特集 安心・安全(3)/東レ/「リブモア」が変える/作業現場の働き方改革

2021年08月10日 (火曜日)

 年々厳しさを増す日本の夏。猛暑・酷暑とも呼ばれる中で、作業現場における熱中症の発生が増えている。発生要因は肉体労働、高温・多湿、休憩不足、防護服・マスクなどさまざまだが、今すぐできる対策として、防護服の変更が注目されている。東レの使い切り防護服「リブモア」もその一つ。防護性と快適性を両立するリブモアが作業現場の働き方を変える。

〈防護性と快適性両立/熱中症リスクを低減〉

 防護服はアスベスト除去やウレタン吹き付けなどを行う建設現場、粉塵(じん)が舞う中での設備メンテナンス現場、粉体を取り扱う化学品や食品の製造現場、さらに原発関連施設などで着用する。

 しかし、従来の防護服は「蒸れて暑い」「我慢して着る」が当たり前だった。粉塵防護性を高めるため、通気性を犠牲にせざるを得なかったからだ。さらに熱中症の懸念から長時間作業ができないというデメリットもあった。

 こうした欠点を補いながら防護性を確保したのがリブモアだ。その始まりは2018年に開発、発売されたリブモア3000。現在では、つなぎとセパレートタイプをそろえるリブモア3000はメルトブロー不織布(MB)をスパンボンド不織布(SB)で挟み込んだ複合不織布を生地に使用する。

 ポイントは中間層のポリプロピレンMB。エレクトレット加工(長期的に帯電させる加工)を施した、細繊度糸からなる同社のMB「トレミクロン」を採用する。トレミクロンはエアフィルターなどに採用されるもので、リブモア3000は空気を通しながら帯電したトレミクロンで高い防塵性を発揮する。

 同社試験によると、リブモア3000の通気性は毎秒1平方メートル当たり96立方センチメートル。防護服として知名度が高い他社製品が0・6立方センチメートルだけに圧倒的な差がある。衣服内湿度を比較すると、リブモア3000は31%も低い。一方で、粒子捕集効率は82%(他社製品は80%)とほぼ同等で、化学防護服の規格の一つ、タイプ5(浮遊個体粉塵防護用密閉服)に合格する。

 高い通気性により衣服内の蒸れを防ぎながら、優れた防塵性を両立できれば熱中症リスクも下げることにつながる。

 21年5月31日には信州大学繊維学部の佐古井智紀准教授監修の下、蒸発熱抵抗試験を実施。熱中症対策の指標である暑さ指数が一般の衣服と同等の補正値(0℃)に相当し、汎用的な防護服と比較し作業時に熱ストレス軽減する効果を持つことも確認した。熱中症リスクを下げることに加え、リブモア3000は他社製品に比べて引っ張り強度が強く、裂け難く、破れ難い点も評価される。

 リブモアは進化を続ける。19年にはコストダウンを図った高通気スタンダードタイプのリブモア2000を発売する。使い切りの防護服市場は価格競争が激しい。高通気性と防塵性を両立するリブモア3000は他社製品に比べてどうしても高くなる。そこでリブモア2000は暑さを感じやすい胸、背中、フード、上腕部分にのみにリブモア3000と同じ複合不織布を使うことでコスト削減を図った。

〈耐水圧タイプなど登場/クリーンルーム対応品も〉

 さらに21年1月には耐水圧タイプのリブモア4000、クリーンルーム滅菌タイプのリブモア CL改良版を開発する。通気性を重視するリブモアシリーズはどうしても雨や水が浸入するため、水を使う作業現場、例えばダイオキシン対応の規制がある産業廃棄物処理場などでは使えなかった。このため、耐水性の高い他社製品をベンチマークに開発に着手。SBとMBの複合不織布を使いながら他社製品と同等の耐水圧1000ミリh2O以上を業界で初めて実現したのが、リブモア4000だ。

 通気性は8・2立方センチメートルとリブモア3000には大きく劣るものの、ベンチマークとした他社品(0・2立方センチメートル)を凌駕し、衣服内温度で最大2℃、相対温度は最大18%低減するなど快適性は大きく上回る。耐水性を高めながら快適性も追求するという、リブモアの開発思想がここでも貫かれている。それを実現できたのは、国内にある自社の不織布工場の技術開発力だ。

 一方、リブモア CL改良版は19年に発売したリブモア CLを神戸医療産業都市推進機構の協力を得ながら、着用者の声を参考に改良を加えたもの。再生医療やバイオ医薬はじめクリーンルームでの作業や脱ぎ着しやすさを考慮し、セパレートタイプとし、サイズもSSから取りそろえる。リブモア3000の生地を基本とするが、表側にはポリプロピレン・ポリエチレンの複合SBを活用するなど工夫も凝らす。

 さらに、感染対策タイプのリブモア5000(SBと防水透湿フィルムの3層構造)もラインアップする。ギニア共和国の感染対策強化支援として寄贈したほか、感染対策衣普及促進事業も実施したリブモア5000は、高い安全性と快適性を両立する。

 ウイルスバリア性、血液バリア性ともクラス6(ミスト防護用密閉服)と最高レベル。一方で透湿性は毎時1平方メートル当たり200グラムとベンチマークの他社品(0グラム)を大きく上回る。クラス6をクリアするため、リブモア5000は超音波縫製で目止めテープ処理も施す。

 バリエーションを拡充しながら、着実に知名度を高めるリブモアシリーズ。2019年度(20年3月期)から前期比3倍のペースで販売量を伸ばす。21年度も同程度の伸びを見込むが、先行する他社製品との差はまだまだ大きい。

〈市場シェア50%目指す/国内だけでなく海外も〉

 機能製品事業部の勅使川原崇主席は「先発メーカー品の機能性をクリアしながら、他社品にはない快適性を追求することで、市場シェア50%を目指す」と意気込む。そのためにもリブモアの知名度を高める必要性があると見る。その一環として、7月から動画配信サービス「TVer(ティーバー)」でリブモアのCMを打つ。

 販売代理店に対しては防護性と快適性を両立するリブモアへの理解を深めてもらう営業活動も行う。エンドユーザーに対しても作業現場を訪れてニーズを拾い上げ、個々の要望に合致する製品開発に注力する。こうして開発した新商品が今秋に発売される見通しだ。将来的には防護服だけでなく、周辺商品を加えたトータルソリューション提案も検討するという。

 作業現場の働き方も変える可能性を秘めるリブモア。日本だけにとどまらず、欧米、中国など海外でのマーケティング活動にも着手する。リブモアが世界の現場作業の働き方を改革する時代がやってくるかもしれない。