2020年秋季総合特集Ⅳ(4)/トップインタビュー 帝人フロンティア/最後の決め手はリアルで/代表取締役社長執行役員 日光 信二 氏/衛材やフィルターが好調

2020年10月29日 (木曜日)

 帝人フロンティアの日光信二社長は、新型コロナウイルス禍で電子商取引の拡大などデジタル技術が進展していくとみる。ただ、その中でも「最後の決め手としてはリアルが残る」とも語り、バーチャルとリアルの併存で効率を高めていくことの重要性を指摘する。上半期は衛生材料やフィルター、インフラ関連などの分野が好調で、モビリティー関連も7~9月から急回復した。下半期はこれらの分野に注力するとともに、エコ化を視点にした設備投資なども検討していく。

  ――新型コロナ禍で繊維産業はどう変わるとみていますか

 大きく社会、世界が変わってきました。繊維産業はコロナとともにどうしていくかを考えなければなりません。例えば外出が控えられ、人と人が接触しないことが新常態になりつつあります。何かに触れることにためらいを感じ、マスクをしない自分自身が考えられないように、ウイズマスクが世界の常識になりました。人と触れる場所を避け、外に出ていかない現時点でのライフスタイルでは、外に出るために着飾るという機会が減っており、繊維産業にとってはマイナスの影響が大きいと考えています。

 販路も変わり、ネット販売が拡大する一方で、百貨店や量販店はさらに厳しくなっていくでしょう。「安近短」がキーワードになっているように、安く近く短時間で購入する傾向が強くなっています。新型コロナ禍でも売り上げが好調な企業を見ると、この傾向が顕著に出ています。アイテムもTシャツやワンマイルウエアが好調に売れているように、単価の低いモノがよく売れるようになっています。

  ――繊維産業にとっては厳しい状況になっています。

 足元では北陸産地の稼働率が30~40%となっており、今後、規模が縮小していく懸念があります。今年の春夏商戦は新型コロナ禍で失われ、それによって秋冬向けの生産もシュリンクしました。この春夏を売り逃したことで来年の春夏も厳しいでしょう。回復が期待できるのは来年秋冬からで、アパレル用途は最低でも1年半は厳しい状況が続くとみています。

  ――国内生産回帰をどうみますか

 医療用防護服やマスクのように中国依存の高さが浮き彫りになり、国産の比率を高める分野はあります。ただ、アパレル用途は中国からASEANへの流れがあり、そこは変わっていません。特殊な領域を除くと、世界の生産が日本に戻るとは考えにくい。縫製地は行き着くところまで行った観がありますので、あとは価格と品質のバランスがどこで落ち着くかです。インドの可能性は残しますが、アフリカは難しく、バングラデシュあたりで落ち着くのではないでしょうか。

  ――新型コロナ禍でデジタル技術の活用も進みました。

 リアルとバーチャルの世界は大きく変化しています。これからはネットの世界でコンタクトする形が主流になり、その中でリアルの店舗もあるという形になっていくのでしょう。ただ、最後にモノを買うのはリアルでだと思います。当社は新型コロナ禍の中でバーチャル総合展を開き一定の成果がありましたが、やはりモノを触っていないので上手く進まない面もありました。購入するかどうかを決める際には、実際に触ってみて感じることが決め手になることも多い。デジタル技術で社会を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)は進化していくでしょうが、最後の決め手としてはリアルが残り、併存していくことになる。ネットでできることとできないことを峻別して仕事を効率化することがますます重要になってきます。

  ――今上半期はいかがでしたか

 新型コロナ禍で世の中がおかしくなりだしたのは2月からで、アパレルの小売市場は4~6月が壊滅的でした。ただ、実際のビジネスは7~9月の方が厳しくなっており、10~12月はさらに厳しいとみています。

 ただ、アパレル以外の用途は少し異なります。当社では衛生材料が大きく伸びており、原綿、中間材、製品とも好調です。自動車の市場も前半は厳しかったのですが、7月ごろから中国が回復し、日本も戻りました。モビリティー関連の事業は7~9月に急浮上しており、下半期もこのまま続くとみています。インフラ関連もよく、フィルターなども好調です。

  ――各生産拠点の稼働は

 南通帝人は前期までのように過去最高益とはいきませんが、稼働率80~90%と順調で、タイ・ナムシリ・インターテックスも黒字を確保しています。TPLとTJTは70~80%の稼働で、ショートカットはフル操業です。ただ、国内の関連会社は苦戦しており、スリム化、筋肉質化を図ります。

 ――下半期のポイントは

 引き続き衛生材料分野に注力します。新型コロナ禍による市場環境の変化で、高機能を生かせる分野が増えていますので、そこに注力します。例えばマスクは冷感商品をまず出しましたが、新たな商品を出して年間で展開できる形にします。モビリティー関連も開発案件の承認が取れて量産につながるものが幾つかありますので、さらに注力します。

 サステイナブル素材では25周年を迎えた再生ポリエステル「エコペット」に力を入れます。リサイクルにおける業界のリーダーとして商品バリエーションを増やすとともに、それを通じて社会に貢献していきたいと考えています。

  ――設備投資は

 顧客のニーズに対応し、リサイクルや植物由来素材を拡大するための投資を検討していきます。例えばマザー工場であるTPLとTJTでは、リサイクルに重点を置き、高次技術を生かす投資を検討しながらエコ化を進めていきます。フィルターのショートカットも市場が拡大しているので、投資を検討します。

〈私の新常態/ランニングと筋トレ〉

 「体重が8キロ落ち、ウエストは4センチ、首回りは2センチ細くなったのでこれをキープしたい」と日光さん。2003年にバンコクに赴任した時の体重は71キロ。その後のニューヨークでも維持したが、日本に帰ると何を食べてもおいしく、体重は77キロまで増えたそうだ。現在は69キロまで減量。新型コロナでお客さんとの会食がなくなり、家でもお酒を飲まないようにした。走る量を増やして月に120キロ走り、筋トレも1日30~40分行う。今は顧客との会食が週に1度ほどに復活しているが、体重をキープするトレーニングは継続している。

〈略歴〉

 にっこう・しんじ 1979年帝人商事入社、03年NI帝人商事〈タイランド〉社長、08年NI帝人商事〈USA〉社長、15年帝人グループ執行役員製品事業グループ長兼帝人フロンティア代表取締役社長、17年帝人グループ常務執行役員などを経て、18年から現職。