特集 アジアの繊維産業Ⅱ(9)/わが社のアジア戦略

2021年03月30日 (火曜日)

〈TYSMインドネシア/持続可能な素材開発強化〉

 豊島のインドネシア法人、TYSMインドネシアは違いを明確に打ち出せる原糸と生地の開発に力を入れる。近年の繊維産業の環境トレンドに合わせ、地球環境への負荷の低減に貢献するサステイナブルな素材開発を強化する。

 インドネシア国内の素材メーカーと組んで環境負荷を低減した生地の開発を進める。将来、特定の市場で独占的に販売できるような商流を模索する。同社でしかできない価値を付けた商材で日本向け、インドネシア内販向けの拡販、第三国輸出の拡大を狙う。

 テキスタイル販売は他のアジア諸国の安価な生産品などとの競争が激しい。このため独自性の高い素材を活用した商品開発と提案に力を入れる。これまでインビスタとの取り組みで涼感ポリエステル「クールマックス」などを活用した素材やポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維使いの素材も開発している。

 2020年の同社の業績は新型コロナウイルス禍で世界的に衣料消費が低迷したためほとんどのOEMで苦戦を強いられた。「日本市場に向けた製品OEMは糸・生地以上に昨対比で落としている」(吉村修社長)。まずは今まで築き上げてきた売り先や仕入れ先との数字をもとに戻すことが最優先となる。

〈モリリン/韓国生産の原着糸、拡販進める〉

 モリリンは昨年8月から韓国で生産を開始した原着ポリエステル長繊維糸「モコフィーロ」の拡販を進めている。韓国内販に加え、日本や中国向けも順調に供給が増える。海外拠点のネットワークを生かしグローバルな供給体制の構築も見据える。

 モコフィーロを生産するのは忠清南道の唐津市に位置するモリリンファイバーコリア。同社初の合繊長繊維工場だ。約6億円を出資した独資企業でスタッフは日本人を含む16人が在籍。月平均100㌧近くの生産量を維持し7月までの初年度計画1200㌧に向けて順調に生産を続ける。

 今後はモリリン内の中国やASEAN各拠点との連携を生かしモコフィーロの新しい供給経路の構築を目指す。モリリンファイバーコリアはマザー工場として他国の生産拠点に原料手配から生産方法を展開する役目を期待される。

 モコフィーロは5千色という豊富な色数と、色の再現性の高さが特徴。染色工程で発生する水や薬品、CO2も伴わないサステイナブルな側面も併せ持つ。従来の原着糸では困難とされる杢(もく)調の糸もそろう。1色500㌔からと少量対応も行う。

 供給はカーシートや医療系、スクール、サービス系ユニフォーム用向けが多い。さらなる用途開拓提案に向け再生チップを原料に使うプランや機能素材との複合提案も視野に入れる。GRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)認証も申請中だ。

〈澤村/ベトナム生産拡大がテーマ〉

 澤村(大阪市中央区)は、中国、タイ、ベトナムでアジア事業を展開している。中国法人は新型コロナウイルス禍でも黒字を確保、ベトナムでの生地生産も新型コロナ禍の影響を除けば進展している。タイ法人は駐在員事務所に形態変更し、その機能をベトナムに移管中だ。

 中国法人の2020年12月期は、前半こそ新型コロナ禍で落ち込んだが、後半盛り返した。事業内容はアウトドア向けのラミネート加工生地とサポーター生地向けの製造販売で、仕向け地は欧米。欧米のロックダウン(都市封鎖)の影響からの回復はまだ完全ではないが、「中国事業はまだまだ伸び代がある」とし、今後は内販を含め商品開発と顧客提案を改めて強化する。

 ベトナムでは数社の台湾系ニッター、染色加工場と協力し、トリコットを生産している。対日が大半。事務所開設計画もあったが新型コロナ禍でとりやめた。代わりに、現地在住で生地生産に精通する日本人と業務委託契約を結んだ。

 用途は対日のシャツ地、裏地、ユニフォーム地が主力だが、新型コロナ禍の影響は大きかった。裏地はファッションよりもアウトドア系が中心だったため回復も早かったが、シャツ地はまだ戻っていない。「今後もコロナ前には戻らない」とみて、販路開拓を急ぐ。価格面など日本品だけでは取り切れない商権をベトナム生産で取り込み、「塊を作っていきたい」と意気込む。

〈東海染工グループのTTI/レーヨン加工数量拡大へ〉

 東海染工グループのトーカイ・テクスプリント・インドネシア(TTI)はインドネシア国内で流通する衣料品向けのレーヨン100%のプリント加工、無地染めの加工数量を増やす。これまで同社の主力はプリント、無地染めともに綿100%地への加工だった。

 インドネシア国内の衣料品消費は新型コロナウイルス禍の影響で消費者の外出が減り、大きく落ち込んでいる。TTIが受注する現地の生地問屋などの取引先でも在庫が過剰な状態で、TTIへの新たなオーダーが低調な状況が続く。

 こうした中でも比較的、堅調に売れているのが安価なレーヨン製品だ。TTIにもレーヨン生地へのプリントの引き合いが増えていると言う。TTIはこれまで実績のあるレディースのトップスやワンピース向けのレーヨン生地の加工で新たな受注拡大を目指す。

 これまで数量が少なかったバティックやサルーンといったインドネシアの伝統的な衣装用生地への加工数量の増加や新たにポリエステル素材への染料プリントの加工にも取り組む。

 新型コロナ禍や米中貿易摩擦の影響で縫製工場が、現地で生地を調達しようとする動きが増えており、こうした縫製工場で必要とされる生地の加工需要の取り込みも狙う。

 本田忠敏社長は「以前のように(インドネシア国内の)受注が戻ってくるとは考えていない」とし「これまでやっていなかった、もしくは数量が少なかった部分を広げていくことが重要になる」と話す。

〈QTEC/現地スタッフ戦力化へ〉

 日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は、中国に五つの拠点を持つほか、バングラデシュとベトナム、韓国にも進出している。新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響を受けたが、試験依頼は戻りつつある。今後、現地スタッフの戦力化に継続して取り組むなど、各拠点の高度化や対応力強化を図る。

 中国拠点の中心が上海可泰検験(上海総合試験センター)で、効率化の一環として昨年10月に移転した。抗菌性試験や消臭性試験、紫外線遮蔽(しゃへい)をはじめとする機能性試験を行うなど、機能が充実している。春節(旧正月)明けは試験依頼が落ちたが、それも回復基調にある。

 南通浩達紡織品検測(南通試験センター)は機能性試験に力を入れており、昨年に帯電性の試験機を導入した。稼働は順調と言う。そのほかの青島可泰検験(青島試験センター)、無錫試験センター、深セン試験センターもそれぞれ試験依頼が回復基調に入っている。

 中国拠点の強化策として、現地スタッフの戦力化を進めている。新試験項目を含め、これまで日本人が行っていた業務ができるよう育成する。

 バングラデシュのダッカ試験センターも同様に現地スタッフの戦力化を課題とするが、進出から10年強が経過し、「着実に育っている」と話す。ベトナム試験センターは顧客が増えており、今後も積極的に伸ばす。