環境特集(9)/有力繊維企業/石徹白洋品店/ミズノ/吉正織物工場/クラボウ

2021年12月06日 (月曜日)

〈石徹白洋品店/伝統のズボンを現代風に/地元高齢者から受け継ぐ〉

 アパレル会社の石徹白洋品店(いとしろようひんてん、岐阜県郡上市)は、洋服が日本に入る前に農作業時などではかれてきたズボン「たつけ」を現代風にリデザインした商品を販売している。かっぱ代わりに着物の上からはいた「はかま」や前ボタンの「越前シャツ」もそろえ、自社サイトで展開している。

 同社は岐阜県と福井県の県境に位置する郡上市白鳥町石徹白に所在を置く。名古屋市から車で2時間以上もかかるこの土地に移住した平野彰秀・馨生里夫妻が営む(2017年に法人化)。一般的な衣料品ではなく、石徹白の人たちが受け継いできた“服”を製作する。

 その一つが、パターンがない時代に着尺を直線裁ちして作られていたたつけだ。尻回りに余裕があるため、ノンストレッチでありながら動きやすいのが特徴。裁断くずもほとんど出ないという。何の知識もなかったが、90代の住民に作り方を教わり、現代風のズボンによみがえらせた。

 たつけとはかま、越前シャツは天然繊維使いの生地を使用し、デニムのたつけも生産した。国内の織物会社から仕入れるが、染め(藍染めと草木染め)は自分達で行う。地元の人に教わった技術を継承していくのも役割の一つとし、ホームページや冊子で作り方を公開している。百貨店などでのポップアップ展開や卸も検討している。

〈ミズノ/リサイクル紙でシューズボックス/CO2排出量160トン削減〉

 ミズノはサステイナビリティー活動の一環として、シューズボックスを100%リサイクル紙を使用したものに11月から順次、切り替えている。これにより従来のシューズボックスの使用に比べてCO2排出量を年間160トン削減できる見通し。

 同社は2021年度から「環境保全」「スポーツを通じた心身の健康」「人間性の尊重」をサステイナビリティー活動の戦略領域に位置付け、取り組みを強化している。環境保全領域においては、50年にカーボンニュートラルの実現を目指している。

 主力商品カテゴリーの一つであるシューズのパッケージに100%リサイクル紙を使用することで環境負荷の低減、持続可能な循環型社会の構築に貢献する。

 カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーの活用、製造工程の革新などでの取り組みを強化。併せて、廃棄物の削減やリサイクルの推進、水の効率的利用など環境に配慮した取り組みも進めている。

 世界的に地球環境問題が注目され始めた91年に業界に先駆けてミズノ独自の活動「クルー21プロジェクト」をスタートさせた。

 “宇宙船地球号の乗組員としての役割を担い、資源と環境の保全活動を実施していく”との思いを込めてクルー21プロジェクトと名付けた。

 プロジェクトの開始以来、資源の有効活用や温室効果ガスの排出量削減、製品企画における環境に配慮した素材や製造工程の採用といった取り組みを30年間続けている。

〈吉正織物工場/ケミカルフリーのシルク生地/CO2排出削減も〉

 織物製造卸の吉正織物工場(滋賀県長浜市)は、製造工程から化学物質を排除したシルク生地の本格販売を始めている。滋賀県東北部工業技術センターと共同で開発した技術「NecoS」(ネコス)を用いており、精練の際にソーダ灰などを使用しない。製造工程でのCO2の排出量も大きく減らせる。

 長浜市特産の浜ちりめんをベースにモノ作りを行う。浜ちりめんは38の工程を経て作られるが、その全てを見直すことでケミカルフリーを実現した。ポイントの一つがソーダ灰を使用せずに植物の灰で精練すること。植物灰を使った精練は珍しくないが大量生産は難しく、量産可能な技術を両者で開発した。

 200平方メートルの生地を作った時に出るCO2量で計算すると、一般的な製造方法と比較してその排出量が約102㌔減らせると言う。漂白もしないため、真っ白ではない天然シルクの白(黄色がかった白)が表現できる。製織時に経糸の滑りを良くするための界面活性剤の使用もやめ、布海苔に切り替えている。

 広幅(120センチ)で展開し、洋装分野で販売拡大を目指す。欧米のハイブランドの開拓を狙うが、サンプル依頼も入っている。長浜には織物会社・工場が11軒(浜縮緬工業協同組合加盟企業)存在し、ネコス技術を利用したいという声があれば技術供与を行う。

〈クラボウ/拡大するアップサイクル/「ループラス」で産地と連携〉

 クラボウは繊維製品の製造工程で発生する端材などを再資源化するアップサイクルシステム「ループラス」の普及に努めている。個別企業との取り組みに加えて、産地との連携も拡大した。

 ループラスは、裁断くずなど端材を独自の開繊・反毛技術によって紡績原料に再資源化するシステム。アップサイクルした原綿を使うことで独特な杢(もく)調の糸やデニム糸、ニット糸を作ることができる。既にエドウインなど有力アパレルとの取り組みが進む。

 産地との連携も加速した。今治タオル工業組合、奈良県靴下工業協同組合がループラスに参画し、タオルのパイル糸や靴下用ニット糸の供給を進める。10月には播州織産元協同組合、兵庫県繊維染色工業協同組合、播州織工業組合、播州整理加工協会がループラスに参画した。これにより播州産地でループラスの糸を使ったモノ作りが広がり、アパレルへのサステイナブル素材提案が拡大する。

 ループラスを活用して各産地向けの原糸開発を進めるとともに、今後は産地間連携でアップサイクル原糸の相互利用による商品開発にも取り組む。ループラスを通じて、素材メーカー、産地、アパレル、小売りが連携し、素材から販売までの“サーキュラーエコノミー”(循環型経済)の実現を目指す。