2021春季総合特集Ⅳ(6)/トップインタビュー  豊島/社長 豊島 半七 氏/求められる商品を的確に供給/アンテナ研ぎ澄まし時流に沿う

2021年04月27日 (火曜日)

 豊島の豊島半七社長は「数多くの商品が流通する中で、当社のシェアはまだ1%もない」と強調し、ライフスタイル商社としてさまざまな道を模索する。新型コロナウイルス感染拡大によって商況は良くないものの、アンテナを研ぎ澄まして現代の時流に沿った商品を作り上げる。価格面はもちろん、ストーリーや理由付けなどで付加価値を高め消費者が共鳴するものを打ち出す。「求められる商品を的確に供給することが重要」。そこにはもちろん、SDGs(持続可能な開発目標)も含まれており、サステイナブル社会の実現を図る。

  ――新型コロナウイルス禍収束後、日本の繊維産業が発展するには何が求められると思いますか。

 世の中はさまざまな面で大きく変わりましたので、そうした変化に対して敏感に対応することが求められるでしょう。過去を振り返ると、団塊の世代と呼ばれる人たちはかつてファッションへの優先度がとても高く、衣料品の購入に多くのお金を落としてきました。繊維産業はこうした人たちが引っ張ってきたと言えるかもしれません。

 しかしその後、携帯電話が普及するとともにファッションの優先順位が下がっていく一方で、大規模商業施設ができるなど売り場面積は拡大していきました。そして団塊の世代がリタイアし少子高齢化による人口減少が進行し、スマートフォンが当たり前となりモノからコト消費、多様性の時代へと変貌を遂げました。

 現在は新型コロナ禍でファッション衣料は不要不急の最たるものとされており、売り場も減っています。サステイナビリティーの流れもあってかつてのような大量生産の時代ではなくなっています。小売り業にとっては10年後に起こり得ることが、一度に押し寄せていると言えるでしょう。

  ――では、その中で貴社が果たせる役割は何でしょうか。

 冒頭にも話しましたが、このように大きく変化する中で現代の消費者に合う商品が必要となるでしょう。そのためにもわれわれとしては消費者が求めるニーズをきちんと把握した上で、的確に供給していくことに尽きると考えています。そのニーズとはもちろん、価格もありますが決してそれだけではありません。さまざまなストーリー性やサステイナビリティーへの取り組みも重視されるでしょう。日本でも格差社会になりつつありますが、何か自分に共鳴する物があれば、惜しまずお金を出す消費者は増えており、時代とともに考え方は変わっています。知恵を絞れば訴求できる部分は必ずまだあります。当社が手掛ける商品のシェアは国内ではまだ1%にも達していません。まだまだ道はあると考えていますので、アンテナを高く張って模索していきたいです。

  ――2021年の国内の経済はどうなっていくでしょうか。

 ここまで長引くと思っていなかった企業も多いでしょうから、きちんと備えてきた企業とそうでない企業との格差が広がっているように感じます。特に雇用調整助成金がストップした時が怖いですね。その時点で廃業やリストラをする企業が出てくる可能性もあります。産地では後継者がいない工場もありますから、国内のモノ作りが失われてしまうことを危惧しています。一方で、現在接種が進んでいるワクチンが行き渡れば、経済はある程度回っていくでしょう。外出が増え海外へも行けるようになりますし、人や物の流れは活発になりますので上向いていくと考えられます。

  ――21年6月期の見通しはいかがですか。

 繊維製品部門は、堅調に推移していたマスクや防護服といった医療・衛生関連の動きが鈍化しています。各社が手掛けるようになりましたので競争が激化しました。衣料品は短納期化や低価格化が進んだほか、ミャンマーのクーデターの影響もあり苦戦しています。繊維素材部門は新型コロナ禍によるさまざまな需要の低迷で、糸や原料、生地いずれも厳しい状況を強いられています。ただ、巣ごもりによる手芸需要の高まりで切り売りは唯一動きました。海外販売は織物調ニット「ワンダーシェイプ」の採用が進みました。ただ、受注が続かないことが課題です。

  ――サステイナビリティーに取り組む企業が多い中、御社の戦略は。

 サステイナブルかつトレーサブルであることと、いろいろな企業や団体とタイアップを図ったり、支援したりすることを重視しています。当社はメーカーではありませんから、少しひねった訴求の仕方や仕組み作りで差別化を図ることが重要だと考えています。

 最近ではダイバーシティの一つとして、アダストリアさんと協業し、体に障害がある人や病院着を使用する機会が多い人に向けたインクルーシブファッションを提案する事業を始めました。一人一人のニーズが異なる上に小ロットのため大変手間のかかることですが、当社はそれに対応できると自信を持って言えます。こうしたことが評価されれば他のビジネスにもつながっていくと考えています。この事業はビジネス的なトライアルの要素を含んでいますが社会貢献というのが前提です。

 ほかにも、日本環境設計さんと共同で、海岸の美化活動で回収したペットボトルを使い衣料品を作る取り組み「ブリング・オーシャン」なども進めています。

  ――新型コロナの感染拡大から1年以上が経過し先行きの不透明さが漂っています。社員の雰囲気はいかがですか。

 みんなモチベーションを高く保ちながら仕事に取り掛かっています。感染拡大によっていきなりテレワークになるなど、これまでとは働き方が大きく変わる中でも、臨機応変に対応し新たなお客さんをつかむなど成果も上げています。通常ならば、こうした状況になると既存のお客さんだけで満足してしまいがちですが、新規顧客の開拓や何か新しいことへのチャレンジなど必死にもがいた社員が多かった。そこは本当に感謝したいことですね。

〈略歴〉

 とよしま・はんしち 1985年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て、2002年から現職。

〈新型コロナ禍収束後にまずやってみたいこと/長期旅行でリフレッシュ〉

 「妻とゆっくり長期旅行へ行きたい」と話す豊島さん。数年前にニュージーランドへ旅行して以降、ここ最近は長期休暇が取れておらず、心身ともにリフレッシュできる機会があまりない。長期旅行の計画は車で日本一周か北海道一周だ。自分たちのペースで各地を回りながら2人だけの時間をゆっくり過ごす。これまで奥さんには多くの迷惑をかけてきたため、「恩返ししたい」と語る。新型コロナ禍の中、「GO TOトラベル」を使って3回旅行。恩返しにはまだ足りないようだ。