綿紡績会社の設備再編/新たな需要構造に対応/「日本の技術」残す道探る

2021年12月08日 (水曜日)

 綿紡績会社の国内外の紡績設備再編が加速している。新型コロナウイルス禍を契機に衣料品の需要構造が大きく変わる中、生産能力の適正化が不可欠との認識が高まった。日本の綿紡績会社がこれまで蓄積してきた技術を残すためにも、繊維事業の採算を改善する必要があるとの認識も関係者の間で強い。これまでも大手紡績の設備は縮小し続けてきたが、新型コロナ禍以降、その動きが一段と加速した。

(宇治光洋)

 日東紡は2022年3月末で紡績糸の製造販売子会社であるニット―ボー新潟(新潟市)を解散し、原糸販売事業から撤退する。東洋紡は紡績を担ってきた富山事業所の井波工場(富山県南砺市)と入善工場(富山県入善町)を24年3月に休止することを決めた。それまでに庄川工場(富山県射水市)とマレーシアの子会社、東洋紡テキスタイル〈マレーシア〉に紡績設備を移設する。

 紡績設備の再編の動きは海外子会社でもある。シキボウは火災被害からの復旧作業を進めているインドネシア子会社のメルテックスで紡績設備の縮小を含む設備再編を検討している。

 こうした動きの背景にあるのが、新型コロナ禍を契機とした需要構造の変化。新型コロナ禍によって20年は世界的に綿糸需要が激減した。21年に入って経済が正常化に向かう中で需要も回復傾向にあるものの「新型コロナ禍以前の水準には回復しない。良くて新型コロナ禍前の7~8割水準だろう」と紡績関係者は声をそろえる。

 加えて日本国内での需要回復が遅れていることも国内工場や日本向け中心の海外工場の稼働率維持の逆風となっている。「もともと繊維製品は過剰生産が続いていた。皮肉にも新型コロナ禍によって、結果的に過剰生産が是正され、適正な需要が明確になった面もある」といった指摘もある。

 こうした状況を踏まえ、各社とも“アフターコロナ”を見据えて生産能力の適正化に取り組む必要性が一段と強まった。過剰設備を抱えることで大きな損失を計上するような事態に陥ればば、繊維事業の存続そのものに影響を及ぼす可能性があるためだ。

 東洋紡STCの清水栄一社長は「衣料繊維事業を維持するためにも、さらに筋肉質な事業構造を作る必要があった」と、今回の生産設備再編の理由を説明する。シキボウの加藤守上席執行役員繊維部門長も「これまで若干の過剰感があった生産規模をこの機会に見直すことで、稼働率を引き上げる」と話す。

 紡績設備が減少することで、国内工場は技術開発拠点としての位置付けが一段と強まる。海外工場も、日系紡績として生産する価値のある差別化品へのシフトを一段と進める必要性が高まった。国内工場で開発した技術を、どれだけスムーズに海外工場の量産設備に移管できるかもますます問われる。

 工場の設備を縮小しながら、これまで蓄積してきた「日本の紡績技術」を残し、発展させていく道筋を探る試みが続く。