診 先高?先安?

2024年04月19日 (金曜日)

〈ポリエステル長繊維/勢い欠く展開/自動車用途は回復に遅れ」

 ポリエステル長繊維の荷動きは盛り上がりを欠く展開が続く。特に資材用途は自動車生産が一部停止した影響が長引いている。衣料用途もスポーツ分野などの調整が続いており、4月以降もしばらくは我慢の展開が続きそうだ。

 1~3月は年初に能登半島地震が発生し、一時的に糸の荷動きが停滞したことに加え、自動車メーカーの不正発覚による生産停止が市況に大きな影響を及ぼした。カーシートなど自動車関連用途の需要が大きく減退した。

 衣料用途も勢いがない。スポーツ・アウトドア向けは欧米市場での流通在庫の調整が続いており、特に欧州市場の回復が遅れている。ユニフォームも国内での在庫調整局面にある。

 盛り上がりのなさは統計からもうかがえる。日本化学繊維協会のまとめによると、ポリエステル長繊維の生産量は1月が5698トン(前年同月比30・0%減)、2月が6260トン(同5・3%減)と大きく減少した。

 4月以降に関しても楽観論は少ない。当初、自動車関連用途は回復に向かうとみられていたが、自動車メーカーからの発注内示が想定以上に低水準にとどまっているもようで、生産停止の影響が尾を引いているようだ。自動車関連用途の正常化は7月以降にまでずれ込むといった見方さえ出てきた。ただ、自動車以外の資材用途は比較的堅調を見込む。

 衣料用途はスポーツ分野で米国が回復に向かうものの欧州は正常化にまだ時間がかかるとの見方が多い。一方、ユニフォーム分野は徐々に在庫整理が進むことが期待される。

 総じて好材料が少ない中でしばらくは我慢の展開が続くことになりそうだ。

〈ポリエステル短繊維/車両向けいぜん低調/紡績用途は堅調〉

 ポリエステル短繊維の1~3月の荷動きは不織布用途で車両向けが大きく落ち込んだ。自動車メーカーの一部生産停止の影響が大きい。それ以外の用途は比較的堅調に推移しているだけに、引き続き車両向けの動向が荷動き全体の勢いを左右する状況が続いている。

 不織布用途は寝装向けの需要低迷が続いているものの生活雑貨やメディカル向けはほぼ想定通りの荷動きとなっており、特段に市況が悪化しているような状況ではない。ただ、ウエートが大きい車両向けが大きく落ち込んだ。自動車メーカーの不正発覚による一時生産停止の影響が大きい。

 一方、紡績用途は昨年末までの低調から回復傾向となり、比較的堅調に推移した。既に国内で生産される紡績糸は特殊品への特化が進んでおり、一定の底堅い需要があるためだ。また、全国的に学生服が詰め襟・セーラー服からブレザー・スーツ型に変更する動きが続いており、ウール・ポリエステル混紡糸の需要が堅調なことも紡績用途を下支えする。

 ただ、ポリエステル短繊維に占める車両向け不織布用途のウエートは大きく、生産面にも影響が及ぶ。日本化学繊維協会のまとめによるとポリエステル短繊維の生産量は1月が5639トン(前年同月比8・9%減)、2月は5405トン(同2・8%増)と低水準にとどまる。

 4月以降の見通しも楽観論は少ない。車両向け不織布の需要が回復しない限り本格的な市況好転は見込めない中、自動車メーカーの発注内示が低水準にとどまっているもよう。このため需要回復にはもうしばらく時間がかかりそうだ。引き続き自動車関連需要が市況を左右する展開が続くことになる。

〈綿織物/サステで作る量減少/今後も需要盛り上がり欠く〉

 綿織物の需要は低迷が続いている。サステイナビリティーの流れが加速していることから衣料品をはじめ、モノを作る量が全体的に減っていることが要因とみられる。今後も需要が盛り上がる気配は見られず、厳しい状況が継続しそうだ。

 ある商社によると、切り売り向けは相変わらず苦戦を強いられている。新型コロナウイルス禍によるイエナカ需要で一時は好調だったが、ここ数年は芳しくなく、「浮上する気配もない」(商社)と続ける。

 寝装向けも動きは弱い。快眠などの睡眠市場の注目度は高まっているものの、従来品への好影響はほぼない。24春夏の衣料向けも、暖冬で秋冬物の販売が振るわなかったことから、アパレルなどが慎重になっている。

 需要の低迷は生産にも影響する。商社の話では、中国など海外工場の紡績や織布スペースは空きが目立つと言う。「本当に仕事がないと聞く。悪い中でもさらに悪化しているようだ」と語る。

 低迷の要因はこれまでの大量生産・大量消費というビジネスから転換を迎えているためだ。必然的にモノを生産する量は減るため、それらに使われる糸や織物の需要も減退する。特に衣料品ではそうした傾向が顕著と言える。

 こうした状況は世界的な潮流であり、今後も継続するため、綿織物の需要が回復する要素は見当たらない。時代背景に合わせたビジネスが求められる。

 一方で、相場はニューヨーク綿花が一時、1ポンド当たり100セント台を付けた。実需ではなく投機による上昇とみられる。その後は投機筋が利益確定売りを進めたため下落し、直近では80セント台で推移する。

〈アクリル短繊維/中国市場の低迷続く/インナー用途は回復傾向〉

 アクリル短繊維の1~3月の荷動きは中国向けの低迷が続いている一方で、国内は比較的堅調に推移した。特に衣料用途はインナー用途などが回復傾向となっている。

 中国向けはアンチダンピング課税のため既に特定の需要家への販売に特化されているが、ここに来て中国経済の低迷の影響が及んでいる。ボア・ハイパイル用途はポリエステルによる代替が進み微々たる需要になっており、比較的需要が残っていたインナー用途も厳しい市況となった。ただ、3月に入ると中国で気温が低下したこともあり店頭在庫がやや消化されたことが数少ない好材料となる。

 一方、国内はインナー、セーター、レッグ、手芸用途で一定の需要が底堅く残っている。SPA向けなども例年並みで推移している。また、ブレーキ・クラッチ材の添加材やフィルターなど資材用途は堅調に推移している。

 今後の見通しとして、中国でのインナー用途はやや回復傾向になるとの期待が高まっている。国内は現在の状態が継続するとの見方が強い。また、三菱ケミカルグループが昨年3月でアクリル短繊維の生産・販売から撤退したことで、その代替需要がここに来ていよいよ本格化しているのも、残るアクリル繊維メーカーにとっては好材料となる。

 一方、中国向け全体の本格的な回復にはまだ時間が必要になりそうだ。ポリエステル繊維など他素材との競争でアクリル繊維の需要自体が減少しているという根本問題も残る。当面は中国以外の海外市場と資材用途の開拓で需要を掘り起こすことが一段と重要になっている。