特集 サマーウエアリング(1)/紳士スーツが回復基調、期待感も/オンワード樫山/エクスプローラーズトーキョー/三陽商会/オッジ・インターナショナル

2022年04月14日 (木曜日)

 仕入れの抑制や型数の絞り込みを推し進めていた大手アパレルだが、想定以上に紳士のスーツ需要が回復してきた。それもビジネスやセレモニー用といった、これまでの“ステイホーム”を意識したMDとは真逆の動きになっている。紳士服ブランド「タケオキクチ」を販売するエクスプローラーズトーキョーでは「テレワークから通勤需要へ、1年前の消費マインドから転換している」と分析する。

 紳士服ブランド「ダーバン」を展開するオッジ・インターナショナルも、ビジネス需要に加え、エグゼクティブ向けのパターンオーダー(PO)が堅調だ。特に固定客のPOが増え始め、この盛夏シーズンも「期待している。クールビズでも、スーツを買い替えるユーザーが必ず一定数いる」としている。

 消費者心理を読むのは難しい。一昨年から紳士服マーケットにワンマイルウエアや部屋着があふれ、その反動でスーツが売れたこともあった。三陽商会の紳士服「ポール・スチュアート」では、昨春にスーツが売れたものの、まん延防止等重点措置の発令・延長により、再び低調になったこともある。

 それでも「在宅勤務が主流になっても、スーツ需要があることが分かった。この経験を今後も生かせる」(三陽商会)と話す。ただ、ビジネススーツの代替となるセットアップやカジュアルウエアの開発も進んでいる。家庭洗濯が可能なセットアップやジャージー素材のジャケットなどが代表的なアイテムになる。

 カジュアルウエアで個性を打ち出すことも必須になってきた。各社ともジャケットスタイルに合わせるTシャツやドレスシャツ、サマーニットを増やす方針で、色柄でバリエーションを持たせている。その一方、品番数は新型コロナウイルス禍前の2019年の水準に戻っていない。あくまで品番数の増加には慎重な構えだ。

〈オンワード樫山「五大陸」/柔らかいジャケット拡充/オフィスカジュアルを意識〉

 オンワード樫山の紳士服ブランド「五大陸」は、リラックス感のあるノルマンディーカーディガンジャケットや、清涼感のあるセットアップを投入した。今春夏シーズンの強化アイテムとして、気軽に羽織れるトップス類を提案。強みのあるシャープな雰囲気のスーツやジャケットに加え、オフィスカジュアルを意識した商品も拡充する。

 ノルマンディーカーディガンジャケットは、フレンチリネン素材の柔らかい風合いと、吸水性に優れた特徴を併せ持っている。芯地などを極力少なくすることで、カーディガンのように軽く着用できる。

 シワになりにくく、バッグに入れて持ち運びもできる。リサイクル原料を使ったポリエステルを混紡させ、家庭洗濯が可能。適度なシェイプですっきりとしたシルエットで仕上げた。生地は、尾州産地でジャージーを専門に生産する工場で編んだ。価格は3万8500円。

 セットアップは、高通気性素材「ドットエアー」を使用し、パッドや裏地を省いたミニマルな1枚仕立てになっている。パターンメークと縫製で立体的なシルエットを構築し、ストレッチ性や撥水(はっすい)、ウオッシャブルといった機能を盛り込んだ。

 特殊原糸と織り組織により、通気性と軽量感を追求。ビジネスからテレワークまで幅広くカバーできる。価格はジャケット4万7300円、パンツ2万5300円。

〈エクスプローラーズトーキョー「タケオキクチ」/ビジネス需要取り込む/ジャケットにも期待〉

 ワールドグループのエクスプローラーズトーキョー(東京都渋谷区)が展開する紳士服ブランド「タケオキクチ」は、スーツ需要の回復に手応えを得ている。今年2~3月に実施したスーツフェアの売り上げが計画を上回ったほか、パターンオーダー(PO)も堅調に推移している。

 同社の藤原照佳開発デザイナーは「新型コロナウイルス禍前の2019年の水準に近づいてきた。6万9千~7万9千円のスーツの売れ行きが好調だ」と説明した。スーツでは遊び心のある柄やカラーが動いたほか、ミドル層ではセレモニー用のスーツも回復している。

 今回のスーツフェアは計画の2桁%増で、一部では欠品も出ていたと言う。在宅勤務の定着やマーケットのカジュアル化といった周辺環境の変化はあるものの、潜在的なスーツ需要に「想定外だった」と藤原氏。

 盛夏企画では、ドライタッチ素材「アヴァンドライ」を採用したジャケットやシャツブルゾン、尾州産地から調達したジャージー素材でセットアップを投入する。

 ジャケットやセットアップは、ウオッシャブルや吸湿速乾、ストレッチ性といった機能を盛り込む。若年層の間で、ジャケットがトレンドに浮上していることから「インナーのTシャツやドレスシャツのバリエーションも増やす」と話す。

〈三陽商会「ポール・スチュアート」/スーツとカジュアルの両にらみ/路面店での販促を再開〉

 三陽商会は、市場のカジュアル化を意識した紳士服を強化する。「ポール・スチュアート」では、リラックス感のあるセットアップやⅤネックのニットウエアを拡充。ミドル層の新規需要を見越した商品を増やす。

 ラペルを付けたニットウエアやラウンジスーツ(ワンマイルウエア)、リモートワークに最適なセットアップ、アジャスターでウエストの締め付けを軽減したパンツなどを投入する。ストレッチ素材のドレスTシャツや、柄物のシャツなども展開する。

 一方で、昨春夏のパターンオーダー(PO)の注文が前期比30%増と好調だったことから、今季も「さらにセレモニーや(ビジネス用)スーツが回復する」と読む。ブランドのシンボルである、ブルーグレー調の生地を使ったクラシックなスーツや軽量なサマースーツをそろえる。

 店頭での販促も実施している。新型コロナウイルス禍でリアル形式の販促活動ができない状態だったが、青山本店(東京都港区)を軸にイベントを再開。3月下旬には、同店でスーツのリメーク、リフォームイベントを行った。顧客が過去の商品を持ち込み、巧みにリメークする提案に反響があった。

 19年比で約7割の品番数に絞っている。在庫管理を徹底しているが、売れ筋や強化商品でQR(クイックレスポンス)を行う体制を整えた。

〈オッジ・インターナショナル「ダーバン」/PO、1.5倍の販売見込む/カジュアル服でプラスオン〉

 小泉グループのオッジ・インターナショナルが展開する紳士服ブランド「ダーバン」は、強みのある盛夏用素材「モンスーン」を使ったパターンオーダー(PO)を拡充する。同社の榎本亮平マーチャンダイザーによると「用意したモンスーンの生地は前年の盛夏シーズンと比較し、1・5倍程度になる」と話す。

 昨年10月からビジネスマンのスーツ需要が戻り始め、さらに昨春から強化しているセットアップや軽衣料も堅調に推移している。POで拡充するモンスーンは、日本特有の高温多湿な気候を快適に過ごすために開発した生地で、天然素材を採用した上品な風合いも特徴になっている。

 スーツ、ジャケットなどが固定客に支持されているほか、この盛夏シーズンでは約3割を占めるカジュアル商材でセット買いを促す。「スーツで売り上げを維持しながら、カジュアル商材でプラスオンしたい。ポロシャツやスラックスも充実させる」とした。

 外出自粛で体形が変化し、スーツやスラックスを改めて購入する男性も増え、今後もテレワーク時に着用する「品の良いカジュアルウエアが求められる」と読む。横浜そごう店は中心顧客よりも若い30~40代を取り込み、機能素材を採用したセットアップなどが売れている。価格は前年の盛夏物と比べ、同等程度になる。