特集CSR(2)/東レのCSR戦略

2021年12月10日 (金曜日)

 東レは2020年度から新しい中期経営課題「プロジェクトAP―G 2022」に着手した。中経を通じ連結の業績(IFRS)を19年度の売上収益2兆912億円、事業利益1255億円から22年度にはそれぞれ2兆6千億円、1800億円に引き上げる。

 基本戦略として、成長分野でのグローバルな拡大、競争力強化、経営基盤強化を掲げており、成長分野に位置付けるグリーンイノベーション(GR)事業を拡大するGRプロジェクト、ライフイノベーション(LI)事業を拡大するLIプロジェクトに取り組んでいる。

 GRプロジェクトでは19年度の売上高8201億円(日本基準)を22年度には1兆円(IFRS)に、LIプロジェクトでは19年度の売上高2232億円(日本基準)を22年度で3千億円(IFRS)にそれぞれ引き上げる。

 中経の3カ年で5千億円の設備投資を計画しており、その50%をGRプロジェクトやLIプロジェクトのような成長領域に振り向ける。

〈「&+」/素性が評価され販売量が急増〉

 東レはペットボトル再生ポリエステル「&+」(アンドプラス=写真)による商品開発、企画提案に力を入れている。

 白度やトレーサビリティーにこだわって開発した新素材で、使用済みペットボトルを原料とするものの東レの繊維製造技術と協力企業の異物を除去するフィルタリング技術との融合でバージン原料由来のポリエステルとほぼ同等の白度を実現した。

 本格販売は20年の1月から。20年度は新型コロナウイルス禍で商談が前に進まず「上半期は厳しかった」ものの、白度やトレーサビリティーが評価を集めるに伴い引き合いが急増。21年度は「販売量を昨対2~3倍に伸ばせる」見通しとなった。

 国内外のアスレジャー向けの販売が最も多く、そのほかワイピングクロスなどの生活資材、合成皮革基布、衣料資材などその用途は広範にわたる。

 海外では大手縫い糸メーカーと共にSDGs(持続可能な開発目標)に敏感なスポーツメガブランド向けで新規商流を開拓。日本ではイトーヨーカ堂のプライベートブランドに採用されるなど順調に拡大。大手SPAとの商談にも取り組んでおり近々、その内容が明らかになる。

 部門横断プロジェクトの一環として長繊維事業部が自動車内装材用途の開拓を進めており、電気自動車向けの内装材での採用を目指す。21年度下半期中にスペックインを実現し、「22年度から販売をスタートさせたい」との意欲を示している。

〈23春夏スポーツ/注目集める「エコディアナイロン」〉

 東レは環境配慮型のスポーツ素材群を前面に打ち出し23春夏のスポーツ商戦に臨んでいる。

 白度やトレーサビリティーにこだわって開発したペットボトル再生ポリエステル「&+」や部分バイオ「エコディア」シリーズの販売が好調に推移しており、23春夏に向けては一層の拡販を計画する。

 エコディアでは部分バイオ原料使いの「エコディアナイロン」が注目を集めており、11¥文字(U+3325)¥文字(G3-1005)(T)、22Tという細繊度糸もラインアップする。

 伊アクアフィル社とのコラボレーションにも力を入れており、漁網などからケミカルリサイクルで生産するナイロンの開発を急ぎ「23春夏から本格販売をスタートさせたい」考えだ。

 環境配慮型素材の占める比率をスポーツ全体の30%前後に引き上げており、各方面からの旺盛な引き合いに伴い「この比率は2~3年で急拡大する」と見通している。

 新型コロナウイルス禍で21春夏商戦までは苦戦を強いられたが、21秋冬商戦から欧米向けを中心に販売量が回復基調に転じたという。

 ドレスシャツやジャケット・パンツ向けに販売するニットの販促も重視しており、汗染み防止「フィールドセンサーEX」、ストレッチ「プライムフレックス」による企画提案にも力を入れている。

〈「ウルトラスエード」/環境配慮型を前面に〉

 東レは人工スエード「ウルトラスエード」で環境配慮型素材の開発、企画提案を強化している。エコタイプが全体に占める比率は20年度で60%。21年度で65%前後に拡大し、「早急に100%までもっていきたい」との意欲を示している。

 環境配慮型として、リサイクルポリエステル、部分植物由来ポリエステルに加え、部分植物由来ウレタンも適用した3タイプを構えている。「&+」による新タイプの開発にも取り組み、環境対応のラインアップを拡大しようとしている。

 主力の自動車内装材では、21年度もスバルの「BRZ」、ドイツ・BMWの電気自動車(EV)「iX」などに採用されており、中国EVメーカーからの引き合いが旺盛という。

 自動運転の普及に伴い車内空間のラグジュアリー化を求める要望が強まるとみており、サステイナブルな特性や機能性に加え、ウルトラスエード特有の上質感、ブランド力を打ち出し、自動車内装材向けを伸ばす。

 若手デザイナー支援や産学協同プログラムの展開にも力を入れており、国内外の美術系の学校へウルトラスエードの生地の一部を無償で提供する教育支援活動を行っている。この活動は従来、社内で破棄していた試験反や不要サンプル、端材を提供することで、循環型社会の実現に向けた「リユース」の取り組みにもなっている。

 年産1千万平方メートルに増設後、当初は23年度中のフル操業を見込んでいたが、「22年度のできれば上半期中にフル操業させる」方針。既に次期増設の検討作業にも着手している。

〈ユニフォーム事業/「&+」「エコディア」打ち出す〉

 東レはユニフォーム事業で、21年度も環境、安全、快適をコンセプトに開発した素材群の販促に取り組んでいる。

 部分バイオポリエステル「エコディア」、白度とトレーサビリティーにこだわって開発したペットボトル再生ポリエステル「&+」や抗ウイルス加工「マックスペックV」、リミテッドユース保護服「リブモア」などで拡販を計画する。

 20年度は新型コロナウイルス禍の影響で学生服や白衣向けを除いて厳しい事業環境となった。21年度は全体的に業績が回復基調にあり、ワークウエアの商況もようやく上向いてきた。

 同社は環境、安全、快適を切り口に開発した素材群を前面に打ち出しユニフォーム商戦に臨んでおり、21年度はエコディアの販路をワークウエアや学生衣料にも広げる。

 「&+」はトレーサビリティーの確かさが評価され各用途の顧客からの引き合いが急増しており、織物、ニットで企画した素材群の本格販売を22春夏向けからスタートさせる。

 リブモアでは、下半期に新タイプの発売を計画。20年度は3倍増の販売を達成しており、21年度も好調を維持。「これまでのところ倍増ペースで売れている」と言う。

〈繊維GR・LI事業推進室長兼地球環境事業戦略推進室主幹 小倉 由美子 氏/GR・LIプロジェクトを推進/重要性が増すLCAの観点〉

  ――SDGsを意識した取り組みに力を入れています。

 当社はカーボンニュートラルを2050年で達成することを既に表明しています。今年4月に社長直轄のサステナビリティ委員会が設立されたほか、各工場はチャレンジ30プロジェクトに取り組んでいます。われわれが推進するグリーンイノベーション(GR)事業拡大プロジェクト、ライフイノベーション(LI)事業拡大プロジェクトも合わせてさまざまな取り組みを推進しています。

  ――20年度、GR、LIの進捗(しんちょく)はいかがでしたか。

 新型コロナウイルス禍でブレーキがかかりましたが、課題を再設定しながら、当社は22年度をゴールとする中期経営課題に取り組んでいます。目標に掲げるGRの売上1兆円、LIの3千億円の達成を目指しています。

  ――再生ポリエステル「&+」の販売が好調のようですが。

 大手量販店の機能性インナーに採用されました。紳士服のロードサイド店のドレスシャツ、大手百貨店のパンプスにも入りました。その他副資材や自動車内装材も含めて、国内外で色々な用途やアイテムに広がっています。リサイクル素材全体の販売を25年度で500億円まで伸ばしていきます。

  ――ナイロンでケミカルリサイクルの本格化を検討中と聞いています。

 既に20年くらい前から警察官用雨合羽を回収し、ナイロン原料に戻すケミカルリサイクルに取り組んできました。欧米のアパレルからを中心にナイロン6のケミカルリサイクルを求める要望が強まっています。このため、名古屋事業場にナイロン6のケミカルリサイクル専用の設備を導入し22年度から月産数㌧規模で本格化させます。他社と連携し廃棄された製品を回収する取り組みも検討しています。

  ――防護衣「リブモア」の販売状況は。

 2000、3000、CL、5000のラインアップにこのほど高耐水圧の4000を追加しました。防護服の用途というのは細分化されていて、それぞれにマッチした性能を持たせながらラインアップを増強していくことが課題です。当社のリブモアは他社品に比べ快適性に優れており、販売は着実に伸びています。安全・快適な労働環境に貢献していくため、販促ワークを強化しているところです。

  ――環境に配慮した取り組みの中で特に重視しているのは。

 原料の調達、トレーサビリティーなどいろいろありますが最近、より重要性が増していると感じているのはライフサイクルアセスメント(LCA)です。原料、製造、使用、廃棄に至る全工程の資源消費やGHG排出量などの環境負荷物質排出量をいかに抑えるかに配慮して商品を開発したり、設計したりするという視点も一層、必要になってくると思います。リサイクル素材、バイオマス素材でLCAがどうなっているのか、顧客からの関心が高まってきています。