ウエアラブル事業の広がり/クラボウ/トヨタ自動車/清水建設/JFEプラントエンジ

2022年01月01日 (土曜日)

 コンピューターを体に装着してモニタリングなどを実現するウエアラブル。デジタル技術で社会を変革するDXやあらゆるモノをインターネットでつなぐIoTにもつながるソリューションとして繊維企業の間でも期待が高まる。現在、そのトップを走る製品・システムの一つであるクラボウの「スマートフィット・フォー・ワーク」の現状を追った。

〈幅広い業種で採用拡大/マルチデバイス化が加速/クラボウ「スマートフィット」〉

 クラボウが大阪大学、信州大学、日本気象協会、KDDI、セック、ユニオンツールと共同開発した暑熱リスク管理・体調管理システム「スマートフィット」を採用する企業が順調に増えている。ユーザーの課題解決型ソリューションとして評価が高い。

 スマートフィットの採用企業数は2021年9月末段階で約60社を数える。建設業と製造業が3分の2を占めるが、運輸や電力・ガス、保全・メンテナンス、警備、水産、サービスなど幅広い業種でも採用が進んだ。

 独自アルゴリズムで作業者の状態を客観的に観察・解析、体への負担が自覚されない段階でアラートを出し、熱中症などを未然に防ぐことができるシステムとして有効性が認められた。21年度からユーザーインターフェースを改善し、作業者一覧表からアラートステータスを表示、アラート発生時の対応を現場で入力できるようにした。アラート通知内容も具体的にすることで最適な対応を取りことができる。

 さらに大きな進化が、デバイスごとに専用アルゴリズムを用意してのマルチデバイスプラットフォーム化。ウエア型はクラボウが供給するウエアのほか、東レとNTTテクノクロスの「hitoe」、東洋紡の「COCOMI」の利用が可能になった。イヤークリップ型もミズノの「MiKuHa」が利用できる。

 ウオッチ型も富士通のほか、中継器を使うことでGISupply社やビットフィット社のデバイスも使用できる。将来的にはアップルの「アップルウオッチ」やガーミン社のデバイスも利用できるよう検討している。

 アルゴリズムの精度も向上した。従来、新規利用者はデータの閾(しきい)値を設定するため2週間程度の事前計測が必要だったが、これを2時間程度に短縮した。また、急激な体調変化に対応する予測心拍数アルゴリズムも新たに実装した。

 スマートフィットはアルゴリズム解析・評価システムがクラウドプラットフォーム化されている。このため今後はユーザーが既に使っているシステムでの使用やAPI(異なるプログラムをつなぐインターフェース)連携でユーザーの現場管理システムと柔軟に接続できる仕組みの構築に取り組む。これによりユーザーのDXやIoTとの連携も可能になる。

〈ユーザーレポート〉

 「スマートフィット」導入企業は、それぞれのニーズに応じてシステムの活用を進めている。幾つかの事例を紹介する。

《個々の“変化点”を管理/トヨタ自動車》

 トヨタ自動車も作業現場での熱中症防止は大きな課題として対策を重ねてきた。自動車の生産現場には金属部品の鋳造、運搬、組み立てなど膨大な数の工程があるため、熱中症のリスクも複雑に存在する。「このため作業者個々の体調の“変化点”の管理が重要。スマートフィットはAI(人工知能)による個人学習機能が搭載されているので作業者個々の変化点を見極めることができる」と導入理由を説明する。

 導入によって本人が自覚しない体調変化にも対応でき、熱中症予防で高い効果を上げた。「導入によって仲間を守ることができるという意味で利用者の評価も高い」。同社の作業環境に合わせてカスタマイズされていることも評価されている。

《作業員の意識も変わった/清水建設》

 「建設業にとって熱中症対策は一番の課題。なってしまってからでは遅く、未然に防ぐことが重要」と清水建設は指摘する。同社ではスマートフィットを導入し、作業現場の作業員のデータを現場管理者が一元管理し、アラームが表示された作業員の体調確認をリアルタイムで実施する。

 「作業員さんの意識も変わった。従来は管理者が一方的に声掛けするだけだったが、スマートフィット導入後は、リアクションが良くなった」。今後に関して「建設業は人手不足の問題もあり、作業員の安全を守ることは最重要課題。スマートフィットは、そのための大きな武器になる」と話す。

《装着者で熱中症発生ゼロ/JFEプラントエンジ》

 JFEスチールグループのプラントエンジニアリング会社、JFEプラントエンジ(東京都台東区)は「熱中症発生は作業環境だけでなく、作業者個人の体力や体調に依存する」と指摘する。個人の体力や体調までモニタリングできるスマートフィットを2020年に熱中症リスクのある作業者を対象に先行導入した。

 アラート発生時には作業者の自覚の有無に関係なく水分補給や休憩など対応を取ったところ、スマートフィット装着者での熱中症発生件数がゼロとなるなど高い効果を確認した。「体調変化の自覚がない“隠れ熱中症予備軍”を見つけることができる」と指摘する。21年から導入範囲を拡大させた。