特集 アジアの繊維産業(8)/ベトナム/ポストコロナに向けた胎動/アジアの日系企業に聞く/豊島ベトナム

2022年03月30日 (水曜日)

 ベトナムは、新型コロナウイルス感染者数が急拡大した2021年も経済成長を遂げた。20年はASEAN主要6カ国(シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、インドネシア)の中で、“新型コロナ対応の優等生”とされたベトナムのみが実質GDPのプラス成長を維持していたが、21年は全ての国がプラス成長に転じた。ベトナムの20年は2・9%で21年は2・6%。成長率は鈍化したが、夏から秋にかけて厳しいロックダウン(都市封鎖)が敷かれ、工場の多くも操業停止を余儀なくされたことを勘案すれば、この成長は前向きに捉えることができる。ウイズコロナ政策も力強くスタートを切った。

〈コスト高、ワーカー不足に懸念〉

 日本や韓国など13カ国を対象に、ビザなしの入国が再開され入国後の隔離措置も大幅に緩和された。実に2年ぶりの“解放”である。原材料費、人件費、物流費の高騰という“三重苦”にさらされてはいるものの、ウイズコロナ政策に伴い、ベトナム繊維産業のさらなる成長が確実視されている。

 21年の在ベトナム日系繊維企業の業績はまだらだった。大幅な増収増益を果たしたところもあれば、ロックダウンにより減収減益を余儀なくされたところもあった。ただ、ロックダウンはあったもののその影響は限定的で、一年を通して見れば引き続き堅調な年だったと言える。

 国営ベトナム繊維・衣料グループ(ビナテックス)とパートナーシップを組む伊藤忠商事のプロミネント〈ベトナム〉は、「昨年は当社もロックダウンの影響を受けたが、サステイナブル関連商材の好調もあり、先行きは悪くない」とみている。

 実績を積む内販についても、ウイズコロナ政策によって衣料品消費の急拡大という現象が起きていることを受け、今後の拡大に自信を示す。

 服飾資材の島田商事ベトナムも、「ASEANの中心はベトナムであり、右肩上がりで同国繊維産業が拡大していくのは間違いない」とさらなる成長を確実視する。このほど立ち上げた製紐(せいちゅう)の自社工場も活用し、国の成長に連動して業績拡大を狙う。

 同じく服飾資材の清原ベトナムも、「引き続き縫製品のベトナム移管は進む」とし、現地製資材の調達力やホーチミン、ハノイの拠点を活用した機動力を磨き、サービス向上、業績拡大を目指す。第三国への輸出拡大にも積極的に取り組む。

 テイジンフロンティア〈ベトナム〉は今後の同国情勢について、「ウイズコロナ政策により経済は早期回復する」とし、今後の課題にインドネシア、ミャンマーなどと連携した“ワン・アジア”の生産背景の確立を日本主導で行っていく必要性を挙げる。コスト高については、北部、中部の縫製工場への移管を進めていく。

 ヤギベトナムは、「ワーカーの減少など緊張感のある状況は続く」とみる。対日の低迷はしばらく続くとし、内販や第三国向けの開拓を急ぐ。

 トーレ・インターナショナル・ベトナムは「コロナ再拡大による減速は懸念材料」とする。品質管理強化や商品高度化などサプライチェーンとの取り組みを強めるとともに、各種経済連携協定を活用したオペレーションの強化に取り組んでいく。

 協力工場で糸を生産し、販売するシキボウ・ベトナムは、「急速に経済は回復していく」とし、コスト高を受けた価格転嫁や環境配慮型商品の販売拡大を狙う。

〈豊島ベトナム/小口生産と生産地最適化が課題〉

 ベトナムで糸、生地販売と縫製品生産、OEM/ODMを手掛ける豊島ベトナムの21年度業績は、素材部、製品部とも前期比減収減益だった。ロックダウンによる工場稼働率の大幅な低下が影響した。

 ただ、自社縫製工場、各協力工場の受注状況はここに来て回復しており、昨年に比べて増加傾向が顕著になっている。オーガニックコットンのオリジナル素材「トゥルーコットン」を中心にSDGs(持続可能な開発目標)関連の対日製品や再生ポリエステル糸の販売が拡大している。

 今後の課題に位置付けるのは、織物の小ロット生産やRCEP(地域的な包括的経済連携)協定を活用した原材料、生産地の最適化。綿糸を中心とした原材料の高騰、縫製工場のワーカー不足による人件費の上昇も懸念材料だが、「生産コストに影響しないように給与体系を整えつつ、ワーカー不足に陥らないよう対処していく」考えだ。