2021春季総合特集Ⅲ(10)/トップインタビュー  東レインターナショナル/社長 沓澤 徹 氏/サステやSDGsが鍵になる/中国でのビジネスを拡大

2021年04月26日 (月曜日)

 東レインターナショナルは、中期経営課題の三つの基本方針を推進する中、2年目となる2021年度(22年3月期)は、特に中国ビジネスを拡大する。沓澤徹社長は中国市場について「大きなポテンシャルを持ち、幅広い用途で伸ばしていける」との認識を示す。サステイナビリティー対応にも力を入れ、中経達成に向けて強い体制を作る。

  ――新型コロナウイルス禍の収束後に日本の繊維産業が発展するためには何が必要ですか。

 新型コロナ禍で1、2年の間は足踏み状態となる可能性はありますが、日本の繊維産業の方向性に大きな変化はないと考えています。サステイナビリティーやSDGs(持続可能な開発目標)を志向していかなければ行き詰まってしまいます。リサイクル、バイオマス、製造工程、廃棄物など、さまざまな角度で推進する必要があるでしょう。

 日本の繊維産業は早くから環境対応に向き合い、得意とする領域でもあります。今後はそうした取り組みにいかに事業性を持たせるかだと思います。環境はビジネスにならないといわれたこともありましたが、環境対応がビジネスになる時代に変化しました。業界や企業に利点があるだけでなく、社会貢献にもつながります。

  ――環境対応以外にもポイントはありますか。

 衣料用繊維だけでなく、繊維資材、産業資材用繊維の拡大が求められます。DX(デジタル技術で企業を変革するデジタルトランスフォーメーション)の活用も重要です。そのほか、日本の繊維産業がこれから量の世界で勝負することはあり得ませんので、グローバル市場で勝負するにはこれまでのノウハウを生かした特長ある商材で戦わなければなりません。

  ――20年度は中経の初年度でした。振り返ると。

 新型コロナ禍が特に国内での販売に影響を与えました。売り上げは計画に届かない見込みですが、海外の商事会社は中国の回復が早かったこともあって前年並みで着地できそうです。全体の売り上げは落ちていますが、巣ごもり需要に応じた製品、防護服関係、水処理関連、浄水器などは伸びました。利益面でも新型コロナ禍の中で健闘していると言えます。

  ――21年度に入りました。経済の見通しは。

 新型コロナのワクチン接種がどの程度進むかに左右されるのですが、経済は21年度の下半期から回復度合いがかなり高まってくると予想しています。中国がいち早く回復し、次に米国、アジアの順で良くなると考えています。樹脂やケミカル関連が活況を呈しているインドも期待ができるでしょう。

 ワクチン接種が予定通り進まなければ遅れる可能性はありますが、基本的には良い方向で進み、22年度にはかなりの水準に戻っていると思います。ただし航空機需要の戻りが遅れるなど、産業によってばらつきは出るでしょう。米国と中国の問題など、懸念材料も残っています。両国の動向には注視しておかなければなりません。

  ――そのような環境下で21年度の基本方針は。

 中経の方向性はぶれることなく、三つの基本方針と四つの重点施策に取り組みます。その前提に立った上で力を入れるのが中国でのビジネス拡大です。中国市場は大きく、地方に目を向けるとまだ伸び代があると思っています。衣料用繊維は糸わた・テキスタイル・縫製までの一貫型ビジネスをさらに推進します。

 同時に非繊維分野も強化します。樹脂やフィルム、水処理、炭素繊維などに可能性を感じています。水処理関連は需要が旺盛ですし、炭素繊維も水素タンクなど産業用途のポテンシャルが高いです。中国では新エネルギーにどんどんシフトしていますが、リチウムイオン電池に使われるセパレータ用のフィルムにも重点を置いています。

  ――そのほかでは。

 やはりサステイナビリティーがキーワードです。防護服関係では高機能品を強化し、海外生産にも挑戦します。生活の質を高める消費、関連ビジネスが拡大するでしょう。高機能素材を使ったスポーツ用途、在宅需要に対応したルームウエアやインテリアの提案も強化します。

〈新型コロナ禍収束後にまずやってみたいこと/東北への旅路〉

 「旅行が大好きなので久しぶりに行ってみたい」と語った沓澤さん。新型コロナ禍で行きたくても行けない日々が続いているが、感染が収束すれば特に東北地方を回ってみたいと言う。なぜ東北なのかと尋ねると、「温泉があるし、食べ物や日本酒もおいしいので、元々好き」と答え、「東日本大震災の復興の一助にもなる」と続けた。自由に旅行が行ける日が来るまでネットで購入した東北の地酒を味わって我慢している。

〈略歴〉

 くつざわ・とおる 1982年東レ入社、2011年東レマイクロファイバー事業部門長、16年東レインターナショナル取締役、19年6月東レ常任理事、同年7月トーレ・インダストリーズ〈香港〉社長などを経て、20年6月に東レインターナショナル社長に就いた。