ生体情報を取り込めるような機能商材が伸びていくとみています。繊維もモノをインターネットにつなぐIoTを取り込んだ段階へと進んでいくと思います。

 かつて信州大学の教授が、繊維産業は100年前、衣料繊維から始まり、その後、産業繊維へと進歩・発展し、次の段階でIoT技術を組み込んだ衣料繊維に進化するとの予測を話されていました。この予測が現実味を帯びてきたと感じています。

  ――ウエアラブル「ココミ」を展開しています。

 2月の「ウエアラブル・エキスポ」にココミの既製服を出展したところ、あちこちから反響をいただきました。このほどクラボウさんといっしょにやっていくことも決めました。まだ、マーケットは確立されていませんが、両社で市場開拓に取り組んでいけば、双方が成長していくことができると思います。

 当社は競走馬向けから市場に参入し、豪州や欧州へも広げようとしています。出産時などの乳牛の体調管理にココミを使いたいとの引き合いも寄せられています。

  ――東洋紡STCの10年後は。

 設立から12年が経過しました。その間、選択と集中を繰り返し成果を出してきましたが、社内のあちこちに壁ができてきたことも事実です。今後、必要なのはこの壁を取り払い、ソリューション提案型の組織にくくり直すことです。

 今年、正月のあいさつに、あるお客さんを訪問しました。その時に言われたのが繊維だけでなく梱包(こんぽう)に必要な材料も見せてくれ、ということでした。本体がフィルム事業を展開しており、さっそくフィルム部門とともに繊維とフィルムを先方にお持ちしました。オール東洋紡の商材で顧客の課題を解決できるような組織に早ければ下半期から再編したいと考えています。

 ――紡績事業はどうなっていきますか。

 当社は富山事業所をマザー工場に位置付けています。ある程度のロットでモノ作りができなければ、海外での技術指導、技術移転はできません。国内で実際にモノ作りをしていなければコストダウンに取り組むこともできません。紡績事業における国内生産の縮小、撤退はありません。

  ――今後、どういう用途・分野が期待できますか。

 環境関連の商材に力を入れていきます。あるところと組んで、回収されたペットボトルから当社が再生ポリエステルを生産しユニフォーム向けに供給する取り組みがスタートしました。

 それと、新型コロナウイルス関連で最近注目されているのが抗菌防臭のような素材群です。抗ウイルス素材「ヴァイアブロック」をマスク用の不織布に使いたいという引き合いが急増しているほか、抗ウイルス「ナノバリアー」、除菌「銀世界」も注目を集めています。これらの販売が20年度以降、大きく伸びてくるとみています。

  ――非衣料・産業資材事業はいかがですか。

 当社は過去から他社さんの不織布やフィルターを扱ってきました。当社品、他社品をセットで提案できる、お客さんにとっての使い勝手の良さをもっと積極的にPRしていきます。

  ――中期計画もあと2年、衣料繊維における課題は。

 海外のインフラをもう少し活用していきたいと考えています。既に展開している拠点をもっとネットワーク化して強化していきます。

 当社は「エクスラン」で現地パートナーと連携し中国の高級ゾーンに対するアプローチを強化してきました。海外の展示会に出展した際、このパートナーを当社ブースに招き商談してもらうやり方がうまくいっています。

 インドのバルドマンとは長い付き合いがあり、中国での取り組みを紹介し、同様のことをインドでもやらないかと持ちかけています。こういう海外での取り組みを通じ、衣料繊維事業を強化していきます。

〈10年前の私にひと言/現場に出ろ〉

 東洋紡に入社して以来、若い頃に4年間、コスタリカの関連会社に出向していた期間を除くと、社歴のほとんどを「経理や管理部門のスタッフとして働いてきた」。ちょうど10年くらい前に経理部長に就任。「経理のときは、年を経るに従い現場に出る機会が減っていった」。当時を振り返ると「オフィスでいろいろ考えていても解決策や課題は見つからない」ことを痛感。だから、反省も込めて「現場に出て現実を見ないことにはどうにもならない」と10年前の自分にアドバイスしたいと言う。

〈略歴〉

 たぼ・たかゆき 1983年4月東洋紡績(現東洋紡)入社、2010年3月経理部長、11年4月経理部長兼総務部主幹、13年10月参与経理部長、17年4月執行役員法務部、コンプライアンス部、総務部の担当。不動産事業総括部長、東京支社長、18年4月執行役員機能材本部長兼東洋紡STC取締役、19年4月執行役員繊維機能材本部長兼東洋紡STC取締役、20年4月執行役員生活・環境ソリューション本部長の補佐兼東洋紡STC代表取締役社長