To The Next/旭化成がキュプラ繊維「ベンベルグ」(8)/次代に向けて変わる

2022年03月17日 (木曜日)

 旭化成がキュプラ繊維「ベンベルグ」で90年間貫いてきたのは、取り扱いの難しいベンベルグをいかに生地にして製品に結び付けるかという視点だ。それがチョップ(委託生産加工)制度であり、その思想を受け継いだ川中製造業との協業になる。そしてサプライチェーンを構成する企業と「ウイン・ウイン」の関係を築いているからこそ、世界でシェア0・02%のニッチな繊維でありながら生き残ってきた。

 この10年間でベンベルグの事業構造は大きく変化した。裏地一本足から用途、市場を広げることに成功し、事業ポートフォリオを転換した。前田栄作ベンベルグ事業部長が「当社には簡単に諦めない社風がある」と語るように粘り強い取り組みが花を咲かせた形だ。これは協業する国内外の川中製造業にも共通する。しかし、100周年、そしてその先を見据えると「ベンベルグも不死身ではない。今回の新型コロナウイルス禍で危機を感じた」と言う。それが90周年を機にしたリブランディングにつながった。「進化するためのよいタイミングでもあった」とする。

 進化とは何か。既存ビジネスの高付加価値化に加え、ベンベルグの機能性を生かした非衣料分野の開拓がそれに当たる。「非衣料への参入なくして次の100年はない。真のポートフォリオ転換が必要になる」と言い切る。そのために生分解性や細繊度糸を製造できる特徴を生かした開発を進める。これまでもキュプラ長繊維不織布「ベンリーゼ」、人工腎臓用の中空糸「ハローファイバー」などベンベルグの技術は非衣料に活用された。

 今後は形状にこだわらず、原料を生かし用途に応じた形での供給も含めて開発を強化。ベンリーゼを含め20%にとどまる非衣料比率を40%に高め「いつ起こるか分からないパンデミックに耐えられる事業に変える」と言う。

 その一翼を担うのが1月1日付で新設した事業戦略室になる。同室は将来をにらんだ戦略を立案する経営企画室のような役割を担う新組織だ。事業推進担当、DX推進担当で構成し、事業推進担当は今回のリブランディングと同時に非衣料の探索も進める。DX推進担当は工場のDX化に取り組む。今後、人材の確保が難しくなる中で「事業継続には工場をスマートファクトリー化する必要がある」として、デジタル技術で企業を変革するDXを取り入れ、定型業務の標準化を図る。営業も同様だ。

 さらに事業ポートフォリオを転換し、100周年、そして次代につなげていく。ベンベルグはこれから大きく変わる。

(おわり)