クラレなど産資分野に注力
1998年10月19日 (月曜日)
「昼あんどん」-合繊メーカーの産業資材部門に籍を置く人たちは自からの立場をそう表現する。衣料分野が好調な時は目立たないがひとたびそれが悪くなると産業資材が安定感を際立たせ光彩を放ち始めるからだ。いま、その「昼あんどん」が輝きを増している。景気低迷の影響は衣料同様に深刻だが、一方で環境などを切り口にした新規ビジネスが生み出されつつある。産業資材は「時間はかかるが仕掛ければ必ず実る」(クラレ)世界。その潜在需要は計り知れない。
合繊メーカーの産業資材部門は、現在「環境」をテーマに商品開発、用途開拓に取り組んでいる。「環境は産業資材ビジネスにとって大きなテーマ」(東レ)、「環境にニーズあり」(東洋紡)などと各社がその有望性を口にする。環境といってもペットボトルなどのリサイクル事業とは違う。有害物質の使用禁止や環境保護のための法規制強化を背景に新規ビジネスの創造を狙うものだ。環境問題をいかに新規ビジネスに取り込むかがポイントだ。したがって、環境に対する意識や姿勢は衣料部門の人間とは一味も二味も違う。
すでに環境ビジネスとして確立されている事業もある。アスベスト(石綿)代替のビニロンがそれで、クラレ、ユニチカのビニロン事業の基盤になっている。
ビニロンの生産能力はクラレが年産35,000トン(「クラロンK―Ⅱ」除く)、ユニチカが同5,500トンだが、クラレは生産量の約40%、ユニチカは同じく約50%を、アスベスト代替を中心とするセメント補強用(FRC)に投入している。
アスベスト代替のビニロン販売は欧州向けの輸出が主力。国内ではアスベストの使用は建材業界の自主規制にとどまっているが、欧州では使用禁止が法律で定められている。
クラレによると、80年にはドイツ、オーストリア、スイス、北欧諸国が、93年にはオランダ、94年にはイタリア、97年にはフランス、ハンガリーが、いずれもアスベストの使用を法律で禁止している。
99年にはポーランド、2000年にはベルギーも法制化する予定で、このほか英国、アイルランド、中南米諸国でも規制強化の動きにあるという。
こうした世界規模での規制強化を背景にアスベストに代わるビニロンの需要は増加し続けており、クラレ、ユニチカの両社は供給に苦慮しているほどだ。
アスベスト代替ビニロンは、いまのところ環境ビジネスとしては突出して見えるが、細かいながらも環境関連のビジネスは見えない部分で芽を吹き始めている。
国内でも、ダイオキシン排出で大揺れの都市ゴミ焼却場に向けるフィルターバグ(ろ過布)や、産業廃棄物処理場の遮水シートなどは、法規制が強化される中で新規需要につながってきている。排気ガスを出さない電気自動車の電池セパレーターにも繊維資材が使われている。
こうした環境などをテーマにする新規分野だけではなく、「伝統分野でも新たなビジネスを掘り起こすことができる」(クラレ)と言われている。
大きな需要分野である自動車、建設の二大産業の低迷の影響は決して小さくないが、例えば自動車資材でもエアバッグは装着率のアップ、部位の拡大によって拡大基調をたどっている。
「環境問題をはじめ、時代の変化に対応しうる商品を打ち出す」(東レ)ことによって、すそ野を広げることができるのも産業資材の大きな強みである。少し視点を広げさえすれば、繊維業界もまだまだ捨てたものではない。