帝人フロンティア/想定外を想定する「まるごと防災」/自助・共助で災害被害軽減

2019年08月28日 (水曜日)

 地震や豪雨をはじめとするさまざまな災害に見舞われてきた日本。自然災害による被害を最小限にとどめるためには、安全を確保する製品や技術を普段から備えることが重要になる。安心・安全・防災ソリューションに目を向ける帝人フロンティアが展開する「まるごと防災」は総合防災のプラットフォームだ。建物内安全、BCP(事業継続計画)、備蓄、水防対策などに応じ、注目されている。

 地震や豪雨などの自然災害の被害を最小限に抑えるには、国や県などの行政機関による援助である「公助」、自分の身を自分で守る「自助」、身近な人たちが互いに助け合う「共助」のそれぞれがきちんと役割を果たすことが求められる。公助だけに頼った災害対策には限界があるとされ、自助と共助の重要性が指摘されている。

 実際、過去の大規模な災害では公的機関も被災し、公助の機能が低下した。被害軽減策を自助と共助で備えることが少子高齢の人口減社会では、不可欠になっている。その公助・自助・共助を補完するための総合防災プラットフォームが帝人フロンティアの「まるごと防災」だ。帝人グループと協力企業の防災関連品がパッケージングされている。

 これまでは「自然災害の損害は被災者が負担するもの。他者には責任がない」とされてきたが、予見を可能にする情報が多く存在するようになり、東日本大震災以降、「予見可能性」が問われるようになった。「想定外だった」という言葉はもはや通用しない。まるごと防災は想定外を想定し、地震発生時に室内で起こる可能性のある被害を軽減することを狙いとして、まずは、建物安全、BCP、備蓄などから2017年7月に販売を開始している。

 現在では、温暖化の影響などによる水害の頻発化、激甚化への備えとして、水防対策などを観点にした製品やシステムもそろう。その中でも建物内安全は重要なテーマの一つとなる。建造物本体、建物構造材・非構造材の地震対策は制度化されつつあるのに対し、建物内の安全対策はまだ居住者任せで未整備なため。

 集中豪雨が頻発する中で、容量の小さい中小河川の増水を知らせる警報システムの設置も重要になる。まるごと防災の河川増水警告灯や水位警報システムは、設置が簡易で、国管轄の一級河川より、管轄外の中小河川や用水路、ため池で有効である。大規模なシステムではなく、自治体単位で導入可能なことが特徴の一つ。立体交差で掘り下げ式になっている道路の冠水管理用への活用にも目が向けられている。

〈多様な製品・システム〉

 巨大な地震が発生した場合、ロッカーなどの備品の転倒、コピー機やシュレッダー機が移動し、人に当たるケースも出てくる。地震動対策で提案しているのが、什器(じゅうき)類転倒・移動防止器具「不動王」シリーズだ。超発泡ウレタンダンパーが振動を吸収してロッカーやキャビネットの転倒を防ぐ商品など、ラインアップは幅広い。

 「身の安全の確保」「安全空間の確保」「逃げ道の確保」の要となる商品であり、ゴム製品などの製造・販売会社、不二ラテックス(東京都千代田区)が手掛ける(製造元)。オフィスなどでの採用が着実に増えている。

 建物内安全では、超軽量天井材「かるてん」、防煙垂れ壁「かるかべ」も打ち出している。かるてんは、ポリエステル製縦型不織布「V―Lap」を基材として使用し、不燃材料として国土交通省大臣の認定を取得している。重量が従来の天井材の約10分の1のため、落下した場合でも比較的安全性が高い。

 かるかべは、火災時に煙の流動を防ぐ不燃シート製の防煙垂れ壁。ガラス製と同等の透明性を持ちながら重量は10分の1程度で、割れにくいという特徴のため、ガラス製のように、割れた破片が飛散する心配は少ない。特殊な技能がなくても設置でき、ガラス製に比べて取り扱いの簡便性が大幅に向上した。

 建物内安全では火災発生への対応も不可欠になる。地震火災は突発的で、初期消火も遅れる傾向(地震動の後)にあり、同時多発も珍しくない。火災時に特に危険とされるのが、「炎の通り道」といわれているカーテンで、つるしたままでは天井まで一気に燃え上がる。

 まるごと防災では、延焼被害軽減と縊首(いしゅ)などの事故防止から「カーテンは簡単に外せるようにするべき」とし、外せるカーテンフック「プルック」を提案している。見た目は従来のフックと同じだが、引っ張るとフックが曲がり、簡単に外れるという仕組み(外れた後は元に戻る)。これによって天井まで延焼するリスクが減らせる。

 メタ系アラミド繊維とモダクリル繊維を複合した新防炎カーテン「プルシェルター」も用意する。耐熱性・耐炎性・高難燃性といった機能を持ち、出火防止、初期消火、延焼被害軽減、緊急避難対策を補完できる。プルックと組み合わせた提案が評価され、小学校や介護施設などでの採用が目立ってきた。

 難燃・抗菌性能を兼ね備え、担架としても使用できる緊急防災毛布「もうたんか」の販売も増えてきた。避難の際には、毛布に開いた複数の穴に手を入れて担架として活用もできる。救助に要する時間を短縮でき、また担架に比べて小回りが利く。

 そのほか、緊急時の連絡や災害時の安否確認を行うためのシステム「エマージェンシーコール」、超軽量大型仮設テント「エアロシェルターⅡ」、非常時用排便収納袋「スケットイレ」などがそろう。

〈啓発活動にも力入れる〉

 多様な商品・システムをパッケージングして展開しているが、防災を完結させるためにはまだ課題も残る。飛散防止のためのフィルム、感震コンセント、緊急速報・予知予想、蓄電器、水・食品、ライフライン、救助救護に関する商品の拡充がその課題だ。これらは19年度(20年3月期)で克服し、売り上げ規模も数億円レベルに育てる。

 同社新事業開発室は「まるごと防災を基本として、生活者目線で社会的課題に取り組む。コトとモノによる一気通貫の確固たる仕組みを確立して、持続可能な防災ビジネスの仕組みの構築を目指す」と強調する。セミナーの実施など、啓発活動にも力を入れ、25年度には売り上げ規模を数十億円に拡大する。

〈帝人フロンティア 新事業開発室主管 岸本 隆久 氏/備えることが重要に〉

 自然災害の発生時に建物内および室内にいる人の安全確保などを目的として開始した「まるごと防災」。このまるごと防災を販売するのが新事業開発室だ。主管の岸本隆久氏(防災士)は「企業の社会的責任(CSR)が問われる中、災害被害を極小化するには普段から備えることが重要」と説く。防災関連商品の現状や今後の展望を聞いた。

     ◇

  ――防災に関わる商品を販売する理由は。

 地球環境保全は企業として無視することができなくなっていますが、防災対策も同様と言え、社会貢献の一環として取り組んでいます。ただ、個社の物・技術だけでは防災は成り立ちません。異業種などとの連携を深めることで、多彩な防災商品・システムの提案が可能になります。

 これまでは「自然災害の損害は被災者が負担し、他者には責任が発生しない」のが一般的な考え方でしたが、「想定外のことが起こり得るものとして対応したかどうか」が問われる時代になっています。まるごと防災は、想定外を想定し、災害時に室内などで生じる恐れのある被害のミニマイズを目指しています。

  ――まるごと防災にはさまざまな商品・システムがあります。販売実績は。

 メタ系アラミド繊維とモダクリル繊維を複合した新防災カーテン「プルシェルター」の採用が小学校や介護施設を中心に進んできました。外せるカーテンフック「プルック」と組み合わせることで、素早く簡単に取り外すことも可能になります。プルシェルターやプルックの2019年度の販売は、18年度の2倍が見込めそうです。

  ――そのほかに動きを見せているものはありますか。

 緊急防災毛布「もうたんか」の動きが目立ってきました。毛布には穴(取っ手)が開いており、緊急時には担架として活用できるのが特徴です。普段は毛布としても使用することができます。一般企業や工場などから評価をもらっています。地震時における室内の什器類転倒や移動を防止するための器具「不動王」シリーズも好評です。

 集中豪雨などによる河川の増水を知らせる警告灯も用意しています。河川の水位が上昇し、ポールに固定された「水電池」の位置にまで達すると、ライトが点滅して周囲に知らせる仕組みです。進化版の水位警報システムが確立し、河川だけでなく、用水路、アンダーパス(立体交差で掘り下げられている道路)の冠水管理への応用が検討されています。

  ――今後の展開は。

 18年度実績から大きく伸ばし、19年度は数億円の売り上げ規模に拡大します。プルシェルターやプルックがけん引役になると予想していますが、啓発活動も重要になってくるでしょうね。国内だけでなくSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みも含め、25年度には数十億円の売り上げ規模に成長させたいと考えています。