特集 商社原料・テキスタイルビジネス/糸・生地の重要性増す/サステイナビリティー、トレーサビリティーが鍵/機能性も付与して

2020年09月23日 (水曜日)

 今後の商社の原料・テキスタイルビジネスのキーワードは、サステイナビリティーとトレーサビリティー、機能性になりそうだ。

 目下、多くの商社が「原料からの付加価値化」や「糸から生地、製品までの一貫提案」を志向する。背景には、最終製品のみの提案では価格競争に巻き込まれ、利益を享受できない情勢になっていることがある。とりわけサステイナビリティー、トレーサビリティー、機能性という要素はネット通販などで“うたい文句”を付与しやすく、メードイン・ジャパン、メードバイ・ジャパンの価値を訴求し、価格競争を回避できる。

 清潔・衛生意識の高まりを受けて抗菌や制菌の糸が、着用感向上ニーズを受けてストレッチ糸が、環境配慮意識を受けて再生ポリエステルやオーガニックコットンが各社から相次いで打ち出されている。もはや乱立の様相だが、そこでポイントになるのが、トレーサビリティーという要素だ。しっかり原産国や製造者を明記できる商材が求められている。

 商社はこれまで、原料・テキスタイルビジネスを縮小させてきた過去がある。繊維事業では最終製品の取り扱いや非衣料が主軸になった。しかし、サステイナビリティー、トレーサビリティー、機能性といった切り口は日本が誇る技術力や安全・安心のイメージに基づくものであり、海外市場も狙える。商社における原料・テキスタイルビジネスの位置付けが再び重要性を増している。

〈ヤギ/「将来の柱」育てる/ナノファイバーや有機栽培綿に期待〉

 ヤギの糸・生地事業は新型コロナウイルス禍で苦戦を強いられているが、馬渡武継取締役営業第一本部長は「将来の柱となり得るような芽が出てきている」と強調する。社内連携、グループ連携による新商品開発、新商流作りが水面下で幾つも進展しているためだ。

 馬渡取締役は今期ここまでの糸・生地販売推移を「健闘の部類」と評価する。産地によっては生産数量が5割減のところもあるが、同社同事業の商況は全体として2割減にとどまっているためだ。

 今期から投入したオーガニックコットン糸の総称ブランド「ユナ・イト オーガニック」や、ナノファイバーよるメンブレン(薄膜)「ナノクセラ」が社内連携や商品開発強化の成果の一つ。どちらの商品も顧客の評価は高く、引き合いが数多く寄せられており、将来の柱になり得るとみる。

 今期から製品OEM部隊の一つの課を糸・生地部隊に編入したが、ここでも有形無形の社内連携が進んでおり、馬渡取締役も方針の推進に手応えを持つ。グループ連携では糸加工の山弥織物や生地商社のイチメン、タオル製造のツバメタオルなどと商品開発などのシナジーが発揮でき始めている。生地販売では、アパレルの淘汰(とうた)やリストラによって退職者が増え、その後、新興アパレルが増えていくとみて、新興の個人規模のアパレルまで販売対象を広げていく。

 デジタル技術の活用も推進する。今夏にはファッションスクールを運営するTFL(東京都渋谷区)と提携し、3次元(3D)CGを取り入れたテキスタイルの展示会を開いた。製品の完成イメージを3DCGで提示しながら商談を行うもので、顧客から好評を得た。今後もデジタル技術を駆使した新しいビジネスモデルの構築に産学連携で取り組む。

〈蝶理/再生糸で一貫構築/新設備が来年早々稼働〉

 蝶理の繊維本部の糸・生地事業商況は現状、新型コロナウイルス禍で苦戦を強いられている。その中でも国内外で衛材関連など巣ごもり需要を取り込むことに成功。今後の事業展開にも生かせる流れが構築できつつある。

 こうした中で吉田裕志取締役上席執行役員繊維本部長は、「環境配慮の取り組みをさらに前進させる」として、再生ポリエステル糸「エコブルー」の拡販や循環型社会に向けた仕組みと商品作りに取り組む考えを強調する。さらに同社では初となる再生ナイロン糸を近く投入する

 昨年、廃ペットボトルの回収、洗浄、粉砕、ペレット製造を手掛けるウツミリサイクルシステムズ(大阪市中央区)と連携し、リサイクルペレット販売事業を開始した。リサイクルペレット押出機を蝶理が購入してウツミに貸与する。この押出機の稼働は予定よりやや遅れたものの来年早々を予定しており、以前から販売してきた再生ポリエステル糸エコブルーで原料から一気通貫の体制が整う。

 新設備は差別化糸を作れる仕様になっており、「さらなる差別化糸開発」という全社方針の実現にも一役買うことになる。「エコだからといっても高ければ売れない」とし、「良品を良価で販売していく」考えだ。

 さらに、循環型のリユース事業を「仕組みと商品の両面で構築していく」計画があるほか、同社ではこれまで取り扱いのなかった再生ナイロン糸も近い将来の投入を予定する。再生ナイロン糸はファインデニールが軸になる。これら施策の実行により、「いずれは取り扱う糸・生地の全品番をエコ対応に」という方針の達成に近づける。

 需要が高まる抗ウイルス関連商材もプロジェクトの一つに位置付け推進している。

〈豊島/トレースとサステに注力/多彩な素材でニーズに対応〉

 豊島は綿糸から毛糸、合繊糸までさまざまな糸を提案している。特にサステイナビリティーやトレーサビリティーを意識した取り組みに力を入れており、「トゥルーコットン」や「フードテキスタイル」といった多彩な素材をそろえる。

 トゥルーコットンは生産農場から紡績工場までさかのぼることができるトレーサブルなオーガニックコットン。以前からトルコ産オーガニックコットン自体は手掛けていたが、ブランド名を付け価値を高めた。糸と生地を備蓄し全社的に原料から製品までのニーズに対応する。

 「生産者の顔が明確に見える」というコンセプトで訴求。独占契約を結んだトルコの紡績グループ・ウチャクテクスティルが綿花栽培から紡績工程までを一元管理することで、徹底したトレーサビリティーを実現している。

 6月から本格的な拡販に乗り出しており販売は順調に推移している。サステイナビリティーとトレーサビリティーの両方を実現できることから顧客からの評価も高い。

 7月末から売り上げの一部をWWF(世界自然保護基金)ジャパンの活動の支援に充てるチャリティープロジェクトも始動。第1弾として著名なモデルやスタイリストとコラボレーションし、トゥルーコットンに抗菌加工を施したマスクと収納ポーチのセット販売も始めた。

 フードテキスタイルは廃棄食材を染料に活用する取り組み。生地や製品だけでなく、顧客の多様なニーズに応えるため8月から糸での展開も始めた。糸は計18色をそろえ、12色は備蓄し6色は別注対応。「さくら」「抹茶」「ブルーベリー」「赤カブ」「ルイボス」(紅茶)「コーヒー」といった6種類の廃棄食材を生かした。

 糸の原料にトゥルーコットンを使うなどブランドを横断した取り組みも進んでいる。

〈東洋紡STC/機能糸の打ち出し強める/EC向けに特徴ある商品を〉

 東洋紡STCは原糸販売事業で機能糸の打ち出しを強める。新型コロナウイルス禍を背景に小売市場の構造変化が加速しており、こうした変化に対応するために特徴のある商品の提案が不可欠になると判断した。特に衛生やサステイナビリティーに焦点を当て、ネット通販など新チャネルでのヒットにつながる糸の提案に取り組む。

 新型コロナ禍を背景に小売業ではネット通販など電子商取引(EC)の拡大が一段と加速した。ECでは消費者の関心を引く明確な特徴のある商品が重要になる。こうした特徴を生み出す機能を持った糸を提案し、ヒット商品につなげることを目指す。

 特に新型コロナ禍で注目が高まる衛生機能に焦点を当て、除菌繊維「アグリーザ」を活用した糸などを重点提案する。衣料だけでなくインテリアや雑貨などの用途に幅広く提案する。

 サステイナビリティーへの関心も一段と高まっていることから、オーガニックコットンなど環境に配慮した素材にも力を入れる。単純に原綿にオーガニックコットンを採用するだけでなく、独自の特殊紡績技術と組み合わせることで品質や機能での差別化を進める。

 衛生、サステイナビリティーの領域ともに素材の認知度を高めることが重要になるとし、10月に金沢で開催される糸展示会「北陸ヤーンフェア」に出展するなどプロモーション活動にも積極的に取り組む。

 衣料や生活資材分野だけでなく産業資材分野への参入も強める。アグリーザを自動車関連などにも提案するほか、産業資材分野を担当する東洋紡STCの他部署との連携を強め、新規用途の開拓に取り組む。

〈帝人フロンティア/国内外で生産拡充/環境配慮型素材に注力〉

 帝人フロンティアの繊維素材本部はテキスタイル、原料とも重点分野を定めて新たな取り組みを加速し、来期からの反転攻勢につなげる。特に環境配慮型素材の拡大に注力するとともに、国内外の生産を強化して素材の幅を広げていく。

 今上半期(4~9月)はテキスタイル、原料とも新型コロナウイルス禍の影響を受けている。仮に収束しても既存ビジネスが元の形に回復することはないとみて、今下半期は新たな取り組みを加速する。

 スポーツ用テキスタイルはグローバルアパレル向けを強化する。そのために国内外の生産拠点を強化する考えで、日本では帝人加工糸などグループ会社を核に開発を強化するとともに、海外ではタイやインドネシアなどASEAN生産を拡充する。

 ストレッチや高通気性など素材を広げてきた効果が出ているユニフォーム用はタイ・ナムシリ・インターテックスを活用して素材の幅をさらに広げる。特に別注や白衣に力を注ぐほか、官需や海外市場向けなどでも拡大を狙う。

 原料は環境配慮型素材に力を入れる。再生ポリエステル「エコペット」による機能糸の幅を広げるとともに、バイオ由来素材や原着糸などにも力を入れる。植物由来PTTとリサイクルPETによるサイド・バイ・サイド型「ソロテックス エコハイブリッド」など環境配慮型技術の組み合わせによる開発も進んでいる。

 エコペットは今年で25周年を迎え、このほどリブランディングを行った。マテリアルリサイクル「エコペット」、ケミカルリサイクル「エコペット プラス」を展開していたが、7月から「エコペット」に統一した。同時にポリエステル繊維だけでなく、テキスタイルや不織布、構造体、縫製品などを含める形とし、再生ポリエステルの総合ブランドとした。

 エコペットは当初、短繊維のみの展開だったが、現在は細繊度や複雑な異形断面を含めて品種が大きく広がっている。環境戦略「シンクエコ」では30年度にエコ原料で商品化できる割合を100%にするとともに、リサイクル比率50%以上、植物由来10%以上とする目標を掲げている。