07春季総合特集・膨張する中国/自動車産業を狙え! 日系企業の動きを見る

2007年04月26日 (木曜日)

広がる自動車用繊維需要

 中国汽車(自動車)工業協会によると、2006年の中国での自動車生産台数は前年比27・3%増の727万9700台、新車の国内販売台数は25・1%増の721万6000台へとそれぞれ大幅に伸びた。生産台数は、ドイツを抜き、日本の1148万4000台(前年比6・3%増)に次ぐ世界第3位となった。販売台数は、日本の573万9000台(1・9%減)を抜いて、米国に次ぐ世界第2位に浮上した。この急成長と市場の変化が、自動車用繊維資材需要を拡大する。中国に進出した日系企業にその動きを見る。

新車販売台数世界2位/生産台数は3位に浮上

 中国の自動車市場は04年後半から鈍化していたが、一気に大幅な増加に転じた。自動車業界の全体利潤は04年、05年にはそれぞれ前年比5%減、24%減と後退を続けていたが、06年には生産・販売量の伸び率を上回る前年比46%増の768億元(完成車、部品、自動二輪を含む)に回復した。

 06年自動車生産のうち乗用車は523万台(33%増)、販売は518万台(30%増)。乗用車のうちセダンタイプの生産は39%増の387万台、販売は37%増の388万台に上った。とくに排気量1~1・6リットル級のエコノミーカー、コンパクトカーは販売の半分以上に達した。この部分が全体のけん引役となった。商用車は、生産205万台(15%増)、販売204万台(14%増)で、生産・販売ともに世界一だった。

 自動車の輸出は98%増の34万2400台、輸入は41%増の22万8000台。

 同協会は、07年の中国自動車生産が850万台に達すると予測している。その内訳は、乗用車630万台、商用車220万台。1~3月の生産実績は219万2800台(前年同期比23%増)、販売実績は212万5700台(同22%増)であり、実現の可能性は高い。2010年には1200万~1500万台との生産予想も出てきた。

カーシート地/小型化、繊維素材に好機

 中・大型車から小型・コンパクト車への流れと関連して、カーシート地での変化がとくに注目される。中国では従来、天然皮革が主流だった。中・大型車に乗るユーザーのし好やステータスに加えて、双方の価格差が日本のようには大きくないことが、天然皮革を主流にしていた。

 しかし、個人向けの小型・コンパクト車となると、価格とコンセプトの面から天然皮革では対応できなくなり、ポリエステル長繊維による編み物や織物が主体となる。

 中国でカーシート地を生産している企業は20数社あると見られる。海外から進出しているのは、日系数社と韓国のコーロン系とイルジョン(現代グループ)だ。低価格の裾野分野で繊維への素材転換が進んでも日系のカーシート地メーカーではコスト面で対応が難しいこと、逆に日系自動車メーカーは日本基準での仕様や納期を求めていることから、日系カーシート地メーカーの最終仕向け先はやはり日系自動車メーカーが主力となる。

 川島織物セルコンは、カーシート関係の3社を上海市に持つ。上海申達川島織物(青浦区)、上海申達川島染整(嘉定区)、川島織物〈上海〉(同)だ。同社(当時は川島織物)は、日系自動車メーカーがまだ進出していなかった1990年半ばに、いち早く中国に出た。

 上海申達川島織物は、カーシート地用のドビーモケットやジャカードモケット、ドビー織物、ジャカード織物などの先染め織物の織布と加工を主に担う。95年10月の設立で、資本金553万ドル(川島織物セルコン50%、上海申達50%)。99年にGMの「ビュィック」に納品したのを始め、日系、欧米系を含む多様な自動車メーカーに採用されている。

 上海申達川島染整は、2005年4月設立で、資本金364万ドル(川島織物セルコン50%、上海新紡聯汽車内飾50%)。同年7月に量産を開始した。月120トンの糸染め能力と70トンの撚糸能力を持つ。染め糸の実生産は月100~120トンで推移している。上海申達川島織物に加えて、米国への供給も始めた。

 川島織物〈上海〉は02年3月設立の新鋭工場で、資本金35億円(川島織物セルコン100%出資)。トリコット編み立てから、織物を含む後染め・仕上げ加工、プリント、ラミネート加工、裁断、縫製までを含むカーシート地の生産・加工工場だ。「このような一貫工場は日本にはなく、世界でも見当たらない」と八重俊彦総経理は語る。月産能力はトリコットの編み立てが15万メートル、後染め加工が30万メートル、縫製が5000台。

正式採用され生産本格化

 セーレンは、中国国内でのカントリーリスクを軽減するため、セーレンU.S.Aの100%子会社(資本金1000万ドル)として世聯汽車内飾〈蘇州〉を蘇州市新区に02年に設立した。カーシート地の生産(年産能力85万8000メートル)とエアバッグ縫製(同120万セット)を同社は行っている。中国での自動車産業の著しい発展に伴い、より高級なカーシート地が求められることを予想して進出した。トリコット、丸編みなどが主力。

 日系自動車メーカーに正式採用されたカーシート地の納品が始まるため、生産は今年から本格化する。「売り上げで倍増、利益で10倍増」(川田達男セーレン社長)を期待。同時に、8月に日本で立ち上げるLNセンターでは、天然皮革志向の強い中国への本革での対応も図る。

 トヨタ紡織は04年7月、浙江省寧波市に寧波豊田紡汽車部件を設立し、カーシート地の製造販売を始めた。

 住江織物は05年9月、カーシート地の染色加工を行う住江互太〈広州〉汽車繊維製品を広東省広州市南沙区に設立し、06年1月に営業を開始した。資本金500万ドルで、住江織物55%、香港のパシフィックテキスタイルホールディング33%、丸紅12%の出資。

 (1)日系、欧米系自動車メーカーの中国進出に対する現地供給責任体制を構築する(2)日本のシートメーカーの中国進出による持ち返りビジネスに対応する(3)グローバル生産車種に対し、中国における重要な生産拠点として位置づける――ことを図る。

 ポリエステル長繊維100%の丸編みとトリコットを、月10万~15万メートル染色加工する。素材は、中国やタイの日系メーカーの糸が中心。原糸や生機の調達は丸紅繊維〈上海〉が当たっている。日系自動車メーカーの08年の新車への採用が決まっているため、今年後半から来年前半にかけて月30万メートルに生産量を上げていく構えだ。

グループ力を結集

 帝人グループは、カーシート地の染色加工を行う帝人汽車用布加工〈南通〉を、江蘇省・南通市経済技術開発区の南通帝人の敷地内に05年12月に設立した。資本金5000万元で、帝人ファイバー80%、豊田通商20%の出資。染色後加工設備一式を持ち、月産加工能力は18万メートル。06年10月から商業生産を始めた。販売は主として豊田通商〈中国〉が担当する。

 中村正一総経理によると、採用車種の生産開始に対応して今年5月から、月産5万~6万メートル規模でカーシート用トリコットの染色加工を本格化する。

 品質を重視して帝人グループのTPL(タイ)およびTIFICO(インドネシア)の原糸と、帝人加工糸〈南通〉の加工糸を使い、編み立てはトリコットメーカー2、3社に外注。染色と後加工を同社で行う。

 引き続き、帝人加工糸〈南通〉の編み立てによる丸編み生地の一貫染色加工に進み、将来的には織物も手掛ける。増設に対応できるよう工場は余裕を持って設計されているが、需要の拡大と品質の安定を図りながら、生産拡大には手堅く臨む。08年の月産10万メートルを経て、09年の18万メートルでのフル稼働を想定する。

 東レグループの合繊メーカー、東麗合成繊維〈南通〉(略称TFNL)は、カーシート地用のポリエステル長繊維糸販売を強化する。

 TFNLの同糸年産量は5万5000トン。三木憲一郎董事によると現在、非衣料用が3割強を占める。カーシート地用は全体の2割強であり、非衣料用の主力を形成している。同社は、この比率を3割近くにまで高めようとしている。同時に、自動車のモデルチェンジなどに伴う不採用リスクを避けるため、カーシート地用途への3~4割までもの高い集中は避ける。

 販売先は日系のカーシート地メーカーが中心だが、中国の生地メーカー向けも、上海近郊から各地へ広がってきた。ローカルメーカーは約20社あるが、TFNLでは、同社の糸質を正当に評価し、適正な価格を受け入れる相手に売る――という方針を貫く。

 中国のポリエステル長繊維メーカーの、カーシート地用の糸質も向上してきた。このため、TFNLは、さらにきめ細かい商品対応と差別化織物に応じた特品化を目指す。同社はグループ企業である東麗酒伊織染〈南通〉や中国の大手ニットメーカーなどの外注企業と連携して、客のニーズがあれば生機による納品にも糸売りの一環として対応できる体制も採る。

カーペット/日系自動車向け主力に拡大

 上海申陽藤汽車紡織内飾件(上海SSI)は、ニードルパンチ不織布内装材の供給を目的として、95年12月に設立され、97年5月に操業を始めた。当初の資本金は600万ドルで、04年に900万ドルへ増資した。出資比率は上海汽車地毯総廠30%、サンケミカル40%、伊藤忠商事グループ30%。

 伊藤忠繊維貿易〈中国〉の大崎剛副総経理・営業第二部部長によれば、創業当時は日系自動車メーカーがまだ中国に進出する前であり、苦しい時期が続いた。しかし、日系メーカーの相次ぐ中国進出に伴い、中国で調達できる日系ニードルパンチへの信頼から需要が急速に拡大して業績もよくなった。現在では、4工場合わせて年産能力950万平方メートルに拡大し、フル操業を続けている。フロアカーペット中心にトランク材などに使われる。

 原料は特殊なものを除いては、中国産のポリエステル原着わたが中心。製品はほぼ全量中国内販であり、日系自動車メーカー向け中心の成形メーカーに販売している。

 伊藤忠商事はさらに、自動車内装材メーカーである寿屋フロンテと広東省に自動車内装部品の生産会社、広州寿藤汽車配件を03年に設立、04年6月にニードルパンチ不織布によるフロアカーペットの成形を始めた。資本金は350万ドルで、出資比率は寿屋フロンテ60%、伊藤忠40%。

 上海豊虎汽車地毯は、高級車に対応するタフトカーペットを製造する。資本金64万ドルで、長谷虎紡績60%・豊田通商40%出資による。同社は、04年に設立し、05年に生産を開始した。中国でも高級車の生産が始まる時期に当たり、タイミングが良かったと、長谷篤治総経理(非常勤)は振り返る。

 同社は、タフトカーペット製造ライン一式を持ち、年産能力は二直体制前提に250万メートル(60万台分に相当)。現在の実生産は一直体制で60万メートル。中国での高級車生産の今後の増加に柔軟に対応できる態勢をとる。タフトカーペット用の基布であるスパンボンド不織布はタイのタスコ社から輸入し、パイル用の原着BCFナイロン糸は中国国内メーカーから調達している。

 丸紅繊維〈上海〉の与田卓哉総経理は、先に見たような住江織物と進めているカーシート地事業に加えて、カーカーペット分野の拡大も構想する。

エアバッグ/助手席採用で需要増期待

 規制強化に伴い中国では、乗用車運転席のエアバッグ装着が標準化しており、今後、乗用車の助手席や窓、商用車への装着が期待される。それに伴って、エアバッグ用の基布や袋体縫製などの需要拡大が見込まれている。

 トヨタグループの一員として、カーシート地、カーペット、副資材、エアバッグ袋体など多彩な自動車用繊維資材に関係している豊田通商〈上海〉繊維資材部も、今後とくに拡大できる分野としてエアバッグに期待する。同社は基布を調達して、関係会社などで縫製、日本と中国のエアバッグアセンブラーに供給している。

 セーレンの世聯汽車内飾〈蘇州〉は生機を調達して、縫製までをこなす。

 石川県の織布企業、丸井織物は東レとその中国事業統括会社、東麗〈中国〉投資(TCH)とともに丸井織物〈南通〉を04年4月、江蘇省南通に設立した(資本金6億3000万円、丸井織物80・5%、TCH19・5%)。

 丸井織物〈南通〉は、タイ・トーレ・シンセティックス(TTS)の生産するナイロン66長繊維糸を使ってエアバッグ布を製織。現在織機10台で月産10万メートルのフル操業の状況にある。今夏には生産能力の不足が必至であり、増設が課題となっている。

 日本のエアバッグ素材事業を東レと二分している東洋紡は対照的に、中国への生産拠点進出には慎重な姿勢をみせ、日本とタイからの供給に現在はとどめている。