特集 アジアの繊維産業(6)/タイ/ポストコロナに向けた胎動/アジアの日系企業に聞く/旭化成/蝶理/クラボウ/新内外綿/東海染工

2022年03月30日 (水曜日)

 新型コロナウイルス禍によってタイ経済は2021年も大きな打撃を受けた。国内経済の回復が遅れており、繊維産業も厳しい事業環境が続いている。ただ、ここに来て経済正常化への動きが加速しており、今後の回復への期待が高まる。自動車を中心とした産業資材分野はいち早く回復へと向かっている。

〈回復への期待高まる/自動車中心に産資は堅調〉

 21年から22年にかけてはタイでも新型コロナウイルスのデルタ株とオミクロン株が猛威を振るい、感染者が急拡大した。このため行動規制による経済停滞や人手不足が深刻化し、工場の稼働に苦慮するケースもあった。

 経済への打撃も深刻だ。タイはGDPに占める観光業の割合も高いため、新型コロナ禍による国内経済の悪化が進む。タイ国家経済社会開発委員会によると21年の実質GDP成長率は、わずかプラス1・6%。20年はマイナス6・2%と大幅なマイナス成長となっていただけに、他の東南アジア諸国と比べても著しく回復が遅れている。国内経済の悪化によって内需が大きく減退した。このため繊維企業も内需向けは低迷が続いている。

 ただ、ここに来てタイ当局も行動規制を緩和し、経済正常化に向けた動きを加速させている。観光目的での入国なども再開されており、徐々にだが経済活動が戻りつつある。当局も22年の実質GDP成長率はプラス4・1%を予想する。内需が本格的に回復するにはまだ時間がかかるとの見方は強いものの、それでも繊維企業にとっては先行きに対する期待感が高まる。

 衣料用途と対照的に、自動車を中心とした産業資材は順調に回復が進む。世界的な半導体不足による自動車生産台数減少など一時的な下振れ要因はあるものの、今年も引き続き堅調な需要が続くとの見方は多い。こちらは物流停滞などサプライチェーンの不安定化に対してどれだけ対応できるかが今後の課題となりそうだ。

〈タイ旭化成スパンデックス/衣料用途高度化と衛材に重点〉

 スパンデックス製造販売のタイ旭化成スパンデックスは、これまで実行してきた衣料用途の高度化と衛材用途への重点提案に取り組む。

 21年度は受注も堅調に推移し、工場もフル稼働となった。ただ、原料価格や物流費が想定以上に高騰し、利益面を圧迫している。こうした中、今後も衣料用途の生産・販売高度化と衛材ビジネスの拡大という基本戦略を推進する。

 再生可能エネルギー100%化を目指す国際協働イニシアチブ「RE100」に旭化成グループとして参画している。工場での廃棄物削減とリサイクル糸の拡大を進めており、カーボンオフセットのために再生可能エネルギー認証「I―REC」の活用も始まった。タイ国内のCSR活動認証「CSR―DIW」も取得した。地道な活動を通じて従業員の意識を高め、地域社会への貢献を目指す。

〈旭化成アドバンス〈タイランド〉/得意分野の競争力高める〉

 旭化成アドバンスのタイ子会社である旭化成アドバンス〈タイランド〉は、エアバッグ包材やカーシート向け撚糸など資材用途、カバーリング糸やテキスタイルコンバーティングなどアパレル用途ともに得意分野の競争力を高める。

 21年度は自動車向けを中心に資材関連の受注が回復し、協力工場を含む稼働も新型コロナウイルス禍前の水準まで回復した。このため増収増益で推移しているが、19年度水準までは回復していない。アパレル用途は日本向けが中心のため勢いがない。

 それでも今後は各国ともに“ウイズ・コロナ”政策に転じることから経済も回復に向かうとみる。その中で生まれる商機を確実に捉えるために、得意分野の競争力を一段と高める。

 旭化成グループとして、再生可能エネルギー100%化を目指す国際協働イニシアチブ「RE100」にコミットメントしている。リサイクル商材の提案やカーボンオフセットのために、再生可能エネルギー認証「I―REC」の活用も計画する。

〈旭化成スパンボンドタイ/3号機が今月本格稼働〉

 旭化成のタイ子会社で、ポリプロピレンスパンボンド不織布(SB)製造の旭化成スパンボンドタイ(AKST)は今月、3号機(年産1万5千トン)を本格稼働する。

 新型コロナウイルス禍で半年強遅れたが、新設備によりソフト性を追求したタイプのサンプルワークは着実に進む。今後も品質、安定供給をベースに、同じ紙おむつ向けが主体の他社のSMS(SBとメルトブロー不織布との複合品)とは異なる点を訴求しながらソフト品、親水加工品の新タイプを投入。商品内容を充実することで激しい競争下での差別化を図り、成長が見込める東南アジアでの販売増に結び付ける。

 21年は販売量、損益ともほぼ前年並みを維持したが、22年は原燃料、物流費が急騰する。このためコスト上昇分の価格転嫁も重点課題に挙げる。

〈タイ蝶理/スポーツ、ユニフォーム強化〉

 蝶理のタイ子会社であるタイ蝶理は需要が低迷した衣料用テキスタイルの開発・提案を強化する。独自性のある素材や、これまで取り扱いが少なかった天然繊維、短繊維使いの拡充にも取り組む。

 21年度はカーシート原糸を主力とする原料販売が自動車生産台数増加によって堅調に推移した。22年も自動車用途を中心とした原料販売は増加が見込めるという。ただ、衣料用テキスタイルは新型コロナウイルス禍による需要減退で勢いがない。中東民族衣装用織物の輸出も昨年は原油価格低迷もあって振るわなかった。

 このため22年度は衣料用テキスタイルをてこ入れする。特にスポーツやユニフォームが重点用途となる。ストレッチ性が特徴のポリエステル素材「テックスブリッド」など独自性のある商品の提案に力を入れる。

 STX(旧スミテックス・インターナショナル)が蝶理グループに加わったことも強みとする。STXが得意とする天然繊維や短繊維使いの取り扱いを拡充することを検討している。中東民族衣装用織物の輸出も営業活動を強化し、事業の再構築を進める。

〈クラボウグループ/共創ビジネス構築へ〉

 紡織のタイ・クラボウ、染色加工のタイ・テキスタイル・デベロップメント・アンド・フィニッシング(TTDF)で構成するクラボウグループは共創ビジネスの構築などに取り組み、業績向上を目指す。

 世界的に綿糸・綿織物の市況が回復基調にあることから2021年度はタイ・クラボウも販売が好調に推移し、フル稼働を維持した。ただ、TTDFは燃料、染料・薬剤などの高騰で利益面が圧迫された。

 新型コロナウイルス禍収束後を見据えて開発力と生産効率の強化に取り組み、新市場開拓や人事育成に取り組む・SDGs(持続可能な開発目標)に向けた取り組みも重視し、国際的認証の取得や共創ビジネスによる持続可能なビジネスモデルの構築を目指す。

 資源の有効活用や二酸化炭素排出量削減などカーボンニュートラルに向けた取り組みも強化する。

〈新内外綿のJPボスコ/廃棄繊維アップサイクル〉

 新内外綿の子会社でタイ繊維商社のJPボスコが、裁断くずなどの廃棄繊維を原料の一部として糸を作る事業で取り組み先を増やしている。

 これまで廃材を原料に“アップリサイクル糸”を作り最終的には衣料品や繊維雑貨になるケースが多かったが、最近では糸になる前のわたの段階で繊維原料、樹脂、不織布などのメーカーに供給するという新たな商流づくりにも取り組む。

 廃棄繊維を反毛して、再び活路ある原料にするこの事業の原点は、新内外綿が20年に日本でスタートした繊維アップサイクルシステム「彩生」だ。ボスコはこの仕組みを2年がかりで、タイの協力工場でも可能にし、今年から顧客の開拓に本腰を入れている。

 環境への意識の高まりとともに、アジアに繊維製品の製造拠点を持つ日系企業のニーズが高まっており、既にインナー、靴下、デニムを扱うアパレルや大手流通で実績がある。タオル、作業服といった製品を作る企業へもこの繊維アップサイクルの提案を始める。

〈タイ東海/海外販売を再構築〉

 東海染工グループの染工場であるトーカイ・ダイイング(タイランド)(タイ東海)は、海外販売の再構築とタイ国内での新規取引先開拓に取り組み、増収増益を目指す。

 21年度は新型コロナ感染拡大の影響で9月までは稼働率も低下していたが、10月以降は受注が徐々に回復し、現在はフル稼働を維持している。ただ、タイ経済低迷による内需不振や輸出向け受注の一巡もあって受注量は減少した。原材料やエネルギー価格の高騰が利益を圧迫している。

 ここに来てタイ政府も行動規制緩和など経済正常化に向けて動きだした。こうした流れを受けて、タイ国内の新規取引先開拓によるシェア拡大と、海外市場への販売再構築に取り組む。そのために新商品開発に力を入れる。コスト上昇が続いていることから、生産性向上などによるコスト削減を進める。