秋季総合特集Ⅱ(11)/トップインタビュー/ダイワボウレーヨン/モノ作りに二つ行き方/社長 福嶋 一成 氏/機能化で脱プラの流れ生かす

2021年10月26日 (火曜日)

 「新型コロナウイルス禍の影響も含めて、生産から流通まで仕組みが大きく変わった。今後、繊維のモノ作りも“ガラパゴス的”な生き方と、“グローバル”な生き方に二極化していくのではないか」――ダイワボウレーヨンの福嶋一成社長は指摘する。世界的に“脱プラスチック”の動きが加速し、これがレーヨンなど再生セルロース繊維にとって追い風になると期待する。

  ――新型コロナ禍以降、繊維のサプライチェーンも揺らいでいます。

 まさにカオスですが、そこから新しい何かが生まれる瞬間かもしれません。生産から流通まで大きな変化が起こっていますから。今後、繊維のモノ作りは、日本市場のニーズに対応した商品、ある意味で“ガラパゴス的”な行き方と、グローバルな市場で競争する行き方に二極化するように感じます。例えば欧州を中心に“脱プラスチック”の流れが加速していますが、これがレーヨン業界にとって追い風になりそうです。国内でもサステイナブル素材としてレーヨンへの関心が高まってきました。米国市場でも脱プラに着手する企業が増えており、代替素材としてレーヨンへの引き合が増えています。北欧でも再生セルロース繊維への投資が急速に増えています。こうした海外の情勢をしっかりとウオッチしながら、それら海外企業とも連携することが重要でしょう。

 一方、生産の海外シフトは今後も止まらないでしょう。ただ、中国がどうなるのか注意が必要です。ここに来て中国生産に対するイメージが世界的に低下していることは無視できません。そうなると、東南アジアなどへのシフトが今後も進むでしょう。

  ――2021年度上半期(4~9月)も終わりました。

 上半期は売上高、利益ともに昨年度を上回るペースでしたが、原燃料の価格上昇が激しく、レーヨン短繊維の事業環境は厳しさが増しています。最終的には去年並みの数字を確保できればといった状況でしょう。そうした中、不織布用はアイテムごとの凸凹があるものの、しっかりとした需要が続いています。一方、紡績用の販売はアパレル用途を中心に全体量が減っています。ただ、そんな中でも機能レーヨンの販売が増えています。背景の一つがEC(電子商取引)の普及でしょう。ネット通販向けの商品では機能性を明確にうたうことのできる素材が求められており、そのニーズに当社の機能レーヨンが応えていると言えそうです。例えば海水中での生分解性を確認した「エコロナ」などが指名買いの対象になっています。

 海外向けは、中国への原綿輸出が増えています。従来は中国で紡績、縫製されて日本に持ち帰る製品向けが多かったのですが、内販製品向けで提案の成果が上がり始めました。対米輸出する防炎レーヨンも増加しています。こちらは現地の規制が強化され、素材代替の動きが加速していることが要因です。難燃作業服などに使われる難燃レーヨンもアジアを中心に拡大しました。アジア諸国でも作業現場の安全意識が高まり、難燃素材の需要が拡大しています。

  ――今後の課題と戦略は。

 最大の課題は原燃料高騰への対策です。現在、情報を収集しながら対策を検討しているところです。二酸化炭素排出量の削減に向けた道筋を付けることも今後の大きなテーマです。ビスコースレーヨンの製造工程での環境負荷低減への取り組みも避けて通れません。

 その上で、レーヨンのさらなる機能化で現在の追い風を生かすことが大切です。ウイズコロナ、アフターコロナでも脱プラスチックの動きは一段と強まるでしょう。当社には撥水(はっすい)レーヨン「エコリペラス」がありますが、これなどは代替素材として関心を示す人が増えてきました。レーヨンは従来、吸水性を生かした用途での使用がほとんどでしたが、撥水機能を持たせることで従来とはまったく異なる用途での商品化の可能性が広がります。

 アパレル向けでは使用済み繊製品を原料に再利用して製造するリサイクルレーヨン「リコビス」への注目も高まっています。リサイクル原料への関心が高まっていますから、しっかりとブランド化していこうと考えています。

〈私のターニングポイント/ドイツで繊維の見方が変わる〉

 30代のころ、ドイツ・デュッセルドルフでの駐在を経験した福嶋さん。「思い返すと、ドイツ駐在時代に繊維への見方が変わった」と振り返る。日本では繊維は斜陽産業とばかり言われてきたが「ドイツをはじめとした欧州各国では、しっかりと研究開発が続けられているのを目の当たりにした。この傾向は今も変わらず、先端材料分野として繊維は隆々としている」。新技術へ積極的に関心を払う同社の姿勢の原点かも。

〈略歴〉

 ふくしま・かずなり 1982年大和紡績(現ダイワボウホールディングス)入社。2013年ダイワボウレーヨン専務、16年大和紡績取締役兼ダイワボウレーヨン社長、17年6月から20年3月までダイワボウホールディングス執行役員兼務。21年4月から大和紡績取締役合繊事業統括兼合繊事業本部長を兼務。