特集 アジアの繊維産業Ⅰ(2)/コロナショック下の日系企業は今/タイ編/衣料、産資で明暗/タイ東海/旭化成グループ/東レグループ

2021年09月21日 (火曜日)

 新型コロナウイルスの感染拡大でタイ経済が厳しい局面を迎えている。行動規制の強化など事実上のロックダウン(都市封鎖)が続き、GDPの大きなウエートを占める観光産業もストップした状態だ。このため国内経済の回復が遅れ、繊維分野も内需は壊滅的な状況にある。一方、世界的な自動車生産台数の回復に合わせて、繊維も自動車関連が急回復している。衣料用途と産業資材用途で明暗が分かれた。

〈ロックダウンで内需壊滅〉

 新型コロナ禍が始まって以来、タイは厳しい行動規制によって感染者数を抑えていたが、デルタ株の登場で状況が一変した。7月から感染者数が激増し、8月には1日の新規感染者数が2万人を超えた。一方、新型コロナ対策の切り札とされるワクチン接種は遅れている。

 新型コロナ禍の出口が見えない中、経済見通しも悪化している。タイ国家経済社会開発委員会は当初、2021年の実質GDP成長率を1・5~2・5%と予想していたが、ここに来て0・7~1・2%に下方修正した。20年の実質GDP成長率がマイナス6・1%だったことを踏まえると、回復の遅れは極めて深刻だ。

 繊維分野も内需は壊滅的な打撃を受けた。日系繊維企業も総じて衣料用途の回復が鈍い。東レグループは、タイ・トーレ・シンセティクス(TTS)で生産するナイロン長繊維やトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)のポリエステル綿混織物、ポリエステル短繊維織物の回復が鈍い。ライフスタイルの変化で世界的にドレスシャツ地の需要が減退した影響も大きい。

 帝人フロンティアグループも衣料向けが苦戦する。織布・染色加工のタイナムシリインターテックスによると、日本向けの受注減少に加えてタイ国内市場はロックダウンの影響で壊滅状態にあるという。テイジンフロンティア〈タイランド〉も国内への衣料用テキスタイル販売が苦戦する。

 一方で輸出を中心に回復の兆しもある。東レグループは高付加価値品へのシフトで海外有力ブランドとの新規取引ができつつある。帝人フロンティアグループは対日や第三国向けの受注が好調となった。紡織のタイ・クラボウ、染色加工のタイ・テキスタイルディベロップメント&フィニシング(TTDF)を持つクラボウグループも日本や第三国向けの受注が回復傾向にある。

 タイ経済の低迷でバーツ安となっていることが輸出競争力の回復につながった。糸などは20年の大幅減産で世界的に在庫が減少していることも無視できない。新内外綿の商事子会社、JPボスコも糸販売が好調だ。

〈自動車関連は回復進む〉

 衣料用途と対照的なのが自動車関連を中心とした産業資材分野。世界的に自動者の生産台数が回復したことで需要が急回復した。東レグループはエアバッグ原糸、シートベルト原糸、エアバッグ基布ともにフル生産となっている。帝人フロンティアグループも自動車を中心とした産業資材用繊維販売が好調に推移する。

 衣料用途と産資用途で明暗が分かれているが、依然として懸念材料も多い。新型コロナ感染とワクチン接種の動向、さらに半導体不足による世界的な自動車減産の動きなど不確定要素を視野に入れながら、ウイズコロナ下での事業再構築が必要となる。

〈タイ東海/合理化で利益改善目指す〉

 東海染工のタイ染色加工子会社、トーカイダイイング〈タイランド〉(タイ東海)の2021年上半期(1~6月)業績は、新型コロナウイルス禍によるロックダウン(都市封鎖)で内需が大きく落ち込むなど厳しい状況が続いている。まずは合理化を最優先することで利益面の改善に取り組む。

 現在の受注状況は、国内個人消費が落ち込んでいるため内需向けが壊滅的。欧米向けも勢いがない。このため上半期の受注量は前年同期比40%以上の減少となり、稼働率も低下した。ただ、日本向けに関しては引き合いも出てきたことから、成約に向けて試験生産を進めている。

 下半期の課題は利益面の改善。受注量の劇的な回復は見込めないことに加え、原材料や燃料価格の上昇も利益を圧迫している。このためまずは合理化を最優先し、利益率の改善に努める。

 アジア地域では新型コロナ禍によるサプライヤーの操業停止などで部品や原材料の供給不安も出てきた。このため生産に必要不可欠な原材料の洗い出しに改めて取り組み、代替品の確保や調達先の複数化などでリスク低減にも取り組む。

〈旭化成グループ/糸、不織布ともフル稼働〉

 旭化成のポリウレタン弾性糸製造販売子会社、タイ旭化成スパンデックスとポリプロピレンスパンボンド不織布製造販売子会社の旭化成スパンボンド〈タイ〉はいずれも原燃料高騰など厳しい事業環境ながらフル稼働を維持している。

 タイ旭化成スパンデックスは新型コロナウイルス禍の影響もあって内需や日本向けの販売は減少傾向だが、いち早く経済正常化に向かう欧米や中国、台湾向けが堅調に推移した。ただ、原燃料の高騰や物流問題があるため保有在庫の見直しなど今後も状況の変化に柔軟に対応した生産・販売を進める。

 旭化成スパンボンド〈タイ〉は、受注の落ち込みもなくフル操業を続けている。ただ、原料価格が想定以上に高止まり、物流費の増加も利益を押し下げる。3系列目の製造ライン立ち上げを控えており、これを遅滞なく実行することが21年度の重点課題となる。物流問題で輸入資材の納入遅れも発生していることから、一部調達先を国内にシフトすることも検討する。

 旭化成グループの商社、旭化成アドバンスのタイ子会社である旭化成アドバンス〈タイランド〉はカバーリング糸、テキスタイルコンバーティング衣料用途が計画通りに推移している。カーシート向け撚糸、エアバッグ包材自動車関連は半導体不足による自動車生産減少の影響を受けた。ただ、こちらも回復傾向のため、今後の需要回復を確実に確保することを目指す。

〈東レグループ/短繊維織物事業を再構築〉

 合繊長繊維製造のタイ・トーレ・シンセティクス(TTS)、紡織加工のトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)などで構成するタイ東レグループは、新型コロナ禍で打撃を受けた短繊維織物事業の再構築を2021年度(22年3月期)中に完遂すること目指す。そのために高付加価値品へのシフトなどポートフォリオ転換に取り組む。

 在タイ国東レ代表で、トーレ・インダストリーズ〈タイランド〉の松村正英社長によると、21年度上半期(4~9月)はTTSのエアバッグ原糸、シートベルト原糸、ブレーキホース用コードや、TTTのエアバッグ基布など自動車関連の受注が回復し、売上高も19年度水準まで回復した。ただ、TTSのナイロン長繊維やTTTの短繊維織物など衣料用途の苦戦が続く。

 松村代表は「当社の開発力・企画力が認められない商品からは手を引く」として、定番シャツ地などからユニフォーム地やスポーツ素材など高付加価値品に転換するポートフォリオ改革で短繊維織物事業の再構築を進める。

 そのために新規商流の開拓を進める。既に日本や欧米の有力ブランドとの取引も始まった。これをさらに拡大するために「TTSが生産する原糸の細繊度化やハイカウント化とDTY(仮撚り加工)による質感、機能向上など開発を強化する」と強調する。

 ASEAN域内やインド市場の開拓にも取り組む。インド市場は民族衣装向けポリエステル短繊維織物やゴム資材向けコードなどの拡販に取り組む。原糸からテキスタイルまでタイで一貫生産することを生かし、リードタイム短縮などで競争力を発揮する。「感染対策に全力を挙げながら、下半期は利益を回復させる」ことを目指す。