春季総合特集Ⅱ(12)/トップインタビュー/ダイワボウレーヨン/原料の特徴・機能を強みに/社長 福嶋 一成 氏/サステ+機能で用途開拓

2022年04月22日 (金曜日)

 「新型コロナウイルス禍を経て、市場構造も変わった。原料の特徴や機能が強みになる時代になった」――ダイワボウレーヨンの福嶋一成社長は指摘する。特にレーヨン短繊維はサステイナブル素材として世界的に注目が高まった。国際的なリサイクル技術開発にも参画し、海外でも高い評価を得た。引き続きサステイナビリティーと機能性を重視した取り組みを進める。

  ――ウイズコロナ時代の成長の要件は何だと考えますか。

 新型コロナ禍が始まった際、アパレル需要は将来的に半減するかもしれないと危惧していたのですが、現実にそれに近い状況となりつつあります。サステイナビリティーへの要求が強まったことで、繊維産業が前提としてきた大量生産・大量廃棄が問題とされるようになり、今後はITの活用などで無駄な供給を減らす動きが強まるでしょう。消費者の間でも良いモノを長期間着用する傾向も強まりつつあります。そうなると、小ロット化も一段と進むでしょう。そこで最もダメージを受けるのは当社のような原料メーカーです。

 一方でインターネット通販などが拡大したことで機能性の訴求はやりやすくなるという側面があります。サステイナビリティーへの要求も一段と高まりました。原料の特徴・機能を強みとして、機能性とサステイナビリティーに焦点を当てた商品に特化する必要がますます高まることになります。また、不織布は素材代替も含めて需要が拡大しており、用途開発も進んでいます。ここも狙い目となるでしょう。

  ――2021年度(22年3月期)を振り返ると。

 原燃料高によるコストアップと採算悪化に苦しんだ1年でした。なんとか乗り越えることができたのは、価格転嫁を理解していただいた取引先のおかげです。10年以上かけて取り組んできた差別化品開発と市場開拓の成果が出ていることも大きかった。防炎レーヨンは米国市場で合繊代替やガラス繊維減量のため需要が増加しており、輸出が拡大しました。撥水(はっすい)レーヨン「エコリペラス」、海水中生分解性を確認した「エコロナ」など差別化された機能レーヨンへの引き合いも増えています。

 今後、紡績用はリサイクルレーヨンや機能わたが基本となります。欧州を中心に使い捨てプラスチックへの規制が強化される流れもあり、サステイナブル素材としてレーヨンへの注目が一段と高まりました。不織布用途でも新型コロナ禍による除菌シート向けなど特需こそ一服しましたが、底堅い需要があり、引き続き重点分野となります。

  ――22年度の重点戦略は。

 原燃料高に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻の影響など懸念材料も多いですが、サステイナビリティーと機能性に焦点を当てた商品や、不織布用途に力を入れる戦略は変わりません。H&M財団と香港繊維アパレル研究所(HKRITA)によるリサイクル技術開発に参画し、使用済みポリエステル・綿(EC)混製品から分離・回収したコットンパウダーをレーヨンに練り込む技術も確立しました。リサイクルコットンパウダー練り込みレーヨンをHKRITAと「RDセル」として商標登録を共同申請しました。3月にスイス・ジュネーブで開催された世界最大の発明品見本市「ジュネーブ国際発明展」に出品したところ、銀賞を受賞するなど高い評価を得ています。

 使用済みデニムなど廃棄繊維をリサイクルしてパルプを製造しているスウェーデンのリニューセル社とも原料供給に関するLOI(基本合意書)を締結しました。これによりリサイクルレーヨン「リコビス」の量産が可能になります。

 不織布は除菌シート向け需要が一服していますから、新しい用途開発に大和紡績と連携して取り組みます。特に生分解性を前面に打ち出すことで、樹脂・フィルム代替として用途開拓を狙っています。

 二酸化炭素排出量の削減も重要な課題。カーボンオフセット制度を導入して製造したレーヨンの出荷も始まりました。今後はカーボンニュートラル原料の使用を拡大することも検討しています。エネルギー転換などで実際の二酸化炭素排出量削減のための具体的な計画も作ります。

〈春を感じる時/春のために冬を我慢するのが人生〉

 欧州駐在経験のある福嶋さんによると、欧州の春の訪れは遅く、イースターの時期までずっと天気の悪い日が続き、それこそ冬を我慢するだけだとか。それだけに、やがて球根植物の花が開き、ミモザが一気に咲きだす春の高揚感は忘れられないのだとか。「春の訪れのために冬を我慢するのが人生か。新型コロナ禍で2年間も我慢しているのだから、今年こそ一気に春を迎えたい」というのは偽らざる実感だろう。

〈略歴〉

 ふくしま・かずなり 1982年大和紡績(現ダイワボウホールディングス)入社。2013年ダイワボウレーヨン専務、16年大和紡績取締役兼ダイワボウレーヨン社長、17年6月から20年3月までダイワボウホールディングス執行役員兼務。21年4月から大和紡績取締役合繊事業統括兼合繊事業本部長を兼務。