ベトナム特集・商社編/縫製拠点として一段と高まる存在感

2007年02月26日 (月曜日)

 ベトナムの繊維産業は日本市場のみならず欧州、米国など海外に向けたアパレル製品の縫製拠点として確固たる地位を築いてきた。商社のアパレル製品OEM(相手先ブランドによる生産)事業の対日ビジネスでは、華東地域を中心とした中国沿岸部に生産が集中、人民元高や賃金上昇など生産の一極集中リスクが高まっている。そのためベトナムは「中国プラスワン」の筆頭候補の生産拠点として、この1~2年再び脚光を浴びだした。2006年の対日縫製品輸出は前年比3%増の6億2000万ドルとなり、3年連続で増勢を保つ。原料、素材を海外から調達しなければならない課題についても韓国、台湾の素材メーカーが進出し、定番品から徐々に現地調達が増えてきた。ベトナムに事務所を構え、独資工場、現地の協力工場を活用して製品事業を進める日系商社の次の一手を探る。

伊藤忠商事/目利き人材育成へ

 伊藤忠商事のホーチミン事務所は、ベトナムを生産拠点とするアパレル製品ビジネスで、取り扱いアイテム拡大の一環として世界に向けたスーツ生産を計画、海外向け製品ビジネスの取り扱い比率を50%に高めることを目指す。

 「海外向け製品ビジネスに力を入れていくことははっきりしている。将来的には対日と三国向けで半分ずつくらいの比率にしたい」とホーチミン事務所の小林宗太郎所長兼繊維グループ部長は07年度以降の展望を語る。

 新年度は三国向けの製品ビジネスで、シャツ、パンツを中心としてきたメンズ分野のアイテム拡大が最大のポイントとなる。

 そのため新たな方向として香港を拠点とするプロミネントアパレル(PAL)との連携で、欧米向けを中心に世界市場へのスーツ生産を計画する。岡林茂繊維グループ部長代行は「手先の器用なワーカーが多いベトナムはスーツの生産に向いている」とベトナム生産の適性に太鼓判を押す。

 現地で検品も含めた生産管理体制が整ってきたなか、今後は「素材や副資材を見極めてコントロールできる人材を拡充すること」(岡林代行)が大きな課題となる。現地スタッフに対する人材育成に力を入れることにより、工程の多いスーツ生産などでとくに重要になるアッセンブリー機能の強化を図る。

NI帝人商事/三国向け数量40%へ

 NI帝人商事のホーチミン事務所は07年、主力の対日製品の取り扱いから欧米市場を中心とした三国向け製品に軸足をシフトする。具体的には対日以外の製品OEMの取り扱い比率を数量で40%超まで高めることを目標とする。「米国向けはハイリスク、ハイリターンの傾向が強いが、大きな流れで見たときに、これからは三国向け製品の取り扱いを増やさなければ、ベトナム事務所の存在価値は薄れる」と、三宅孝治ホーチミン、ハノイ事務所長はベトナム事務所の機能を説明する。

 そのため今年は経験を積んだスキルの高い現地スタッフを三国向けの担当者として積極的に配置するなど、組織と人材を動かして「三国向け製品を増やす体制に切り替える」(三宅所長)。国内の製品OEM事業が収益的に厳しい状況を迎えるなか、06年の取扱高は15%増と大幅に増加したが、07年は三国向けのビジネスの拡大で20%増の成長を目標とする。

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 NI帝人商事が全額出資する縫製工場「ファッションフォースNO・1ファクトリー」は07年、大手スポーツブランドへの1社依存からの脱却を目指す。

 同社の06年の縫製品取り扱いの内訳は主力の海外大手スポーツブランド向けが60~70%、日本市場向けが15~20%、ロシア新興アパレル向けの中わたを使ったアウターなどが15~20%を占める。

 「大手スポーツブランド向けを5割以下に抑えていく」と尾本道生社長は今年、1社のビジネスに極端に依存する現状を改める。コスト上昇や人手不足など中国生産の制約が強まり、日本アパレルのベトナム生産志向が高まるなか、パンツやジャケットなど日本市場向け製品ビジネスで全体の3分の1以上を確保する。また、香港の現地法人日岩帝人商事香港経由の三国向け製品ビジネスと合わせた比率を60~70%にまで高め、対日、対欧米ビジネスの拡大で生産のバランスを図る。

野村貿易/タンホアに新工場

 野村貿易はベトナムにユニフォームの新工場を建設する。8月から操業を開始する予定で、これによりワーキングウエア需要の増大に応える。

 永谷孝広アパレル事業部マテリアル・ユニフォーム部長によると、新工場「野村タンホア」は野村貿易全額出資で、首都ハノイの南部150キロメートルのタンホア省に設ける。最終的には従業員1500人で年間150万点のワーキングウエア生産を目指す。タンホアはハノイの2倍に当たる344万人の人口を抱え、労働力確保が容易であることから建設を決めた。

 野村貿易のユニフォーム(ワーキング、オフィス)事業は年間50億円規模で、生産構成比は中国70%、ベトナム30%。それぞれ素材調達から製品化まで一貫して行っているのが特徴だ。

 ベトナムでは中国製品よりも一格上の商品生産を狙い、1995年にハイフォンに日越合弁の「野村フォトランコ」(野村貿易70%出資)を設立、97年から操業を始めた。現在、分工場を合わせ1000人の従業員で、ワーキングウエア年間100万点を生産している。南部カントーにも専属工場(年産20万点)を抱えるが、これら工場がフル稼働にあり、新工場建設を決めた。

 中国でも南通に出資工場があり、3月には新工場「野村徳利制衣有限公司」を大連近郊の皮口に建設、ユニフォームの紳士・婦人スーツ生産を計画している。

丸紅/欧米、中国拠点と連携

 丸紅の2006年のベトナム繊維事業の取扱高は前年比15~20%伸びた。07年の目標について、繊維部門から現地に駐在する丸紅繊維亜太(MTA=本社香港)ホーチミン事務所の菊池博史所長は「20~25%伸ばしたい」と一段と拡大を図る。

 今年設立10年目を迎えた対日ユニフォーム生産の基幹工場「ワンダフル・サイゴン・ガーメント」で米国向けカジュアルパンツ生産が軌道に乗るなど、同社では三国向けアパレル製品ビジネスで取り扱いアイテムが拡大してきたことに自信を深めている。

 「主力の日本向けユニフォーム、シャツは今後も力を入れて着実に伸ばすが、伸び率では三国向けがそれを上回るペースになる」と菊池所長は意欲を見せる。昨年10月に有力シャツ縫製メーカーのベッテン(VIETTIEN)と、取り組み強化に関する覚書を結び、ホーチミンの紳士ドレスシャツ縫製工場で5年間の長期スペースを確保し、年間生産量250万枚を目指すことで合意したことも追い風になる。

 今後はニューヨーク支店やロンドン支店といった販売拠点に加え、素材調達機能を持つ丸紅繊維上海(MTS)、香港のMTAとの連携を強め、三国向けの製品ビジネスを急速に拡大する。

住金物産/対日アイテム広がる

 住金物産のベトナムの2つの事務所(ホーチミン、ハノイ)が取り扱うアパレル製品は全量日本向けのビジネスだ。この1~2年は作業服や学生服、学生向けのシャツなどユニフォーム関連分野を中心とした生産に加えて、セーターや子供服、和装の着物などアイテム的にも生産の広がりを見せる。2006年の取扱高は前年比20%増と大幅に増えた。韓国、台湾の素材メーカーの進出によって「現地での素材調達の選択肢が広がってきたことがアイテム拡大の要因の一つ」と両事務所の所長を兼務する山口耕慈所長は分析する。

 また、顧客アパレルの中国生産一極集中をリスクヘッジする意識が急速に高まっていることから、山口所長は駐在員事務所の役割として「OEM事業の成長を目指すとともに、ベトナム進出を計画する顧客アパレルへの情報提供や場所選定のサポートを充実させる」と日本企業の進出支援に従来以上に力を注ぐ方針だ。

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 住金物産全額出資の縫製工場「SBサイゴンファッション」(SBSF)は3年前から本格的に生産アイテムの方向を転換し、レディース分野のジャケットやコート、パンツ、スカート、ワンピースなど百貨店の店頭に並ぶ中高級ゾーンの布帛製品を生産、このビジネスが軌道に乗り、着実に取り扱いを拡大している。

 高い技術力と品質が背景にあるが、そのために日本人の技術担当者と生産管理担当者を常駐させて、ワーカーの技術向上と品質管理を徹底している。小ロット対応の発注が多いなか、それでも「大手量販店向け製品に対応していたときと比べて数量的に維持している」(小野信一社長)ことが、顧客アパレルの高い評価を物語る。

 同社は現在、第一工場と刺しゅうや加工を担当する第二工場を合わせて約800人の従業員を擁する。2007年はテト(旧正月)明けに人材を募集し、縫製ラインの15%増設を計画する。小野社長は「ワーカーのスキルアップと技術の伝承がポイント」と、技術力を基盤に高付加価値路線を追求するための課題を挙げる。

三井物産/ビナテックスと包括提携

 三井物産ライフスタイル事業本部のベトナム繊維ビジネスは、日本向け紳士服のスーツを数十万着規模で生産するなど、「ベトナム生産は激増ではないが、年々着実に増加している」(冨野哲夫アパレル事業部次長)。

 とくに東京を中心とするアパレルチームは「中国プラスワン」の視点からインドよりもベトナムを重視する。2006年の同社の対日OEM事業に占めるベトナム生産の比率は約20%で、07年は25%程度まで拡大する見込み。冨野次長は「ワーカーの質が高く、仕事が丁寧で商品のグレードも良い」とベトナム縫製の利点を挙げる。

 同社は昨年12月、全額外資による輸出・輸入・国内卸売権を併せ持つ商社として世界で初めて現地法人設立の特別認可を取得するなどベトナムとは関係が深い。繊維事業でも昨年、ベトナム繊維公団(ビナテックス)との包括提携を延長し、予定される将来の民営化後には資本参加も視野に入れる。

 「服飾資材や付属品などがどこまで現地で調達できるようになるかが、今後のカギを握る」と、冨野次長はベトナムにおける対日製品ビジネスのキーポイントを指摘する。

松村/フィールドは世界

 繊維原料と繊維製品製造卸の松村(京都市下京区)は、ベトナムを拠点に絹撚糸を生産管理している。

 同社のベトナム進出は、日本の絹糸輸入に関する規制が一部緩和された1997年までさかのぼる。それ以前の絹糸は「国家貿易品目」の一つで、行政が韓国や中国などの供給対象国と輸入総量を取り決めていた。

 他国の絹糸を買ってきて売るだけでは、品質や価格面での不安が常につきまとい、アフターケアができないし、責任が持てない。同社は信用を守るためにも、海外で絹撚糸を生産管理する必要性を感じていた。それだけに97年は、温めていたアイデアを実行に移す好機となった。

 ベトナムに目をつけたのは「人件費が安いだけでなく、手先が器用な国民性や、もともと養蚕業、製紙産業のインフラがあったから」(松永孝精専務)と言う。同社は(1)日本の伝統的な撚糸技術(2)欧州の最新鋭設備(3)ベトナム人労働者の勤勉さ――を結集すれば、高品質な絹撚糸が生産できると確信し、徹底的に指導した。この間に培った工場管理ノウハウを生かし、現在は欧州向けの販売も始まっている。