旭化成/「Cs + for Tomorrow2021」を完遂し、次の100年へ/“人と地球の未来への想い”をつなぐ

2021年06月15日 (火曜日)

 2021年度が中期経営計画「Cs+ for Tomorrow(シーズプラス・フォー・トゥモロー)2021」の最終年度となる旭化成。計画策定時と比べて事業環境は大きく変わったが、変化をビジネスチャンスと捉えるなど、前向きな姿勢を崩していない。22年には創業100周年という節目を迎える。培ってきた多様性と変革力、そして“人と地球の未来への想い”を次の100年につなぐ。

 19年5月に始動した現中期経営計画。米国と中国のデカップリング(分断)をはじめとする国際情勢、カーボンニュートラルを目指した脱炭素の具体的動きの加速、新型コロナウイルス感染拡大による価値観の変化など、事業を取り巻く環境は計画策定時から大きく変わっている。

 経営環境の変化によってこれまで順調だった利益成長は停滞を余儀なくされた。18年度に9・7%だった営業利益率は、中計初年度の19年度は8・2%、2年目の20年度も8・2%と1・5ポイント低下した。20年度の営業利益額は1718億円で、18年度と比べて約380億円減少した。

 現在は回復基調に入っているものの、中計最終の21年度は営業利益で1900億円、営業利益率で8・0%の予想(5月時点)で、当初の計画である2400億円、10・0%には届かない。これまでの考え方の延長では難しい状況になっているが、小堀秀毅社長は「変化はビジネスの好機」と前向きに話す。

 同社は100年の歴史の中で培った多様性に加え、従業員と各組織、会社のそれぞれの創意工夫による変革力という強みを持つ。その強みを生かしつつ、「不連続、不確実な環境だが、リスクを再確認しながら先手を打って行動する」と強調。資本コストを意識した成長投資を進めるほか、サステイナビリティーやデジタル技術で企業を変革するDXの取り組みを加速する。

〈成長事業に厳選して投資〉

 現中計における各領域の状況を見ると、ヘルスケアは人工呼吸器やウイルス除去フィルターなどの需要が伸長し、利益目標を達成する見込み。一方でマテリアルは経営環境の変化で収益は低迷している。回復傾向に入っているが、目標達成にはギャップがある。住宅も回復を急ぐが、計画は1年遅れるとみる。

 中期的な方向性として、ヘルスケアは過去に実施した投資からのリターンによる高い利益成長と収益性の追求に力を入れる。同時に成長をけん引する柱としてさらなる拡大に向けた投資を継続する。

 マテリアルは規模ではなく収益性・資本効率向上を優先し、事業ポートフォリオ転換のスピードを速める。財務規律を徹底して成長投資は厳選する。住宅は国内でシニア・中高層関連事業を、海外は米国と豪州に伸び代を求める。IT活用などで収益力を強化して、キャッシュフロー貢献を図る。

 投資については、新型コロナウイルス禍の影響もあり、厳選は必要としながらも、前中期経営計画の6700億円を上回る、7千億~8千億円(意思決定ベース)を行う。特に中期的成長が見込める事業(ヘルスケア領域、リチウムイオン電池用セパレータ)やDX、サステイナビリティー関連に積極的に投資する。

 主な投資(計画中の案件含む)を見ると、DX関連では、マテリアルズ・インフォマティクスを活用したスマートラボや人工知能(AI)を使った自動外観検査などに資源を投下する。サステイナビリティー関連では延岡地区の水力発電所の更新などを進める。米・アディエント社の自動車内装ファブリック事業買収をはじめ、M&Aによる成長にも目を向けている。

 事業ポートフォリオ転換の取り組みでは、まず収益性(営業利益率)と成長性(売上成長率)で基礎評価を行い、ROIC(投下資本利益率)や資本コストとサステイナビリティーなどの視点で追加評価を実施し、「高収益基盤」「成長けん引」「体質強化」「戦略再構築」の四つに分類する。

 このうち戦略再構築事業は評価対象の約60事業の中の15事業(マテリアル領域の汎用的製品が中心)が当てはまる。これらの事業は新型コロナウイルス禍の影響を踏まえた競争環境認識に基づき個別に戦略を再検討していく。既に幾つかの事業については構造改革を見据えたアクションに着手している。

〈GHG排出30%以上削減〉

 「エンバイロメント&エナジー」「モビリティ」「ライフマテリアル」「ホーム&リビング」「ヘルスケア」の五つを価値提供注力分野と位置付ける。その実行状況を見ると、マテリアル領域ではリチウムイオン電池用セパレータや自動車内装材などの付加価値の高い事業にリソースを投入する。

 リチウムイオン電池用セパレータ事業では、電気自動車(EV)市場拡大に合わせ、23年度に19億平方㍍、中期的に30億平方㍍体制に拡大する計画。湿式・乾式の両技術で多様なニーズに対応する。セージ社はデザイン性を武器に地域に最適な素材提案・供給体制の構築を進め、グローバルナンバーワンサプライヤーの地位を固める。

 同領域のライフマテリアルにおける成長に向けた取り組みでは、既存事業で殺菌用深紫外線LEDの展開を加速する。新しいビジネスモデルの事業開発として青果物の鮮度・品質保持ソリューション「Fresh Logi」でフードロスの削減やCO2の削減に貢献する。

 住宅領域ではデジタル活用推進で新たな暮らしのニーズ変化に応えながら中計で掲げた成長戦略を実行。持続可能な都市の暮らしに向けてこれまでのノウハウを生かし、脱炭素社会と災害へのレジリエンス強化に取り組む。ヘルスケア領域にはグループの経営リソースを優先投入し、旭化成の成長をけん引する第三の柱にする。

 成長戦略の柱としてはDX展開にも力を注ぐ。約400件のプロジェクトを推進してきたが、20年以降をデジタル展開期と位置付け、DXビジョン策定、デジタル共創本部設置などを実施。24年からはデジタルノーマル期とし、全従業員がデジタル活用のマインドセットで働くことを目指している。

 サステイナビリティーに関連する取り組みも強化する。持続可能な社会実現に向け、グループとして50年にカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)を志向する。エネルギーの脱炭素化や製造プロセスの革新、低炭素型事業へのシフトなどで30年には温室効果ガス(GHG)排出量の30%以上の削減(13年度比)を目指す。

 水素社会実現の施策にも乗り出しており、アルカリ水電解技術の実証などを通じてその早期実現を目指すほか、水素バリューチェーン推進協議会にも参画。そのほか、ゼオライトを吸着剤として用いたCO2分離・回収システムの開発も行った。サーキュラーエコノミー(循環型経済)を見据えた取り組みも進めている。

〈二つのサステイナビリティー実現〉

 22年に100周年を迎える同社。次の100年に向けた経営の方向性として「革新技術と先進的取り組みで持続可能な社会の実現にソリューションを提供する」「社会が求める価値を提供し持続的な企業価値向上を実現する」という二つのサステイナビリティーを目指す。

 さらに、収益性・資本効率の高い付加価値型事業の集合体としての姿を追求していく。その上で「多様な“個”が高いモチベーションで活躍できる場」「多彩なコア技術や蓄積されたノウハウなどの無形資産の最大活用」「DXによる業務高度化・効率化とビジネスモデル変革」といった経営基盤の強化を図り、次の100年につなげる。