シリーズ事業戦略/シキボウ/「環境」軸にESG重視/アジアで拠点拡充も検討/上席執行役員 繊維部門長 加藤 守 氏

2021年09月10日 (金曜日)

 シキボウは現在、新型コロナウイルス禍に対応するため2カ年緊急経営計画を実行しており、2021年度(22年3月期)が最終年度となる。繊維部門もユニチカトレーディングとの提携や新内外綿の完全子会社化など新たな事業環境に向けてさまざまな手を打ってきた。次期中計に向けた戦略策定も始まる。加藤守上席執行役員繊維部門長は「『環境』を軸にESG(環境・社会・ガバナンス)を重視した事業戦略に取り組む。次の中計は、いかにサステイナブルな企業になれるかが問われる3年間となる」と話す。

  ――繊維部門の21年度上半期(4~9月)の状況は。

 4~6月は売上高も前年度実績を上回るなど好調でした。抗ウイルス加工などの特需は一服しましたが、ワクチン接種の進展などで新型コロナ禍も収束に向かうとの期待からアパレルも生産を正常化させつつあったことが要因でしょう。特に原糸は定番糸の回復が遅れていますが、特殊糸に関しては海外で生産しているものも含めて好調です。世界的に在庫水準が低下していることも背景にありそうです。中東民族衣装用織物やユニフォーム地も改善しつつあります。特にユニフォーム地は企業別注で引き合いが戻ってきました。備蓄アパレル向けも流通在庫が適正化しつつあるので、動きが出てきました。好調だった寝装は落ち込んではいませんが、勢いに陰りがあります。店頭の動きが鈍化しているようです。やはり昨年好調の反動や羽毛高騰の影響でしょう。それでも通販向けなどは落ちていません。

 ただ、7月に入って空気が変わってきました。デルタ株の登場で世界的に新型コロナ感染が再拡大し、マインドが悪化しています。生産面での悪影響も懸念されます。例えばニット製品をベトナムで委託生産していますが、ロックダウンの影響で生産が遅れ気味です。綿花や染料・薬剤の価格上昇などコストアップも逆風です。値上げが難しい市況ですから、採算面の回復が遅れます。

  ――下半期の課題ですね。

 そんな中でも好材料はあります。抗ウイルス加工など衛生加工は特需こそなくなりましたが、マスクや寝装でリピート需要が続いています。新型コロナ禍が長引く中で、一定の需要が定着するでしょう。新しい用途での採用も増えました。例えばデザイナー、森永邦彦氏のブランド「アンリアレイジ」が当社の抗ウイルス加工「フルテクト」を採用したのは典型でしょう。こうした分野のボーダレス化の流れを他の機能素材にも広げる必要があります。そのためこのほど機構改革で衣料素材、製品、生活資材の営業を繊維営業部に一本化しました。

 もう一つの柱は「環境」です。SDGs(持続可能な開発目標)を意識するユーザーが増えたことでユニフォームなどでも環境配慮素材の引き合いが増えました。このため燃焼時の二酸化炭素排出量を減らす特殊ポリエステル繊維「オフコナノ」とサステイナブルな科学的農法で栽培される米綿を使った「コットンUSA」認証品を軸に提案を進めます。これに独自の紡織加工技術による機能性をプラスアルファすることで差別化も実現します。

 新内外綿との連携も強化します。植物由来色素を使った色糸「ボタニカルダイ」で商談が進んでいますし、反毛によるリサイクル色糸システム「彩生」とのタイアップにも取り組みます。協力関係を結んだユニチカトレーディング(UTC)とも取り組みが進みました。UTCのポリエステル短繊維や不織布に当社の加工を組み合わせた開発が進んでいます。12月には東京と大阪で合同展示会も開きます。

  ――来期から新中期経営計画が始まります。

 全社的にESGを重視した方向に向かっていますから、繊維部門としてもそれに合わせた戦略となります。新規開発に加えて、既存の商材を組み合わせることで環境負荷低減に貢献しながら、実用的な機能も両立した提案に取り組みます。

 海外戦略の強化も重点課題です。本来であれば現中計から取り組む予定でしたが、新型コロナ禍で計画が遅れました。今後は遅れを取り戻すために、グローバル事業推進室が中心になってインドネシア子会社のメルテックスとベトナムのホーチミン事務所、そして新内外綿のタイ子会社であるJPボスコが連携し、海外生産・海外販売を拡大させます。そのためにさらなる拠点の拡充も必要。そこで現在、ホーチミン事務所を営業活動のできる現地法人にすることを検討しています。合繊素材の調達などを目的に台湾にも現地法人を立ち上げること検討しています。

 いかに当社がサステイナブルな企業体になることができるか。次期中計は、それが問われる3年間になると考えています。