2021 秋季総合特集(5)/トップインタビュー/東洋紡/異業種共闘で新規ビジネス/専務執行役員 生活・環境ソリューション本部長 西山 重雄 氏/「ツヌーガ」「ブレスエアー」で増設実施

2021年10月25日 (月曜日)

 東洋紡は昨年4月1日付の組織改正で、これまでの5本部を「フイルム・機能マテリアル」「モビリティ」「生活・環境」「ライフサイエンス」の4ソリューション本部体制に再編した。新型コロナウイルス禍以前の生活・環境ソリューション本部の年商は約1100億円。これを25年度をめどに1.5倍に引き上げる中期戦略を推進している。事業部間の垣根をなくし、連携を改めて強化することで新規商材、新規ビジネスを創出するための取り組みを重視する。西山重雄本部長に今後の拡大戦略を聞いた。

  ――目まぐるしく変化する時代を迎えています。

 当本部は他の本部に比べ数多くの商材を持っていることが特徴です。これらをうまく組み合わせて顧客の困っている事を解決するソリューションをいかに提案できるかが鍵を握っています。縦割りの壁を取り払って部門間の連携を強化していくため、各本部にマーケティング戦略部を置きました。当本部の場合、まず4人でスタートし、その後、8人に増員しています。各本部との連携を密にとり、新規事業を創出していきます。

 現在、運輸関連企業、家電関連企業などから当社に人員を出向してもらっています。先方の研究所と秘密保持契約を結び、共同で研究活動に取り組んでいます。自前で新型コロナ禍以降の時代に求められるニーズを探索するのには限界があります。異業種とのアライアンスを通じ、早急に具体的な成果を生み出したいと考えています。

  ――ソリューション本部間の連携に今後どう取り組んでいきますか。

 当本部の場合、守備範囲がモビリティソリューション本部とかなりクロスオーバーしています。当本部が室内用に展開するフィルターをモビリティー用に転用したりすることが考えられます。

 例えば、車内にこもったタバコ臭は除塵(じん)フィルター「エリトロン」で取ることができます。しかし、車内でハンバーガーを食べたとします。その臭いをエリトロンで消臭することは今のところできません。モビリティ本部からはこういうフィルターを開発してくれないかと持ち掛けられています。フィルターをどんどん進化させており、除去する対象が相当広がってきています。

  ――2021年度も半分が経過しました。

 第1四半期は控えめな予算で臨みましたが昨年、強いられた苦戦から各方面で状況は改善し需要が戻ってきたことを実感しています。

 ポリエステル短繊維はマスク向けの販売が順調でしたが、今年は原料急騰に伴うコストアップによって収益面で苦戦を強いられています。値上げに取り組んでいますが、その効果が発現するのはどうしても半年遅れくらいになってしまいます。下半期から黒字に浮上できそうですが、通期では赤字が残るでしょう。

 有機溶剤を回収する装置に使われる分離膜、シートは順調です。半導体工場の増設に伴い当社へのオーダーが舞い込んでいます。新型コロナ禍が収束の方向に向かっており、ようやく据え付けのための出張が可能になってきました。

  ――「ツヌーガ」を年産1500トンから2千トンに増設し、来年4月から稼働させます。

 スーパー繊維のツヌーガは車の組み立て工場などで使われる耐切創手袋に多くを依存していたため、工場のロックダウン(都市封鎖)によってかなりの苦戦を強いられていましたが、ここに来て動きが出てきました。来年からは原着糸もラインアップし、アウトドアウエア、リュック、テントなどの用途を掘り起こします。同じスーパー繊維の「イザナス」は釣り糸向けの販売が絶好調で、米国では店頭からイザナスの釣り糸が一時なくなってしまうほどでした。

  ――「ブレスエアー」が変わらず好調のようですが。

 クッション材のブレスエアーは昨年、巣ごもり需要という追い風の発生で過去最高の販売量を更新し、増設も実施しました。1号機では工程間の搬送などをマンパワーに頼ってきましたが、2号機では自動化のための設備を導入しています。荷動きは今も順調ですが、この間の原料高騰で収益面は苦戦に転じています。防ダニのような機能性を持たせた新商品を投入するタイミングで、新価格体系へと移行させようと考えています。

  ――一方で回復が遅れ気味の事業は。

 空調用のフィルターは新型コロナ禍で一時、特需が発生しましたが、21年度を迎えその勢いには陰りが見られます。用途として大きいのがコピー機やプロジェクターに使われるフィルターです。昨年は緊急事態宣言下におけるテレワークの普及やペーパーレス化の進展で需要がかなり落ち込みました。今年に入り多少、戻ってきていますが……。

 マスクや防護衣料向けの不織布は昨年、好調に推移していましたが、今年は減速しています。高機能が特徴の不織布には今も引き合いがありますが、やはりマスクは全体的に供給過多で昨年ほどのタイト感は感じられません。

  ――衣料繊維は苦戦を続けているようですが。

 ものすごく打たれた事業とそうでない事業との温度差が発生しています。新型コロナ禍が多少、治まりつつあり、それにつれて出てくるオーダーは絞り込んでモノを残さないような形に変わりつつあります。感覚的に言うと、新型コロナ以前に比べて20%減から30%減といったところでしょうか。

 昨年、アクリル短繊維事業で大きな減損を計上しました。この効果もあり、21年度はアクリレート繊維を中心にトータルでは順調に推移しています。アンチダンピングの今後が気になりますが、21年度でアクリル短繊維事業を黒字浮上させられると見ています。

〈私のターニングポイント/マレーシアでの5年間〉

 入社8年目に初めての海外駐在を経験。マレーシアの紡織子会社に赴任したことが「大きなターニングポイントだった」という。それまでは、道具袋を腰にぶら下げ、工場で主に機械の保全を行ってきた。それが、マレーシアでは機械のレイアウトと据え付け、人の採用・養成といった「工場建設に関わるあらゆる業務に携わった」。経営会議にも出席し、会社の財務にも関与。クレーム対応も学んだ。この5年間が「会社人生の中で一番の経験だった」と振り返る。

〈略歴〉

 にしやま・しげお 1983年4月東洋紡績(現・東洋紡)入社。2014年4月参与繊維生産・技術総括部長兼テキスタイル生産技術・開発部長および東洋紡STCへ出向、16年4月参与繊維生産技術総括部長兼テキスタイル生産技術・開発部長および東洋紡STCへ出向、17年4月執行役員東洋紡STC社長、18年6月取締役兼執行役員、19年4月取締役兼常務執行役員、20年6月専務執行役員。