不織布新書21春(6)/東レ 不織布・人工皮革事業/グローバルで事業拡大/シナジーの発現も

2021年03月18日 (木曜日)

 東レは2020年度(2021年3月期)から3年間の「中期経営課題“プロジェクト AP―G 2022”」(略称:「AP―G 2022」)をスタートした。繊維事業では衣料用の糸・わた・テキスタイル・縫製品一貫型事業、エアバッグ事業に加えて、不織布・人工皮革事業の強化を重点課題に掲げる。その一環として、20年6月には不織布・人工皮革事業部門を新設。それぞれが成長分野・成長領域でのグローバル事業拡大、サステイナビリティーへの対応による事業拡大、ビジネスモデルの高度化に取り組む一方、不織布と人工皮革のシナジー発現も目指す。

〈不織布事業部長 松下 達 氏/唯一の総合不織布事業へ/差別化品開発と拠点拡充〉

  ――AP―G 2022における不織布事業部の課題は何でしょうか。

 グローバル展開する「世界で唯一の長短総合不織布事業」構築を目指し、重点用途での差別化品開発と需要拡大地域での拠点拡充に取り組みます。これにより、22年度には19年度に比べて売上収益20%増を目指します。前中経ではアジアでの成長が見込める、紙おむつ用ポリプロピレンスパンボンド不織布(SB)の拡大投資を行い、年産能力を20万㌧規模にまで増強しました。この投資に対する成果を刈り取るのが第一の課題です。

 年率4~5%の成長が見込まれる世界の不織布市場は現在、約半分をSBなどの長繊維不織布が占め、今後も使い捨て用を中心に伸びると見ています。最大市場はやはり紙おむつなど衛生材料です。紙おむつは1人当たりのGDPが3千㌦を超えると普及するといわれていますが、その面でアジアのポリプロピレンSB需要は今後も拡大すると考えられ、それを取り込んでいきます。

 清掃用などのワイピング用途も不織布では大きな市場です。本分野は原綿売りが主体となりますが、需要家と連携しながら開発・販売に取り組みます。

  ――17年に滋賀事業場(大津市)にSB開発設備を導入しました。その活用は進んでいますか。

 中量産型設備でもあるため新型コロナウイルス感染拡大に伴い、マスク用不織布の供給にも活用しましたが、本来の衛材向けでは韓国の関係会社、トーレ・アドバンスト・マテリアルズ・コリア(TAK)と連携し、ソフト系新触感や環境配慮型など独自性のある差別化品の開発を進めています。

  ――中経では衛生材料に加えてフィルター、自動車などを重点分野に位置付けながら、長短総合不織布事業の構築を掲げています。

 当社が目指すのは世界唯一の長短総合不織布事業です。そのためにさまざまな高機能繊維との組み合わせを進めます。例えば耐熱性などが特徴のポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維「トルコン」、フッ素繊維「トヨフロン」の活用もその一つです。2素材とも短繊維不織布として焼却場や工場などのバグフィルターに使われますが、世界的な環境規制強化の動きに対応し、さらに拡大を図ります。短繊維不織布では自動車の吸音材向けにも力を入れます。トルコンと耐炎繊維との複合による難燃・遮炎素材「ガルフェン」の本格拡大も課題です。

  ――長短総合不織布事業という面から15年に資本参加した日本バイリーンとの連携も課題ではないでしょうか。

 日本バイリーンとは高付加価値不織布の開発を進めています。従来品での取り組みではなく、高機能繊維を活用したものです。例えばガルフェンの展開や、自動車吸音材の開発にも両社で取り組んでいます。

  ――ポリエステルSB「アクスター」についてはどのようにお考えですか。

 工業用プリーツフィルターや土木建築資材向けが主力ですが、環境配慮型製品としてポリ乳酸使いなどさまざまな原料による開発を行いながら、用途開拓を進めており、本中経期間中に増設を行いたいと考えています。新型コロナ感染拡大の影響で需要が急伸しているメルトブロー不織布も、防護服向けを含めて開発・販売を強化します。

 ウルトラスエード事業部とのシナジーの発揮も課題です。全く異なる商品である一方、グローバル展開、滋賀事業場での生産・開発、製販一体型の事業運営など共通する部分も多い。それぞれの特徴を生かした新商品開発で新たな用途開拓に取り組みます。

〈バイオなど環境対応強化/差別化により価値を向上/ウルトラスエード 事業部長 安東 克彦 氏〉

  ――AP―G 2022におけるウルトラスエード事業部の課題は何でしょうか。

 日本の先端技術を生かして展開するスエード調人工皮革「ウルトラスエード」はブランド価値を高めながら、高級ゾーンを主体にグローバルでの事業拡大を図るのが基本方針です。

 20年に50周年を迎えたウルトラスエードですが、中経最終年度の22年度には19年度に比べて売上収益30%増を目指しています。そのためにも他のスエード調人工皮革と差別化を図り、独自性を打ち出す必要があります。それがブランド価値の向上につながるからです。

 差別化戦略の一つが環境対応の強化です。原材料のポリエステルでは部分バイオ原料使いやリサイクル原料使いを強化します。ポリウレタンも同様にバイオ原料への切り替えを進めます。既にこうしたエコ関連素材の比率は全体の60~70%にまで高まっていますが、中経期間中に90%にまで引き上げる計画です。

 世界的に環境への意識が高まっています。電気自動車を強化する動きがあるのもその表れです。これに伴いエコ原料使いのウルトラスエードへの引き合いは強まっています。エコ原料使いの訴求を強める一環として、ウルトラスエードのウェブサイトの刷新を計画しています。

 新型コロナウイルス禍で海外の需要家との面談が難しい中でウェブサイトの重要性は高まっています。同サイトを通じてウルトラスエードのエコロジー、サステイナビリティー対応を重点的に訴求していきます。

  ――差別化面では銀面調タイプの人工皮革「ウルトラスエード・ヌー」もその一つです。

 昨今では天然皮革の代替として高級ベッドの側地などに採用されるなど、認知度は高まっています。量産での品質も確立できており、中経期間中に一定のボリュームに育てたいですね。

 ウルトラスエードはマイクロファイバーの豊富なバリエーションや、薄地から2・7ミリという超厚手まで厚みも幅広い。スクリム(補強用の特殊織物)使いもあれば、成形性に優れたスクリムなしもあり、さまざまなニーズに対応できるのが強みでもあります。こうした違いも訴えていきます。

  ――重点用途である自動車内装材についてはいかがですか。

 引き続き力を入れていきます。米中の電気自動車や日本の売れ筋車種にも採用が広がっています。自動車産業は新型コロナ禍から当初想定したよりも早く回復しています。衣料用の回復の遅れなどもあり、現状では自動車内装材が全体の60%に達しています。

 「エクセーヌ」ブランドを継続する工業資材も重点用途です。現在、新用途開拓に取り組んでいます。新用途開拓では不織布事業部とのシナジーを特に追求していきたいと考えています。マイクロファイバーからなる素材のワインピング性などの特徴を生かしながら、不織布事業部が手掛ける機能繊維との複合化などにより耐薬品性、耐熱性を高めるのも一つの方策です。

  ――衣料用についてはどうでしょう。

 ボリュームを追うのではなく、デザイナーらと共同で最先端の商品開発を行いながら、高級ゾーンのスエード調人工皮革としてブランド価値向上を図ります。

  ――19年9月に増設を行いました。

 滋賀事業場と岐阜工場(岐阜県神戸町)での増設により約60%増となる年産1千万平方メートルに拡大しました。23年度のフル稼働を目指します。