検査機関/業務多角化進む
2007年02月26日 (月曜日)
安全基準 厳格適用に対応
【上海=於保佑輔】在中国の日系検査機関は、徐々に業務内容を拡大し、日本での検査体制とほぼ同じ体制を整えつつある。他国に比べ繊維製品の安全基準値が厳しいと言われる中国に対し、今後検査機関の役割はますます重要になってくる。既存の検査だけでなく、多様なサービスで中国事業の拡大を進める。
ここ数年、各試験機関は日系企業の中国進出に合わせ、中国での拠点を増やしてきた。日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は深せん試験センターをオープン、日本紡績検査協会(ボーケン)は上海市内で浦東だけでなく、日系企業の多い虹橋地区にも拠点を設け、サービス性を向上。日本染色検査協会(ニッセンケン)は、倉庫業の共栄倉庫(大阪市淀川区)と提携し、倉庫保管、検品などを行う上海共栄泓明倉儲服務で検反業務を開始した。
各検査機関は高度な機能素材などの試験を除けば、ほぼ日本と同じ試験を中国でも実施できる。ボーケンは抗菌試験の体制を強化。日本のSEKマークだけでなく、中国国内でも通用する「CIAA」マークを発行できる。今春からは提携先の上海出入境検験検疫局が持つ「CNAS」(中国実験室国家認可)に準拠させることで「より精度の高い認定となる」(岡田俊朗理事)。
検査も日本向けだけではなく、中国内販向けの対応も増えている。伊藤忠ファッションシステムの上海現地法人、上海中紡伊紡織技術検験服務(IFST)は昨年、「CMA」(中国計量認証)を取得、すでに取得済みのCNASと併せて日本、中国、欧米のすべての市場に対応できる体制が整った。日系の内販向けだけでなく「現地企業が活用するケースも増えてきた」(吉田功総経理)。現状試験の9割は日本向けだが、現地や欧米企業への対応を増やしていく考えだ。
各日系検査機関の試験料金は「競争が激しことから、意外に現地検査機関とあまり変わらない」(同)こともあり、現地や欧米企業からの試験依頼は増加しそうだ。他の検査機関も、提携先が持つCMA、CNASを通じて、内販品への試験に対応する動きを見せる。
検査以外のサービスを充実させる動きも強まっている。日本化学繊維検査協会(カケン)の中国拠点である上海科懇服装検験修整は、品質や安全衛生・健康、経営管理の一定水準を満たす「CSM2000」(独TUV社が認証する総合管理システム)の認証を生かし、製造から販売までの過程で日本や中国の異なる市場に対しても統一的な標準で品質を管理できる“企業標準”の申請代行などの業務を行う。
QTECは日本国内で行っていた検品会社などへの指導・認証業務の依頼が増加。日系企業だけでなくローカル企業も含めた35社に対し、縫製や検品工場のシステムの効率化や作業環境の改善、検品技術の向上などを目指し、工場全体のレベルを高める指導を推進する。
ニッセンケンも検査で不合格が出た時、技術者を派遣し、その原因究明や改善指導を行うなど「密着したサービスの徹底」(駒田展大常務理事)に努める。
厳しい安全基準/日系内販の“なれ”懸念
中国政府は世界貿易機関(WTO)加盟後、繊維製品の安全基準値について明確な基準を設け、国際社会への責任を果たす姿勢を強めてきた。そのため2005年1月から国際基準「エコテックス規格100」を基にした繊維品基本安全技術要求「GB18401―2003」の運用が始まり、輸出入品、内販品に対する抜き取り試験などを強化している。ただ、問題は「日本の基準に比べ細かく、厳しい」(駒田ニッセンケン常務理事)点だ。
例えばpHの場合、日本や欧米であまり基準の対象になっていないこともあり「昨年、(輸入出品の)抜き取り検査で不合格の30~40%がpHで引っ掛かった」(岡田ボーケン理事)。上海のみの輸出入品の検査で見ると、昨年2000件以上の不合格があり、そのうち7割が輸出品だったという。
現状では「日本製の不合格率は低い」(同)一方で、「ルイ・ヴィトン」や「シャネル」「バーバリー」など、欧米の高級ブランドの不合格が目立っている。「中国政府は国産品の保護のため、欧州のブランドに対しチェックを厳格にしている」(イタリアの報道)との反発もあるが、国産品も高級ゾーンを中心に不合格になるケースが多く「中国アパレルは真面目に検査に取り組む姿勢を見せてきている」(検査機関関係者)と、国際化への意識向上といった効果が徐々に出始めているようだ。
とはいえ、中国の繊維品基本安全技術要求をしっかり満たす検査となれば「膨大なコストと時間が掛かる」のも事実。日系企業のなかには中国市場での小売りに、ある程度の“なれ”ができ始めた企業も少なくない。「検査を多少疎かにしても、日本企業の商品だから心配ないという油断が一番怖い」と注意を促す声もある。