2021春季総合特集Ⅲ(7)/トップインタビュー  帝人フロンティア/代表取締役 社長執行役員 平田 恭成 氏/重点5領域に注力/中計目標は修正せず

2021年04月26日 (月曜日)

 帝人フロンティアは前期、防護衣など新型コロナウイルス禍で需要が伸びる分野があった一方で、衣料分野などではマイナスの影響を受けた。今期もまだ市場は元の水準に戻らないとみるが、中期計画で定める目標は修正せず、グリーン、ヘルスケア、モビリティー、インフラ、グローバル衣料テキスタイルの重点5領域に引き続き注力して成長を目指す。前期の前半に控えた時期もあった設備投資も中計で定めた水準に戻し、今期はタイでのショートカットファイバーの能力増強などを計画する。

 ――収束後の発展に向けて必要なことは。

 新型コロナ禍で健康志向、感染症対策への注目が高まり、今後もメディカルのニーズは高まるでしょう。産業資材も自動車は一時落ちましたが、今は全体として回復しました。新型コロナ禍で2年ほど遅れた感はありますが、自動車の世界需要は引き続き伸びていくとみられます。このような需要の拡大が見込まれる分野に注力することが重要で、重点領域に位置付けるグリーン、ヘルスケア、モビリティー、インフラ、グローバル衣料テキスタイルに今後も力を入れます。

 ――前期の新型コロナ禍の影響は。

 防護衣など特殊な要因もありましたが、従来からのビジネスではマイナスの影響を受けたものもありました。一方で、新型コロナ禍で気付かされたこともありました。例えばパンデミックの中でどうすべきかが求められる中、将来の商材について考えさせられた。働き方もそうで、在宅やリモートにやりにくさがあることも確かですが、これまで無駄なことをしていなかったかという反省も出ました。

 ――海外出張が制限されたことの影響は。

 海外を担当している人たちは苦労しています。前期は決まっているものはそれなりに動いたのですが、海外の顧客と新しい開発をしようとしても、相手が在宅勤務だとか、サンプルを送る際の航空便の混乱などで遅れている面があります。2~3年後にボディブローのように効いてくる懸念があり、開発をどう促進するかが重要になっています。

 ――今期(2022年3月期)の市場環境をどうみますか。

 原料価格が急激に上がっていますので、市場に転嫁をお願いするかどうかの判断をしなければなりません。現時点(2日)で値上げ交渉に入っているわけではありませんが、どこまで値上がりするのかを注視する必要があります。今期はモノが足りないことの影響も出てくるでしょう。例えばナイロン原料の件では、エアバッグ布やタイヤコードの事業で調達に影響が出る可能性があります。サプライチェーンの中において、どの段階で足りないのかをよく見極めて対応しなければなりません。

 ――今期のポイントは。

 中期計画で定めている重点5領域にしっかりと取り組むことです。新型コロナ禍の影響を受けた市場は、完全に元に戻ることはないとみていますが、中期計画で掲げている数値目標は変更しません。注力している領域は安心、安全、環境などであり、需要が減る方向にはなっていません。目標を変えず全員で取り組んでいきたいと考えています。

 ――前期に新型コロナ禍の影響を受けた分野も回復を狙うのでしょうか。

 前期は防護衣料など特殊な要因で伸びた部分はありますが、これまで取り組んできた既存ビジネスの中には若干落ち込んだものもありました。そこはしっかりと回復させます。新型コロナ禍の影響を受けたのは、グローバル衣料や国内の衣料、自動車などです。このうち自動車は既に回復していますが、それ以外の市場は新型コロナ禍前の水準にはまだ戻らないとみています。自動車も市場自体は100%に戻っていないのですが、これまで進めてきたシェアアップのための取り組みが効いてくるとみています。アパレルの市場回復はまだ時間がかかりそうですが、エコ商材や機能商材を前面に打ち出していきます。

 ――自動車用途はシェアアップで拡大を図る。

 タイで生産するタイヤコードは、着実に認証が取れています。新型コロナで中量試作、量産試作の評価が5カ月ほど遅れるなどの影響はありましたが、年単位で遅れることはありませんでした。認証件数は着実に増えています。レーヨンやアラミドを使った航空機やハイパフォーマンスタイヤなどの用途も取り組みが進んでおり、今後の拡大を見込んでいます。

 ――設備投資はいかがですか。

 昨年度の前半は抑えた時期がありましたが、後半には戻しました。今期は中計で定めた数値に近い水準で設備投資を進めます。今、産業資材分野では水処理用の環境フィルターに注力しています。タイのテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)とテイジン〈タイランド〉(TJT)では、ポリエステル短繊維のショートカットタイプを1年かけて増強し、生産能力を20~30%増やします。ポリエステル長繊維の再構築も進め、設備を高度化してより競争力の高い機能原糸を作る形にします。

 ――国内では帝人加工糸と新和合繊を統合しました。

 さらに付加価値を高め、競争力を付けていくにはどうすればよいかという視点でこの形にしました。日本での生産を続けるかについても議論しましたが、結論はしっかりと国内で生産していくということです。10年後、20年後を見据え、両社の強みを融合しながら競争力を高めていきます。

 ――4月から社長に就きましたが、改めて抱負を。

 学生時代に野球をしていたのですが、チームは全員がエースで4番では成り立ちません。9人の選手がそれぞれの個性を生かし、チームとして強いというのが理想です。会社も同じで、商品によって、人によって個性があります。全員がそれぞれの個性を尊重し、チームとして強くなることを目指したいと思います。

〈新型コロナ禍収束後にまずやってみたいこと/温泉でゆっくり〉

 収束したらまずしたいこととして旅行を挙げる。ゴルフも楽しみの一つだが、この間に旅行は全くしていないので、「どこでもよいので行ってみたい」という。新型コロナ禍前は奥さんと機を見て旅行を楽しんでいたが、家族全員ではしばらく行っていない。収束すれば、既に職について東京と横浜にいるという子供たちを含めて家族全員で行くことも考えてみたいという。旅行先は海外ではなくまず国内で。観光を楽しむというよりは温泉でゆっくりした時間を楽しみたいと考えている。

〈略歴〉

 ひらた・やすなり 1985年日商岩井入社、2005年NI帝人商事繊維資材本部繊維資材第二部長、13年帝人フロンティア繊維資材本部繊維資材第二部長、14年繊維資材本部長、18年取締役執行役員、20年取締役常務執行役員、21年4月から現職。